第25話


「それで調理科に出向いたわけか」


「ああ。降旗特製のおかゆを歩美に届けようと思うんだ」


現在、調理室にて降旗と同じ時間を共にしている。

周りの女子達は隅っこの調理台にいる俺と降旗に揃って視線を向けていて、やたらと注目されていた。

どうやらこの科には男など皆無なようだ。

女子校に通う女子のように、男子が物珍しいのかもしれない。


「あたしが作るの前提なんだ。まあ、歩美ちゃんのためなら苦労は惜しまないけど」


「てことは作ってくれるんだな」


「作るのは吝かじゃないよ。問題は食材をどうするかだけど……」


食材か。そりゃあたりまえだよな……学校内のコンビニで米や梅干しくらい買ってくるべきだった。


「食材って何が必要だ?言ってくれたらそこまでダッシュで買ってくる」


「待って。レシピ本によると、ここにある食材だけで事足りそう」


降旗は手近にあったレシピ本を見て、必要な食材や調理器具の準備に取り掛かっていた。

今更だが、授業で使ってる調理室を勝手に使って大丈夫なのか……?


「ただのおかゆじゃ味気ないし、たまご雑炊とかどう?」


「俺にはおかゆと雑炊の違いがまったくわからない。降旗に任せる」


「ならたまご雑炊でいいよね。——えっと、まずは……博也、卵かき混ぜといて。それくらいならできるでしょ。あたしは他のことするから」


非常に辛辣な物言いだが、助力してもらっている身では何も言い返せない。

指示されたとおり、調理台に用意されたボウルに卵をひとつ割り入れ箸でかき混ぜる。

三角巾とエプロンを身に纏った降旗というのは中々新鮮だ。


「薄口と白だしと……あとみりんか」


降旗は水といくつかの調味料を鍋に次々と投入していく。

ちょくちょくレシピ本を確認しながらの調理は、慣れてない感じでちょっとほっこりする。

こんなこと声に出したら『博也のくせに生意気』とか言われるんだろうけど。


「……なあに、その人を馬鹿にしたようなにやけ顔。博也のくせに生意気」


「いや、別になにも。続けて続けて」


「大方『降旗、レシピ見ながらしか作れないんだ。だっせー』とでも思ってるんでしょ」


一部は当たっているが、さすがの俺もとか酷い言い方しないわ。

少しの親近感を抱くくらいはしたが。


「安心してくれ。俺はレシピ見ながらでも作れる自信無いぞ。——ほら、あれだ。説明書があってもプラモデルが作れないあの現象に似てるよな」


「博也って、ほんとーになに言ってるのかわかんないときあるよね」


「まあ、つまりだな。レシピ確認するだけでなんでも形にできるんだからすげーよなってことが言いたかったんだよ。俺なら無理だ。説明書読むのもだるい」


俺はゲームソフト買っても説明書とか読まないタイプなんだよ。

コントローラーいじりまくって、徐々に操作方法を覚えていくのがいつものスタイルだ。

説明書はゲームソフトに限らず何一つとして読んだことはない。

だから料理本だって読まないし、読んだって技量不足で作れやしないだろうなぁ。






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