第26話

「中火で加熱、沸騰したらごはん、さらに加熱……ふむふむ……」


降旗の話だと、ごはんは5時間目と6時間目の授業で使った余りがあるみたいだ。

それを活用するらしい。


「なんか他に手伝えることあるか?」


「大丈夫。もう少しでできあがるから、それまでゆっくりしてて」


……いや、何かしてないと周りの視線にやられそうなんだが。

超絶美少女の降旗と普段一緒にいるだけで目の敵にされてる俺だ。

降旗と仲良くクッキングしてるところを、他の男子諸君にみつかったら非常にマズイ。

調理科が女子オンリーなのは俺にとっちゃ好都合だった。

ギャラリー化した女子達がこっちを見てて、かなり落ち着かないけどな……。


「よし。ごはんが柔らかくなってきたら、中火にして溶きほぐした卵を回し入れるっと」


回し入れた卵をおたまで軽く混ぜると、全体に卵がふわふわっと広がる。

ここまでくれば、完成まであと少しというところだろう。


「全体を混ぜて加熱、卵が固まったら……」


「固まったら?」


「それで完成。あとは博也が、歩美ちゃんのとこに持っていくだけだよ」


マジで大切に持っていかないとだな。

途中でこぼしたり落っことしたりしたら降旗に怒られそうだ。

ここまでさせておいて、俺のしくじりでたまご雑炊を台無しにしたら、一生口聞いてくれなくなりそう。


「はい。早く持っていってあげて。ごはんは出来立てが一番おいしいって言うでしょ」


降旗がたまご雑炊の入った鍋を差し出す。中身が冷めないように蓋を被せてくれた。


「そ、そうだな……ありがとう」


降旗に礼を述べて調理室を後にする。

学校から自宅が近くて助かった。

中身の入った鍋を運ぶには歩きが最適だ。

自転車だとガタガタ揺れて、溢れるのが目に見えてるからな。


(そーっと、そーっと……)


鍋を両手で持って帰り道を歩く。

近いとは言ってもすごく近いって距離でもないから、腕が相当疲れそうだ。

ほんとうに慎重に運ばないと、ついうっかりがあるかもしれない。

子供の急な飛び出し、そこらの犬の威嚇攻撃、他人との接触、何かにつまずいて転ぶ、考えられる危険が次々と思い浮かんだ。

こういうときに限って思わぬアクシデントが起こったりするものだからなぁ……例えば、突然人に話しかけられるとか。

———まあ無いか。

鍋を大事そうに持ってのそのそと歩く高校生に近付く者などいないだろう。

中身をぶちまけられでもしたらかなわんからな。

そんなこんなと色々考えている内に、だいたい半分というところまで進んできていた。

このまま無事にたどり着ければいいのだが。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る