第4話
俺と歩美は学校から割と近い十二階建てのマンションの九階に住んでいる。近いから登校は歩き。ちなみに歩美の借りてる部屋は俺の住んでるとこの左隣。
高一になって一人暮らしをスタートさせたが、ほぼ二人暮らしみたいな生活をしている。
朝中々布団から抜け出せない俺には、歩美が目覚まし時計の代わりになってくれていて助かる。あいつが毎朝起こしに来てくれるから、今のところ遅刻は一回もしていない。
「上手にできたかわからないけど、とりあえずできた」
「すげぇ、紛うことなきボルシチだ……写真で見たのとまったく一緒……」
野菜がたっぷり入ってる。見た目はなんとなくスープカレーに似ているような……色は赤くてまったく違うけど。
なんにしても、米と一緒に食べたらめちゃくちゃ美味そうだ。
「うまい、思ったとおりだ。めちゃくちゃ美味い」
歩美の作る料理が不味かったことなど一度もないが、こりゃまた格別だな。
初めて食ったけどボルシチってこんな味だったのか。
「うん。まあまあ……なのかな。初めて作ったけど、上手くできてよかった」
歩美がボルシチを一口食べて手前味噌。
ちょっと待て……こいつ今、初めてとぬかしやがったか?
「なあ、こういう作んの難しそうな料理ってさ、普通最低一回は試しに作ってみるものじゃねぇの?」
「そうかな……?ネットとか本に作り方書いてあるし、その通りに作っただけだけど」
「そうは言うがおまえ、俺が覗き見してた限りじゃ、ネットも本も一度も見てなかったよな……」
実に慣れたお手前だった。
まるで何度か作ったことがあるかのように、少しも動きに無駄がない。
「以前、博也の補習に付き合ってた時、暇つぶしに教室にあった料理本をパラパラめくってたんだよね。その時に覚えたのかも」
ああ、あの時か。数学の補習、英語の補習、国語の補習、歴史の補習、さて、どれだろう?
補習なんざ、数えきれないほど受けてるからどの時だかわからんわ。
なんにしても、ボルシチのページをまじまじと見た訳でもあるまいよ。
さすがは才女。
使う食材や分量を、本をパラパラめくってただけで記憶したとかすげぇな。
俺がボルシチ食いたいと言い出すのを、その時から予見して手を打っておいたとか?
……まさかな。
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