第15話

しかし量が多いな。ほんとうにどれだけ卵無駄にしたんだよ。練習無しに上達は難しいし仕方ないのかもしれないが。


「杏子ちゃん、もう一本フォークある?」


「あるにはあるけど……歩美ちゃんも食べるの?味の保証はできないよ」


「そんなもん俺に食わせるな……」


まあ不味くはないんだ。焦げてもいないし。

フォークで割ってみると半熟でとろとろ、それらは十分に評価できる。


俺が食い過ぎで苦しそうにしているのを察した歩美が、降旗から受け取ったフォークを使って食べるのを手伝い始めた。


「ありがとう、歩美。助かるわ」


「ううん、博也がおいしそうに食べてるから私も食べてみたくなっただけ」


「歩美ちゃんにまで残飯処理させちゃって悪いな。やっぱりあたしもたべよう」


「おまえフォーク何本持ってんだよ。つうか、最初から自分一人で食え」


デザイン棟は本来飲食禁止だ。

めちゃくちゃ目立ってるし、この現場を目撃した誰かが教師にチクりでもしたらキツイおしかりを受けるだろうな。

ここでの飲食など数知れないが、それでも今まで一度も露呈していない。

運が良かったのか、それとも、美術デザイン科の生徒が総じて心が広いのか。


「どうしたの?そんなにびくついちゃって」


「……降旗、おまえはもう少し周りを気にしような」


もしかしたら、この二人に囲まれてるから助かってるのかもしれないな。

誰だって、自分が好意を持っている相手が嫌な思いをするのは望んじゃいない筈だ。

俺のことが気に入らないでちくろうとすれば、歩美と降旗も道連れになる。

つまりだ、俺が一人で飲んだり食べたりしてたら秒でアウト。

すぐに教師がやってきて、デザイン棟4階の職員室に連行されるだろう。


「博也ってさ、絵のセンス無いのにどうしてデザイン科に入ったの?」


降旗が俺の描いてる作品を眺めて、率直な感想を言い放つ。

ついこの前も石膏像のデッサンを散々貶してくれたからな。何気に傷付いている自分がいる。


「絵のセンス無いとかストレート過ぎるわ。この先まだまだ長いんだから自信喪失させるようなこと言うなよ」


「それじゃ答えになってない。あたしは、なんでこの科に入ったのか理由を聞いてるんだけど?」


「いきなり過ぎる質問だったから、なんて答えりゃいいか考えてただけだ」


「お世辞にも絵が上手いとは言えないよね」


「めちゃくちゃ安直な決め方したんだよな。聞いて驚くなよ……?」


俺が美術デザイン科を選んで入学した理由は二つほどある。

絵が好きか嫌いかどうかは関係ない。

受験シーズンに、今更どうにもならないどうにもできない深刻な事情があったからだ。
























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