第5話
T
見た目が斧みたいな形をした、製図の授業で使う道具のことだ。
俺は武器みたいに見えるこいつが偉く気に入っている。なんかかっこよくね?デザインの授業は滅法嫌いだが、T定規だけは嫌いになれない自分がいる。不思議だ……。
「博也、製図の授業が嫌で現実逃避したい気持ちはわかるけど、そんなの振り回してると危ない人だと思われちゃうよ」
「そんなのとはなんだ、T定規君に失礼だろ。ちゃんと名前で呼んでやれ。こいつは俺の相棒、ひとよんでT坊だ」
「T坊ってことはそのT定規は男の子の設定なんだね。はいはい、それはわかったからデザイン棟に移動するよ。遅刻すると製図の先生うるさいの知ってるよね」
確かにあいつはうるさいな。
口髭と顎髭を整えて生やしている、ちょっと見たところ若く見える40代のおっさん教師だ。
なんか知らんが美術デザインに集ってる教師共はまんべんなくうるさいのが揃ってる気がするよ。
気が付けば、教室の中にいるのは俺と歩美だけになっていた。
別のクラスメイト共はとっくにデザイン棟に向かったようで、時計を確認してみれば授業開始まであと五分しかない。
ドラフターとかいう製図に使う道具がある製図室は3階だしな。ちぃと急がんとまずいか。
(……はあ。やっぱ製図の授業は一番嫌いだぜ)
このドラフターとやらの使い方も、バカな俺にとっちゃ相当難解だ。
隣の席にいる歩美は、そんな些細な悩みなど全く無さそうな手付きでドラフターを使い熟してるし、歩美に助けを求めようにも教師の目があるうちはそれも難しい。
美術デザイン科だけあって、それ系の授業は2時間ぶっ通し。
……あぁあ。ため息しかでねぇ。自分の嫌いな授業ってのはなんでこうも長く感じてしまうのかね。ついつい壁の時計に目が行っちまう。昼飯が待ち遠しいな。
「博也、これ……」
教師の目を盗んで、歩美が自分の進めていた課題を手渡してくる。
横からチラ見して、俺の作業スピードが大幅に遅れているのに目敏く気付いたのだろう。
どうやら、歩美が完成させたコレを俺にくれるらしい。
自分の分と俺の分、二人分の作業量を短時間で進めてしまう歩美は、やはり製図の成績もクラスで一番なのだった。
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