第3話

あのあと、なんとか課題を終わらせて教師に提出し、めでたく俺と歩美は家路を歩いていた。


「課題、無事に終わってよかったね」


「あ、ああ……そう、だな……はは……」


まあ、言うまでもなく、ほとんど歩美の作品みたいなもんだ。

なんたって俺の描いた絵は、綺麗さっぱりネリゴムで消されて影も形もなくなってたんだからな。

レベルを数段落として描き直してもらった絵も、十分に上手かったわ。

教師に俺が描いたと信じてもらえたのが奇跡と感じるくらいに。

歩美の巧みなフォローが無かったら今頃どうなっていたか……。


「今日の晩御飯どうしようか?リクエストある?なんでもいいよ」


「なんでもいいよって、いつも口癖のように言ってるが、すげぇ自信だな。流石におまえでもなんでもは無理だろ」


「任せて。がんばる」


「つーか、バイトには行かなくてもいいのかよ。晩飯の話よりもバイト先へ直行した方がいいんじゃないか?」


「ああ、バイトなら学校のことで遅くなっちゃったから行けないって連絡したよ。博也、私がバイト終わるまでごはんお預けは嫌だよね」


「まあ、本音を言えばそうだが」


その場合カップラーメンという手段もあるのだが、あのお手軽な食べ物を俺は高校に入学してから今日まで一度も食べていない。

歩美はありがたいことに、毎日俺に朝昼夜と3食分の食事を用意してくれている。

なんでもいいとか自信たっぷりに言うから、いつもその時に食いたいものを思いのままに口にしているが、今のところ望んだ品が出てこなかった日は1度もない。

本当にこいつに作れない料理はないのか?たまには作るのが難しそうな料理名を言ってみて、困らせてみるのも悪くない。


「でしょ。それで、何が食べたいのかな?」


「なんでもいいんだろ。だったらボ——」


「ボルシチだね。ビーツとサワークリームならうちに合ったし、買い物には行かなくて大丈夫かな」


あれ、なんでまだ「ボ」しか言ってないのに料理名がわかったんだ?

勘?勘なのか?

たしかにボルシチって言おうとしてたけど、なんかこわい。


———つうか、なんでビーツとサワークリームなんて常備してんだよ。













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