第35話 百合の三角関係!

<これまでのあらすじ>


 愛する妹の[ちいゆ]を思うと体が火照っちゃう! 

 そんなシスコン姉の[もみじ]だよー。

 

 五番勝負で二勝した百合ノ島!

 ここでわたしが勝てば島の支配権を奪おうとする“深紅の百合”に完全勝利だよー!

 

 その相手は白湯ぱいたんスープで中華そばを作るその名も[パイたん]。

 何と百合じゃないのに“深紅の百合”へ騙される形で入ったんだって!

 そんなパイたんだから、おドジさん大連発。

 

 先にラーメン作り終えたし、ちゃんと勝ちたいから手伝いに行ったの。

 おドジなズッコケで腕を怪我してるから後ろから抱きついて手取り足取りサポート!

 

 結局勝負は引き分け……。

 でも負けなかったからいいかな、ってパイたんがわたしに告ってきたー!?

 百合じゃないのに何でー?

 

 

   ♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀



「ちょっとパイたん、百合じゃないんでしょー?」


 それにパイたんが上目遣いでこちらを見ながらふたつの人差し指をツンツンさせる。


「う、うん、これまで女の人を好きになったコトなんてないにゃ……でも、何故かもみじには胸が苦しくなって、心がきゅんきゅんしちゃうにゃ……」


 これってもしかして、告られてるー?


「お姉ちゃ~ん……」


 ああっ! ちいゆが抱きついたまま涙を浮かべてこっち見てるー!

 人生初の告られ体験で頭ふわふわだけど、わたしにはちいゆしかいないの!


「あの、パイたん、わたしね――」

「何をそこでグズグズしておりますの!」


 ひぃっ! クレちゃんがずんずん近づいて来たー。


「ごめんなさいにゃ、クレちゃん!」


 すかさずパイたんが頭を下げた。


「あなたの中華そばで勝てないなんて~!! ぐぬぬ~!」

 

 めっちゃお怒りの様子なんですけど……ってパイたん!? 何でわたしの後ろに隠れるの!

 ひぃっ、お怒りクレちゃんの目がわたしに!


「あらあら、島祭りの屋台の方ですわね。つけ麺、美味でしたわよ」

「そ、その節はどうも……わたし、小池もみじっていいます」

「小池もみじさんですか、わたくしは……」

「クレちゃん、ですよね?」

「オホッ、オホホホホホ! あなた、わかっておりますわね。パイたんの中華そばと引き分けるなんて、もみたんのラーメンも相当じゃなくて?」


 “ちゃん”じゃなく“たん”付け。麺類作るひとはそうなるの? 基準がよくわからないんですけど……。


「いえいえ、あははは……」


 適当に愛想笑いしてたらクレちゃんの目がちいゆに向いた。


「そちらは? あの時一緒に働いてましたわよね」


 ちいゆの体がビクンと震える。


「あ、あたし、ちいゆといいます。もみじの……妹です」

「あら、あなた方、百合姉妹でしたのね。これまたポイントが高いですわ! オホホホホホ」

 

 何のポイントか意味わかんないんですけど……。

 でも百合姉妹ってはっきり言われると、気恥ずかしいっていうかデヘヘっていうか。

 はっ! そういえばちいゆもこれ聞いてるんだったー!


 恐る恐るちいゆを見ると、僅かに頬を赤くしてこちらを見上げていた。


「あたし達、百合姉妹なんだね……」


 ええ? 受け入れてる反応なんですけど! やった! やったやった! クレちゃんナイス!


「ところでパイたん!」


 わたしの背中に隠れていたパイたんがぴょんと跳ねた。


「な、何ですにゃ?」

「いつまで百合姉妹の後ろに隠れておりますの?」


 それにちいゆが「うふっ」と言ったような気がした。


「引き分けとはいえ罰ナシはいけませんわ。後でこのわたくしが百合の世界をじっくり教えてあげますことよ、オホホ」」


 クレちゃんが上唇を舐めると、上向きにした手の指先をいやらしくうねうねさせた。


「い、嫌ですにゃ!」

「ホ?」

「ウ、ウチ、百合教えられるなら、このもみじがいいにゃ!」


 ちょっ! パイたんー! 嬉しいんだけど、見て見て! クレちゃんの目がいっきにコワくなりましたよー!


「オホ、オホホ……わたくしよりそのもみたんがいいというのですか」

「クレちゃんは素敵ですけど愛がないです。もみじは優しくて愛があるですにゃ」

「愛? 愛とは体に快楽を与えるものでしょう」

「違うよぅ! お互い心から愛するのが愛だよぅ!」

「そうにゃ! ちいゆちゃんの言う通りにゃ!」


 ちいゆの言い分を後押しするのはいいんだけど、わたしの後ろから出てきてー、パイたん。

 

「オホッ、可愛い妹ですこと。わたくし、そういう百合をじわじわ体の快楽に染め上げてゆくのが何より大好きですのよ」


 そこでくわっとクレちゃんの目が開いた。


「まずはパイたん! あなたが先ですわよ!」


 ひぃっ! この百合こわっ!


 思いながら抱き着くちいゆの背中に両腕を回す。


「クレちゃん、いい加減にしてください」


 いつの間にかショートカットの眼鏡美人さんがクレちゃんの横に居た。


「何ですの、ドレちゃん。いまパイたんの処分で立て込んでおりますのよ」


 それにドレちゃんとかいう人の眉間に皺が寄った。


「もういいでしょう、パイたんは――」


 ここまで言ったドレちゃんがチラっとこちらを見るなり指先で眼鏡を押し上げた。


「小池もみじさんを愛してます。ここは百合ノ島に引き渡しましょう」


 え? ちょっと、何でこの百合わたしのフルネーム知ってるの?


「何を寝言を言っておりますの、“深紅の百合”は肉体の快楽こそが真の愛。パイたんにそれを教え込むなといいますの?」


 ドレちゃんの口がきつく結ばれた。


「クレちゃんは何もわかってません。本当の愛は――」

「そこー! 四回戦始めますよー! 聞いてるー?」


 司会の燕奈さんがこのグダグダを止めてくれたー! ありがとうございますー!


「ドレちゃん、四回戦はあなたが出なさい」


 え? 戦う方法がまだ決まってないのに?


「はい」


 即答してるしー! そういえばドレちゃんってクレちゃんの相方百合にして参謀っぽい感じだから、相当な実力者なのかも。


 そしてクレちゃんがと燕佐さんがそれぞれ手持ちの箱から紙を引き抜いた。


「“深紅の百合”が引いたのは、ババ抜き!……そして百合ノ島が引いたのは、おおーっと、これまたババ抜きだー!」


 ええー! わたしの時と同じ、また方法が被ったー? でも待って、これ相手の心を読むゲームでしょ。

 だったらこの島には神チート級の子がいるよー!


 百五十位の小さな身体、腰まで伸びた黒髪、涼やかな目。

 島長燕奈さんの妹にして相手の心を完全に読んじゃう燕華ちゃん登場ーーー!


 これは瞬時で完勝間違いなし! って、ちょっと待って。

 相手のドレちゃんもわたしのフルネームを知ってたのが気になるんですけど……。

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