第36話 心を読む百合同士の戦い

<これまでのあらすじ>


 何でわたしの[ちいゆ]はこんなにカワイイの!? 

 こんな妹が側にいたなら誰だって完璧シスコンになっちゃうよー!

 な[もみじ]でーす! 


 五番勝負で幸先よく二勝した百合ノ島だけど、わたしの勝負は引き分け。

 しかも対戦相手の[パイたん]がわたしに恋してしまう波乱!


 当然“深紅の百合”頂点のクレちゃんはご立腹。

 険悪な雰囲気になったところでクレちゃんの百合パートナー、ドレちゃんが仲裁に入ったの。


 でもクレちゃんは“深紅の百合”で一番偉いクセに幼稚だから、

「次の勝負はドレちゃん、あなたがやりなさい! オホホ!」

 と陰険な仕返しをする始末。


 勝負方法は“ババ抜き”に決定。

 となれば相手の心を読める最強の超能力者[燕華]ちゃんの出番だよー!

 

 でもドレちゃんもちょっとそれが気がかり、だってクレちゃんすら知らなかった、わたしの名前を知っていたから……。


 

 

   ♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀


 百合燕華(ゆりえんか)ちゃん、十六歳。

 島長燕佐さんと、そこで司会をしている燕奈さんの妹、そしてちいゆのお友達。

 小学生みたいに背が低くて、腰まで伸びた黒艶ロングヘアに涼やかな目をしたクール美少女!

 相手の心が読める一家だからほとんど会話しなかったのか、たどたどしいお喋りするんだけど、これがまたカワイイのー!


「燕華ちゃ~ん! ガンバだよ~!」

「勝つんやで、燕華ちゃん!」


 ちいゆといり子ちゃんも力いっぱいの声援。

 わたしも声援送っちゃうねー!


「頑張ってー、燕華ちゃーん!」


 すると近くにいたクレちゃんが鼻を鳴らした。


「ふん、小学生の運動会みたいですわね」

「クレちゃんは応援しないの?」

「するわけないですわ、わたくし率いる“深紅の百合”は応援など騒音にしか聞こえない程実力者揃いですの」


 その実力者で二敗してますが、とは言わなかった。


「と、ところであの百合さん、何でドレちゃんと呼ばれてるんですか?」

「ホホ、彼女の名は東洲斎ドレ美(とうしゅうさいどれみ)。なのでドレちゃん。そう呼ぶのが当然じゃありませんこと?」


 うう、何が当然なのかわからないんですけど。


「では“ババ抜き勝負”の先手を決めまーす! じゃんけんしてくださーい」


 司会の燕奈さんは指示を出した。

 燕華ちゃんとドレちゃんがじゃんけんを始める。

 ところがなかなか終わらない。

 意外過ぎるんですけど、なんで心を読める燕華ちゃんが勝てないの?

 っていうかドレちゃん、空いてる手でムッチャ眼鏡かけ直ししまくってるんですけど……。


「あの、クレちゃん」

「何ですの?」

「ドレちゃんって凄いんですか?」

「オホッ! あらやだっ、あなた顔に似合わず好き者ですわね。もう感度良過ぎで喘ぎますから、興奮したわたくしも百合テク全開で応戦しまくりですわ、オホホホ!」


 それじゃないんですけどっ!


「いえあの、このバトル的にというか……」

「オホ? 何です、それですか。まあドレちゃんは相手の心を……」


 そこで口に手を当ててしまった。


「あなた、顔の割にやりますわね。ますます気に入りましたわ」


 ひぃっ! 墓穴!


「あれれー? また“あいこ”だー!」


 これには燕奈さんも首を傾げ、両者背中を向けてのじゃんけんを指示する。

 結果はチョキを出した燕華ちゃんの勝ち。


 どんな手を使ったかわからないけど、ドレちゃんは向き合わないとスキル発動できないみたい。


 乳首当て勝負やイかさせる絶頂勝負とは違う地味勝負なせいか、世界中の百合から「五秒以内に手札を取って捨てる」という制限ルールの提案。

 それを採用したババ抜き勝負が始まった。


 先手の燕華ちゃんがドレちゃんの手札から一枚引き、ドレちゃんが眼鏡を押し上げてから燕華ちゃんの手札から一枚引く。


 心が読める燕華ちゃんは順番がくると同時に手札を引くけど、ドレちゃんは眼鏡を押し上げてから引いている。


 ふたり共完璧ポーカーフェイス。

 

 こうしてテーブルの上に積んであった引き札が半分近く減る。

 

 異変はそこで起こった。


「あなた、ふたりの姉が好きなのね」


 眼鏡を指で押し上げたドレちゃんがそう言って燕華さんから手札を引いた。


 ふたりの姉って、島長の燕佐さんと、そこで司会してる燕奈さんだよね?

