第13話

歩美が教室に帰って来たのは、午後の授業が始まる十分くらい前だ。

降旗に会ってくるとだけ聞いていたが、昼飯は二人で食べていたのかもしれない。


「坂本さん、お弁当ありがとう。とってもおいしかったよ。今までどこに行ってたの?」


僕と友達になろうと言わんばかりに、杉並が積極的に歩美へ話しかける。

突然話しかけられた歩美は、ちょっとだけビクッと体を震わせて驚いていたが、


「杏子ちゃ……降旗さんとお昼ごはん食べてた。授業で茶碗蒸し作ったから一緒に食べようって誘われて……」


ゆっくりと口を開き、ちゃんと杉並の問いに答えていた。

これで相手の目を見て話せてたら、100点満点中50点はやってもよかった。今の返しは更に半分の25点くらいが妥当だろう。


「降旗さんって調理科の綺麗な人でしょ。それを言ったら、坂本さんも同じくらい神秘的で綺麗だけど」


「そ……そんなことない」


私は決して綺麗なんかじゃない。

と、降旗にはとても及ばないと否定の言葉を述べてから、歩美は自分の席へ着席した。

俺には歩美と降旗の美的レベルは拮抗して見えるんだけどな。謙遜しなくたっていいのに。


「歩美歩美、俺のぶんの茶碗蒸しとかあったりする?」


「……あ、うん。杏子ちゃんが博也にって。これやるからあとでモフらせろだって」


「モフらせろってのは、頭撫でさせろって意味でいいんだよな……?」


言葉の使い方間違ってねぇか?

と思ったが、俺より頭のいいやつに意見するとか無謀だわ。やめておこう。


「博也、茶碗蒸しもう一つもらってきてるから、これ杉並さんに渡してくれる?」


「何故自分で渡さない?さっきふつうに話せてたじゃん。より親密になるいい機会だぞ」


「博也は私を泣かせたいの?さっきのが精一杯。あれでも、無視したら杉並さんの気分悪くさせちゃうと思って頑張ったんだから」


「ま、たしかに頑張ってたよな」


それは十分に伝わってきた。歩美らしいよ。どんなに自分が辛かろうが、常に相手のことを第一に考えてるところとか。


「でしょ。だからこれ杉並さんに」


「仕方ねぇなあ。今回だけ特別だぞ」


俺は歩美の次回の健闘に期待して、そのささやかなお願いに応じることにした。



















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