第8話
早弁とは本来、昼休みになる前に弁当を搔っ食らうことを指すと思うのだが……ならば、俺が現在敢行しているこの行為は何にあてはまるのだろう。
早弁という言葉があるなら遅弁という言葉も存在するんじゃないか?
五時間目の授業中に俺が食ってるのは、弁当じゃなくてお菓子なわけだが。
「ほんとうに授業中食べるんだね。博也ってば大胆」
今が授業中なため、隣の席に座っている歩美が小声で話しかけてくる。
俺は、降旗がくれたチョコケーキを口いっぱいに頬張りながらも言葉を返した。
「おまへがふえっていったんはろ……」
「冗談で言っただけだよ。残さず食べてくれるなら別にうちに帰ってからでもよかった」
(それが、まったく冗談に聞こえなかったんだよなぁ……)
まあ、一度言った以上は必ず放課後までに完食してやるさ。
授業なんて俺にとっちゃ、あって無いようなもんだからな。
ノートならあとで歩美に貸してもらって写せばいいだけのこと。
有言実行ってやつだな。しらんけど。
「教師がチョークを黒板に走らせてる時が勝負だな」
五時間目が英語の授業で助かったぜ。万が一俺がケーキとドーナツをこっそり食ってるのが露見しようが、この人なら笑って許してくれるだろう。
「バレたらどうするの?前時代的かもしれないけど、普段温厚な先生でもバケツ持たせて廊下に立たせるくらいはするかも」
まったくもって悲しいことだが、自分が両手にバケツを持って廊下に立ってるビジョンが容易に浮かんでしまった。
俺が授業中に教科書もノートも広げずに、机の上に堂々とお菓子を広げている状態を見たのかは知らんが、後ろの席に座る連中の笑いをこらえている声が聞こえる。
俺の前の席がノッポ君で助かったぜ。彼のガッシリとした背中がうまい具合にお菓子達を教師から隠してくれている。
教科書を前方に広げてブツを隠すといったメジャーな方法を取る必要がないのが実にいい。
「バレないバレない。なんてったってここは窓際だしな。なにか悪さをするなら絶好のポジションだ」
まあ、後ろの席のやつらが、笑いを堪え切れなくなったりチクったりしたら一巻の終わりだが……。
「それより歩美、教師が教室内をうろちょろし始めたら教えてくれよ。さすがに接近されたらバレるのは時間の問題だ」
「わかった。こっそり教えるね」
ケーキもドーナツもどっちも美味いんだけど、段々と腹が窮屈になってきた。
こんなことなら、クラスの連中に配ってまわればよかったわ。
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