第34話 3回戦、対戦相手と芽生える百合愛

<これまでのあらすじ>


 み、みみ、みんなー、生まれる前からシスコン姉の[もみじ]だよー。

 い、いまスッゴク緊張してるの、だって島の支配権を賭けた《深紅の百合》との勝負でわたしの番がきちゃったから。

 

 それもラーメン勝負! ラーメン屋やってるから負けられないよー。

 対戦相手も中華そば屋だし! それにしてもニャンコちゃんみたいな百合、名前も[パイたん]とかラーメン関係な名前だし、わたしと気が合いそう。

 

 そんな感じで話しかけたら、「自分は百合じゃない」って言われた(ガーン!)。

 しかも中華そばの腕を買われて知らず知らずのうちに《深紅の百合》に入れられた発言(ガガーン!)。

 しかもこの勝負に負けたら“強制百合仕込み”で百合にさせられそう(ガガガーン!)。


 気が弱いところもわたしに似てるから、何とかしてあげたいけど、

 何とかしなきゃ……って勝負始まったー!




   ♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀


「それでは三回戦、ラーメン勝負開始!」


 司会の燕奈さんが言うなり、クレちゃんが待ったをかけた。


「お待ちなさい!」

「おや、《深紅の百合》グラシアの西坊城 呉葉(にしぼうじょう くれは)さん、どうかしましたか?」

「わたくしのとこはクレちゃん、と呼んでくださって結構ですわ」

「では遠慮なく、どうしましたか? クレちゃん」

「どうしましたもコースターも無いですわ! この勝負のジャッジはどうするんですの!」


 これにはわたしも“あ!”となる。

 公平に味をジャッジしてくれる人がいないと勝負が成立しないー! わたしはそれでいいというか万々歳なんだけど、パイたんは“強制百合仕込み”される可能性が……。

 あ、燕佐さんが燕奈さんからマイク受け取った。


「島長の燕佐です。この勝負、百合神様にジャッジをお願いしたいと思います」


 えー! 百合神様ってそこの神社にいる百合神様ー?


「オホッ! オホホホホホホホー!」


 クレちゃんが物凄い高笑いを始めた。


「神様にジャッジですって? どうジャッジされるのです、どんぶりの汁まで飲み干してプラカードでも上げますの?」

「両百合の作ったラーメンに置かれた割り箸、それが割れた方を勝ちとします」

「世界中の百合が見てる中でおかしな小細工は命取りになりますわよ」

「あなたは百合神を信じているからこそ、この島に住みたいのでしょう?」

「ぐぬぬぬ……」


 そんなやり取りの後、わたしとパイたんの勝負が始まってしまった。

 屋台での作業は島祭りの時すっかり慣れたので、スムーズに調理が進む。

 麺を入れたテポを湯に落としたところで、向かい側を見た。


「ひゃ! にゃわわわ!」


 臨時キッチンなので勝手が違うのだろう、右往左往しているパイたんの姿があった。

 

 あぶなっかしいなー。

 あっ! どんぶり落として割っちゃった!  

 ちょ! 麺茹でタイマー鳴ってるよー!

 あぶなっ! あせり過ぎでコケちゃったし!

 もう見てられないよー。


 出来上がったラーメンを神社の前にあるテーブルに置き、パイたんのところへ行く。


「作り終わったから手伝うよ!」


 半ベソ顔のパイたんがでこちらを見た。


「ええ? だってウチは対戦相手ですにゃ?」

「そうだけど、せっかくの中華そばが台無しになるの見てられないよー!」


 驚くパイたんが「あ、ありがとうございますにゃ」と言って顔を赤くした。

 そんなに恥ずかしがることないのに、って右腕から血が出てるじゃない!

 ああ! タレを入れた手がスンゴク震えてるよー!


「手伝うよ」


 パイたんの背中に体を密着させ、震える右腕を後ろから掴んだ。


「にゃ!」

「これで震えないでしょ?」

「そ、そうですにゃ……」

「タレの量はどの位?」

「二杯……にゃ」


 言われた通りの分量を入れる。

 

「次はスープを入れなきゃ」


 タレを入れたどんぶりを持ってパイたんを見る。


「あ、あそこにゃ……」


 湯気を上げる寸胴を指さしながら何故かぽ~っとしてるパイたん。

 そんなパイたんを後ろから押すようにして移動させる。


「うわー、いい匂い!」


 何とスープはパイたんの名のとおり、鶏ガラを煮込んだだった。

 それも芳醇で濃厚な香り!

 爽やかすっきりなうちのスープとはまったく違うタイプ。

 そう思いながらパイたんの右腕を後ろから支えるように掴んだ。


「いい、って言うまで入れるね」

「は、はいにゃ……」


 朦朧とした声だけど、大丈夫かなー?

 熱々なスープに倒れこまないよう左腕をパイたんのお腹に回して更に体を密着させた。


「ふにゃ!……にゃっ……にゃっ……」


 変な声を上げて体がピクピク震え始めたんですけど。


「これ位でいいと思うんだけど」

「にゃ? は、はい、それでいいですにゃ……」


 スープを入れ終わり、茹で上がった麺を畳むように入れ、具材を載せてパイたんの中華そばが完成した。


「はいー! 両者の品が揃いましたー。では百合神様、ジャッジお願いいたしますー!」


 司会の燕奈さんが神社の正面を向いて深々と頭を下げた。


 そこへ《深紅の百合》のクレちゃんが神社の前に置かれたテーブルの横に来ると、両手をついてラーメンと中華そばに顔を近づけた。

 

 選んだ側の割り箸を百合神様が折る、という瞬間にズルがないか確かめるみたい。

 わたしは全力で作ったし、パイたんもちゃんと作れたようだから、ただ結果を待つだけ。


 チラっとパイたんを見る。

 何故か顔が赤いんですけど、って目を逸らされた。

 そこへ“パキンッ”という音と「ギャッ!」という声。

 見るとクレちゃんがびっくりした顔で尻もちをついている。


「んんー? あ! これはー!」


 司会の燕奈さんが、わたしのラーメンとパイたんの中華そばが載ったテーブルに目を近づけると、マイクでこう叫んだ。


「両者の割り箸が折れてます。これは……引き分け、ということでよろしいでしょうか?」


 巨大スクリーンに映る世界中の百合の面々が頷いている。

 百合神様のジャッジにはそうするしかない……もんね。

 これで二勝一分けかー、勝てなかったっけど、まあいっか。


「お姉ちゃ~ん!」


 あ! ちいゆが両手を広げてこっち駆けてきたー! 

 お姉ちゃん、ちいゆの為に頑張ったよー! 思いっきりわたしの胸の中に――ぐふう!


「もみじ……」


 え? なに? 後ろから誰かに抱き着かれたんですけど、ってこの声、パイたん!?


「女性相手にこんな気持ちになったの、初めてにゃ……」


 ええ? にゃんこっぽい目が潤んでるー!


「お、お姉ちゃ~ん」


 ひぃっ! ちいゆが物悲しい顔してこっち見てるよー!


「パイたん、わたしにはちいゆっていう大事な妹がいるのー!」

「お、お姉ちゃ~ん!」


 途端にちいゆの顔がぱぁっと明るくなる。


「にゃ……にゃあ……」


 対照的に泣き出しそうになるパイたん。

 

 ああー! もうっ、どうしたらいいのー!?

 次回に続くよーーー!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る