第2話

「つうかおまえさ、今日はバイトに行かなきゃとか言ってなかったっけ。いいのかよ、こんなとこで油売ってて」


「心配ご無用。バイト先には遅れるって連絡入れておいたよ。博也ひろやの課題が片付くまでここにいるつもり」


「片付くまでって……見たらわかると思うが、完成までまだまだかかりそうなんだが?」


俺には絵の才能が皆無なのか、もう何度も何度も描き直ししている。

美術デザイン科に通う者は10点満点中1点から3点の点数を叩き出すと、紙のテストと同じく進級が危うくなるようで、毎日毎日地獄の日々を送っている。

美術デザイン科なんか好き好んで入るところじゃないな。デッサンの他にも、粘土やら製図やらいろいろとあるが、いかんせん俺は美術系がてんでダメでな、誰かのアシストが無いと完成させられる気がしない。


「鉛筆とスケッチブック貸して」


「お、おう……」


歩美がそんなことを言いだすので、俺は言われるがままに自分のスケッチブックを手渡した。

実はこいつ、ここの美術デザイン科には俺にあわせて入学しただけで、別段、絵が好きとか作り物が好きなわけではない。

だが、不思議なことに歩美はなんでもそつなく熟してしまう。

デッサンの描き方なんてどこで習ったの?と、つい口に出してしまいそうになるほど腕前がプロ並みなんだ。

その技量は教師も顔負けなレベルで、教師陣達から入学早々に一目置かれる存在となっていた。


「いつ見てもすごいな……」


俺の描いた間抜けな顔をした石膏像ブルータスの絵が、見る見るうちに、まるで写真のように鮮明に描かれていく。

これ提出したら、俺が描いたって信じてもらえるかな……?


「こんなんでどうかな? 博也のレベルにあわせて描いてみたつもりなんだけど……」


「いや……これ、どう考えても俺のレベルじゃねぇって」


俺の描いたブルータスは下手すぎて、最早アニメのキャラクターみたいな外見だったし、こんな今にもスケッチブックから飛び出して来そうな上手さじゃなかった。

もったいない……非常にもったいないが……。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る