【ギャグ】校門、クジラ、バンジージャンプ

「待ちなさい、君」


「え……私ですか?」


 転校初日。私は校門でジャージ姿の先生に止められた。


「その服装、校則違反だよね」


 まずい、きっと生活指導だ。

 どうしよう、いきなり内申が悪くなっちゃうなんて。


 なんとか言い訳しようと考えていた――次の瞬間!!


「バンジーーーーーーーッ!!」


「きゃあああぁぁぁぁっ!!」


 大声に驚いてると、いつのまにか私の体は宙に舞っていた。かと思うと、今度は地面とぶつかりそうなほど急降下する。

 あまりの恐怖に、私は目を閉じて思考を停止する。


「大丈夫だ、落ち着いて」


 後ろからの男子の声で目を開ける。

 やがて、私の体がゆっくりと校舎伝いに上がっていくことに気づく。


 そして……その男子に抱かれてることに、気づいた。


「いや! 離して! 離して下さい!」


「待て待て、もし離したら地面とキスしちゃうぞ」


 男子の指摘で私はハっとして、下を見た。身がすくむほどの高さがそこにあった。



  ◆



「危ないところだったな」


 窓から校舎に入ると、バンジージャンプをした男子が、ウインクをしながら言った。


「更に危ない目に会った気がします……」


 触られた感触がまだ胸に残っている。

 転校早々セクハラに遭うなんて、最悪だ。これなら生活指導のほうがマシだったかも。


 ……そういえば、私の制服のどこが校則違反だったのだろう?


「ウチの生活指導に捕まると厄介なんだよ、転校生さん。なんせ捕まったら、体で払わないといけないから」


「か、体で? セクハラじゃない!」


「もしくは技で」


「テクニシャンじゃない!」


「このまえ不純異性交遊で捕まった奴は、教材としてschooldays最終話を見せられていた」


「なんの教訓があるの?!」


「よし、だいぶ緊張がほぐれてきたな」


「全然ほぐれてないんだけど……」


 変な男子との会話が途切れたので、合間にあたりを見回す。


 ここは何の部屋だろう。応接セットに偉い人が座りそうな椅子。そして机の上の記名標には……裏生徒会会長?


「お、気がついたか。ここは裏生徒会。僕は会長だ。気づいたからには、メンバーになって貰おう」


「それより、私の胸を触って謝りもしないわけ?」


「すまないな、緊急事態だったんだ」


「緊急事態にしても、なんでバンジージャンプなの?」


「彼女お借りしますが好きだからだ」


「あれコーラの海に沈んでいくだけだよ?!」


 しかも結構地味だったし。

 だが会長は気にせず、メガネをくいっと上げた。


「結構。裏生徒会は、生徒会の手のひらから落ちて海に沈んだ生徒を救うための組織だからな。

 生徒会は校則を守る生徒しか助けない。だが我々は違う。まど☆マギの1話を見てマミさんのファンになった生徒も、4話を見てさやかちゃんのファンになった生徒も助けるのが裏生徒会だ」


「他にも助ける人いるでしょ……」


「もちろん、君のことも助けよう。君は今、クジラのことで困ってるだろう。わけあってクジラの話をしなければならないのに、話のつなげ方に困っている」


「いや、別に困ってないわ」


「ガイガーカウンターを持ったおじさんが訪ねてくるから家に入れてあげるんだ」


「がいがあかうんたぁ? 何それ?」


 クジラと何か関係があるのだろうか。


 よくわからんが、会長がウザい決めポーズをとっていることはわかった。

 会長はそのポーズのまま喋り出す。


「君のその服装、なにかわけありなんだろう? うちの学校と違う制服を着なければならない事情がある。さしずめ金銭的なものかな」


 制服が違う……?

 あ、ひょっとして……。


「裏生徒会は女子の制服も大量に所持している。遠慮せずに持っていくといい」


「あ、違います。これ、隣の学校の制服なんです。降りる駅一つ間違えちゃったみたい」


「な、なんだと……」


 落ち込む裏生徒会を尻目に、私は本当の学校へと歩き出した。そっちの学校では変な事件もなく、平凡な毎日をすごしている。



~ 完 ~

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