第25話 百合嵐の前
<前回あらすじ>
重度のシスコン[もみじ]です!
最愛の妹[ちいゆ]と一緒に屋台勝負に参加しました! 何故ならこれでメダル取ってそのままちいゆに告白するからです。
ライバル屋台は美味しそうなものばかりだけど、わたしとちいゆが作ったラーメンだって負けてないんだからー!
と思ってたのも束の間、勝負開始からだれも来ないの。
何でなのー? と頭を抱えてたら、以前百合幽霊でお友達のシルビアちゃんを成仏させようとした双子の百合巫女が前を通った!
「美味しいラーメン食べない?」
お子様だからきっとラーメン好きだろうなーっと声を掛けたら、何故か凄い顔で睨まれた! 何でー!?
♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀
「お主、悪霊と暮らしてるそうではないか!」
「そうじゃ! それも二匹も!」
ひぃっ! ラーメンは?
「そんな言い方酷い! シルビアちゃんとティルダさんだよぅ!」
ちいゆが双子の百合巫女にぷんすか怒る。
「ぬぬ、霊媒体質の小娘! あの時はよくも儂と鶫(つぐみ)の尻をぶってくれたの!」
「あの後、儂と姉上はお尻に冷えピッタンを貼って、うつ伏せしか出来なかったのじゃぞ!」
「お子様に小娘言われたくないよぅ!」
「儂と鶫は先月二桁の十歳になったのじゃ! お子様ではない!」
「全然お子様だよぅ! べ~!」
ちいゆー、もう十八なのにお子様相手にあっかんべーするなんて……でもそこがまた可愛いんだよねー。
「この小娘ー! お前なんかこうだー!」
「お返しだよぅ お子様~!」
双子の姉が自分の鼻を指フック。
ちいゆがふたつのほっぺを引っ張っての寄り目反撃。
「何をやっておる、鶫! お主も助力せぬか!」
「さ、さすがに鶫には出来ませぬ。もうお止めください、姉上!」
双子妹ちゃんの言う通りだよー、ああ、もう!
「あのー! ラーメンのご注文はどういたしますか!」
わたしの声に、打てば響くようちいゆが続いた。
「そうだよぅ! 食べないならあっち行ってよぅ!」
それに双子巫女が吼えた。
「このクソ暑い中ラーメンなんか食えるかぁ!」
「そうじゃそうじゃ! 行きましょう、姉上!」
さーっと背筋から血の気が引いた。
「ぶ~! 暑さなんか吹っ飛ぶ美味しさなんだから! ね~、お姉ちゃ~ん……お姉ちゃん?」
その声で両膝に手を着いてしまう。
「ど、どうしたの~?」
熱中症だと思ったのか、飲み物のあるクーラーボックスの方へ行こうとする。
「違うの、ちいゆ!」
確かに熱中症が起きうる気温、しかもじりじりと上昇している。
まずいー! こんなに暑くなったらラーメン食べる人なんかいないー!
もう終わり……詰んだーーー!
「お姉ちゃん……」
いつの間にかちいゆが側に立っていた。
そうだ、始まったばかりなのに終わっちゃいけないでしょ!
ちいゆの為にも!
ここはえーっと、うーんと……そうだ! 前にバイトしてたラーメン屋で覚えたあれしかない!
「ちいゆ、屋台は一時休憩。今から言うの買ってきて!」
「う、うん」
――――そして一時間後、わたしは屋台を再会させた。
醤油と酢を加えた“かえし”にちいゆと頑張って作った“スープ”を合わせた“つけだれ”。
大量の氷を浮かせた発泡スチロール容器にお塩を投入――そうするとキンキンに冷えるんだよっ――した水で、茹でた麺をしめた後、水道水で洗い流し、器に盛る。
いわゆる“つけめん”!
「美味しいつけめんですよ~!」
ちいゆの元気な声掛けに、数人の百合カップルが足を止めた。
「この島でつけめんって珍しい~」
「でもあっちにうどんと蕎麦の屋台あるけど、どうする?」
そこでちいゆがとっておきの台詞を出した。
「分厚いしっとりチャーシューと、コラーゲンたっぷりの鶏油(ちーゆ)が入ってますよ~!」
うどんと蕎麦にはないこの魅惑アイテム!
さっそく二組の百合カップルが「つけめんふたつ」と注文を入れてくれました。
それが呼び水になって、通りすがりの百合達が次々と並び始めたよー!
ひえー、作るのが追い付かないー! 嬉しい悲鳴ー!
――それから二時間近く、ようやく客足が落ち着いてきた。
ふぃー、人生でもいちにを争う忙しさだったー。
「お姉ちゃ~ん、凄かったね~」
汗まみれのちいゆが力ない笑みを浮かべて丸イスにストンと腰を下ろす。
「凄かったねー。ちいゆ、よくやったよー」
「えへへ~、お姉ちゃんもだよ~」
心地よい気分、愛するちいゆとだから頑張れたんだよー。
「注文、いいですかしら」
「あ、はいはいー!」
パイプ椅子から立ち上がって声の方へ顔を向けると、芸者さんみたいな髪型の人がいた。
「つけめん、頂きますわ」
うわー、濃い紫色の浴衣! しかもすっごい美人!
わたしよりちょっと年上かなー。
「はいっ、少々お待ちくださいー!」
そう言って調理したつけめんを手渡した。
「これがつけめん……」
美人さんがその場から動くことなく、食べ始めた。
困ったなー、そこだと他のお客さんの邪魔になるんだけど――ってはやっ!
「もうひとつ、頂戴な」
「は、はい」
二杯目も、ずぞぞーっと見た目に反した豪快な食べっぷりで平らげてしまった。
「もうひとつ、よろしかしら?」
「は、はい……」
これが八回続いた。
「もうひとつ、くださいな」
差し出してきた空容器を前に手の平を向ける。
「すません……麺が無くなりまして」
小さく頭を下げるが、美人さんの顔に変化はなかった。
「そう……おいくら?」
代金を受け取り、お釣りを渡した。
「とても美味しかったですわ。今度はお店のほうへ行くわ」
「ありがとうございます、お越しをお待ちしてます!」
最後まで表情を変えず、向こうへ歩いていく美人さん。
「すっごい綺麗だったね~、お姉ちゃ~ん」
「そうだねー、島にあんな美人さんいるんだねー」
そう放してたら走っている女の人が屋台の前で止まった。
「はぁ、はぁ、あの……黒っぽい紫色の浴衣きた人見ませんでした?」
眼鏡を掛けたショートヘアの女の人が尋ねてきた。
すぐさまさっきの美人さんとわかり、歩いていった方を教える。
「ありがとう!」
素早く頭を下げた女の人が駆け出そうとする。
「大事な人、見つかるといいですね」
そう言ったわたしに女の人が面食らったような顔になる。
「大事な人? まったく違うわ!」
そう言い残し、眼鏡の女の人は物凄い勢いで去っていった。
――――この時、そのふたりは島の百合だと思っていた。だがそれが、まったく違うと気づくのに時間はそう掛からなかった。
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