第23話
「いた、いたい、いてぇ……! 降旗さんよ、それで叩くのやめてほしいんだが」
「叩きやすい頭が近くにあったからつい」
「ついじゃねぇ。ついで人を叩きすぎだ」
嫌な予感は的中した。
降旗が俺の頭を矢継ぎ早にペシペシペシペシはたきやがる。マジでそれがお気に召したんだな。
「降旗さん、それ欲しいならあげるよ」
「いいなぁとはちょっと思ったけど……せっかく作ったのにもらっちゃって大丈夫なの?」
ちょっとじゃなくてすごくの間違いじゃないのか。
ハリセンに興味無かったら、人の頭何回も何回も叩いたりしないよな?
「いいよいいよ。ハリセンならいっぱい作ったから大量にあるんだー。ビスケットのお返しにあげるよ」
「ありがとう。ときどき博也でも叩きに遊びに来ようかな?」
「いや、来んなよ」
「あはは。ほどほどにしてあげてね……」
「杉並……俺はほどほどでもごめんだぞ」
ただ叩かれても、笑いでも起きなきゃ叩かれ損だからな。痛いだけだ。
「坂本さんもハリセンいる?」
「だ、だいじょうぶ。気軽に叩けるような相手いないから……」
確かに、歩美がハリセンで誰かをひっぱたく場面など容易に想像できるものではないな。
なんてったって歩美は人に対して優しく接し過ぎる。冗談でもありえないだろう。
「僕のことならいつでも叩いてくれていいんだよ。イライラしてる時とかそれで少しはストレス発散になるでしょ」
「いいのかよっ!? 杉並、おまえって結構ヤバいやつだったんだな」
こいつもしやドMではあるまいな……?
意味もなくハリセンで叩かれるのは、俺なら嫌だぞ。
「博也君があらぬ誤解をしてるっぽいから言うけど、僕はただ坂本さんとの仲をちょっとでも深めたくてそう提言しただけだからね」
「なんだよ……俺の早合点か。叩き放題だと思ったのにな」
ほっとしたような残念なような。
——しかし、歩美もまったく変わっていないわけじゃないから、そんなアホみたいな提言は不要だろう。
少し前までは杉並とメシを共にするなんてイージーなことすら及び腰だったんだ。
だが今日はどうだ。ちゃんと一緒の空間でメシが食えてる。
多少慣れてきてる証じゃないか。
言葉をかわした回数も多いとは言えないが、それなりに増えてきてる気がするけどな。
歩美は親しくなった相手のことを下の名前で呼ぶようになるからわかりやすくていい。
現在の『杉並さん』呼びから下の名前呼びに変わったときが、歩美が杉並に心を許した証明になる。
きっとそんな遠くない未来に実現するさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます