第16話


「安直って、どのくらい安直なの?」


「安直というか、あることに切実な問題があったというか」


歩美の口にしたってのが、まさに高校受験を指していて、中三の終わり頃自分のこれまで歩んで来た人生を深く後悔していた。


「実はな、俺ってさ義務教育九年間で真面目に勉強してたのが、小学二年生くらいまでなんだよ。うろ覚えだが、やってても小学三年生まで。つまりはさ、お前が転校してきた小学五年生の頃には、さっぱり勉強なんかしてなかったんだよな」


「それで受験近くに焦って勉強始めたんだけど、私が家庭教師代りになって色々教えても、とてもじゃないけど間に合わなくて」


そう。

なんてったって、義務教育六年間あまりの時間を自堕落に過ごして来たんだ。

受験が間近に迫るほとんど日にちの無い中で、俺をそれなりにできる子に変えるのは歩美でも難しかった。健闘はしたんだけどな。


「心底困り果てていた俺に、簡単に入れそうな高校を歩美が探してくれて、絵を描くだけで入れるっていうここを見つけた。それからはただひたすらにデッサン描きまくったよ。来る日も来る日も受験当日まで」


「博也、勉強から解放されてすごく嬉しかったみたい」


「基本のりんごから始めてレンガとかボールも書いたよな」


「うん。本番で何が来てもいいように、一通りなんでも描いたよね」


本番で出て来たのはブロックとその上に被さった布、さらにその上に乗ったどデカイすいかだった。

すいかのあの模様が難しくてな……実物見た時は終わったと思ったよ。

なんとかそれなりに形にできて、運良く受かったみたいだけど。


「歩美ちゃんに何でも頼ってる。小学校の頃からぜんっぜん変わってない。ばかじゃないの?」


「ああ。頼れる幼馴染みのおかげで助かったわ」


危うくどこの高校にも入れないで中卒が確定するところだった。

入学できたのは良かったが、俺の実力じゃ卒業できるか心配ではある。

クラスの連中は美術デザイン科を好んで選んだだけあって、どいつもこいつもレベルが高い。

俺に付き合うように入学した歩美が、なのは変えようもない事実だが。


「開き直ってるし……歩美ちゃんが美術デザイン科にいる理由はなんとなく予想が付くから聞かないでおくね」


「へ……う、うん」


降旗は俺と歩美の関係を十二分に理解してる。

歩美が俺の世話を焼く場面を、小学校時代から飽きるほど見てきたんだ。


『博也がちゃんと卒業できるか心配だから、私も一緒に入学することにした』


と言って、美術デザイン科に付いてきてくれた歩美には感謝しかない。

歩美の優秀な成績なら、どんな高校にだって入れたのに。








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