 どっちも超美人さんだからそりゃ妹の燕華ちゃんも好きになっちゃうよー。

 って、燕華ちゃんが固まってる?


「燕華ちゃ~ん!」


 ちいゆの声に、燕華ちゃんが慌ててドレちゃんから手札を引いた。


「オホホ……まったくドレちゃんったら」

「ど、どういう意味ですか?」


 口に手を当て目を細めるクレちゃんに尋ねる。


「テーブルの引き札からババを引いてしまったのですわ。見たところ、あの可愛い小百合ちゃんも心を読む能力を持っているのでしょう?」

「その言い方だと、ドレちゃんも……」

「オホッ、面白いですわね。心を読めるもの同士の戦いなんてめったにお目に掛かれなくてよ。ただ同じ能力なら別な部分での勝負になりますわ」


 そうか、だからドレちゃん、心理的な揺さぶりをかけてきたんだ!


「燕佐、燕奈、どちらも大好きで迷っている」


 この揺さぶりに再び燕華ちゃんが固まる。


「四、三、二……」


 燕奈さんのカウントに引っ手繰るようドレちゃんから手札を引き抜いた。


 するとドレちゃんの口元に笑みが浮かんだ。

 対照的にショックの色が浮かぶ燕華ちゃんの目。

 

 ババ引いちゃったみたいだよー、あの揺さぶりのせいだ! 


「燕華ちゃーん! やられっぱなしはダメだよ、やりかえしちゃえー!」


 思わずこう叫んでしまった。

 それに燕華ちゃんがチラリとこちらを見た。

 そしてドレちゃんに向き直るとたどたどしい口調でこう言い返した。


「ク、クレちゃんが愛してるのは……わたしの体」


 ドレちゃんから笑みが消え、かわりに怒りがにじみ出た。


「裸の燕佐と燕奈の間に挟まれたい!」

「ク、クレちゃんに感じる体が、に、憎い!」

「燕佐と燕奈の指先でいじられたい!」

「こ、心もクレちゃんに、イ、イかされたい!」


 ひい! 言い合いながら手札を抜きあってる!

 心を読める者同士の壮絶な戦いだよー!


 そうこうしてる内にテーブルの引き札は無くなり、ドレちゃんは手札一枚、燕華ちゃんが手札二枚という状態になった。

 つまりババを持っているのは燕華ちゃん、ドレちゃんがババ以外を引けば勝ちだ。


「は~、は~」

「ふぃ~、ふぃ~」


 どっちも凄い汗! こんなババ抜き始めて見るよー!


「燕佐と燕奈の子供を、は~、は~、産みたい!」


 そう言ったドレちゃんの手が二枚の手札に伸びる。


「ふぃ~、ク、クレちゃんに体じゃなく、こ、心を愛して貰いたい!」


 負けじと言い放なった燕華ちゃんの一言に、ドレちゃんの体がピクンと震える。

 その振動で汗だらけの顔から眼鏡が滑り落ちた。


「いけないですわ! 眼鏡を掛け直さないと、ドレちゃんの心を読む能力が発動しませんわ!」

 

 そうなのー!? ということは……。

 あ、地面に落ちた眼鏡、必死に拾おうとしてる!


「四、三、二、一」


 燕奈さんのカウントダウン!

 ドレちゃんが眼鏡拾うの諦めて、燕華ちゃんの手札に手を伸ばしたー!


 心を読む能力を使わず、パシッと一枚の手札を引く。

 そして手元にあった一枚と共に、司会の燕奈さんに見せた。


「クローバーの3が二枚! ということで、このババ抜き勝負、“深紅の百合”の勝利ですー!」

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