第24話

今朝こんちょう、由々しき事態が発生した。

俺の完璧な幼馴染み様が風邪をひいて、学校をお休みすることになった。

勉学に家事に俺の世話と、なんでもそつなくこなす歩美が体調管理を怠るなどありえない。

考えられるとしたらストレスとか心の疲労だろうか?


「歩美、大丈夫かな……」


『私のことは大丈夫だから、博也は学校に行って』


そう歩美が言うから、言われるままに足を運んでみたが……やっぱり、あいつがいない学校ってのはどうも落ち着かない。

歩美が心配だ。上の空で、授業に集中なんかできねーよ。


「坂本さん今日お休みなんだね……博也君、一人で平気?」


「平気じゃねぇな。さっきの数学の授業、名指しされないようずっと祈ってたわ」


休んでる歩美のためにノートくらいキチンと書いておこうと思ってるが、果たして俺の汚い字を歩美が読めるかどうか。

まあ、なんでも難なくやってしまう歩美にはいらぬ心配か。


「次も博也君が苦手な授業だね」


「そもそも俺に得意な授業なんて一つも無ぇからなぁ……杉並、歩美の代わりにサポートのほどよろしく」


「えぇ……僕に坂本さんの代わりが務まるのかなぁ……」


隣の席には杉並がいるから孤独は感じちゃいないが……やはり俺の隣には歩美が居てくれないと不安に駆られる。

これまで美術の授業も普通教科も安心して受けていられたのは、歩美の存在が大きい。

やっぱりあいつは、俺にとって特別以上の大切な人なんだな。


「まさか……ちょうど坂本さんがお休みの日に博也君が名指しされるとは思わなかったよ……タイミング悪過ぎでしょ……」


「まあ、そう言ってくれるなよ杉並。ナイスサポートだったぞ」


杉並はほとほと疲れ果てた様子で、自らの机に顔を伏せてダウンしている。


「ナイスサポートっていうか、博也君が僕に教科書読むの押し付けただけだよね……」


そう。俺は教師に名指しされたまさにそのとき『先生、俺の代わりに杉並さんがやります』と言って、杉並に教科書を読むのを押し付けた。


「博也君がこんなに手の掛かる男の子だったとは……甘くみてた……毎日面倒見てる坂本さんはすごいなー……」


英語がほぼ読めない俺は、毎回毎回歩美に教科書にフリガナを振ってもらっている。

今日はその役目を杉並にやってもらったんだが、どうもてこずっていたようで中々時間がかかった。

頭の方はそんなによくないようだ。


「なあ、杉並」


「……んー、なあにー……?」


「おかゆとか作れたりする?」


風邪の定番つったらおかゆだ。

たまには俺が料理を作って歩美に食わせてやりたいと思ってる。

だが、いかんせん作り方がわからない。

そもそも料理初心者の俺が作るにはレベルが高い。

目玉焼きすらまともに作れない俺が作るよりは、誰か料理が上手いやつに作ってもらったほうがいい気がする。


「僕は基本買い食いだから、料理したことないんだー。降旗さんなら調理科だし作れそうだよね」


「それだ。降旗なら間違いない」


放課後にでも調理科に寄ってみよう。

女子ばかりの科だと聞いちゃいるが、美術デザイン科でもそれは変わらない。

多少浮くかもしれないが、放課後に調理科へ突入だ。








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