第24話 百合屋台勝負、はっじまるよ~!

<前回あらすじ>

 わたし妹しか興味ない姉の鏡みたいな[もみじ]! 

 百合っけが無いはずの妹[ちいゆ]から偶然を装ったキスを頂いたの。

 

 重度のシスコンのくせに、それに戸惑ってへっぴり腰のわたし。

 そこへ百合友の[いぶき]ちゃんが「今度の島祭りでやる屋台グランプリでメダル取って告白するんや!」とびっくり提案!

 

 その提案のったー! 何かメダル取るの大変そうだけど、それしかないー!

 と言うわけで試作のラーメンも無事完成、島祭り当日がやってきたのです!



♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀


 気温二十五度の快晴、島祭り開始まで三十分。

 屋台が並ぶのはきらめく海が眺める、なだらかな山の中腹だった。

 わたしのを含めて屋台の数は十三。

 始まる前に島長の燕佐さんへの挨拶がてら、視察していきますかー!


 屋台には自分のお店の料理を出すので、かき氷やフランクフルトといったものはなく、“島野菜のオーガニックピッツァ”や“スジガツオの絶品炙り寿司”など、明らかにメダルを狙った品が並んでいた。


 あ、一回いったことある中華屋さんの屋台。ここは何出してるのかな……アグー豚のトンポーロウ饅! メッチャ美味しそう! 

 そういえば結構なレベルの百合職人が移り住んでるんだよね、ここって。

 あー、何かいっきに自信が……。


「小池さーん」


 あ、燕佐さんが手を振ってる。今日はアロハにショートパンツ姿かー。

 うーん、いつ見ても中性的な涼やか美人。

 百合だったら誰でも見とれてしまうよー。


 そう思いながら燕佐さんのところまで行き、挨拶をした。


「本当にすみません、お店をオープンもしてないのに屋台を出させてしまって」

「いいんですよー」

「それに突然決まった屋台勝負にも参加させてしまい、もう何とお詫びすれば……燕奈!」


 燕佐さんがタープテントに振り向くと鋭い声を上げた。


「はいはーい」


 そこにはパイプ椅子に座った燕奈さんがお好み焼きを食べていた。


「あなたが最終的に決めたのですよ、小池さんに迷惑をかけたことを謝りなさい」

「いえ、いいんですよ、燕佐さん」

「おーっ、もみじちゃん、今回は悪かったねー! さっき頂いたやつだっけど食べる?」


 こちらまで来た燕奈さんが未開封のお好み焼きのパックを差し出してきた。


「これ、三原堂のですよねー?」

「そー、屋台勝負専用のお好み焼きだって! ソースが凄いんだこれがー」

「わー、ありがとうございまず! ちいゆと一緒に食べます」

「あっはっはっは、勝負となるとこういうスペシャルなの出してくるからねー。いり子ちゃんの案を通して大正解ー!」


 燕奈さんがそう言ってカラカラ笑った途端、燕佐さんの方からゾクっとする気配が流れてきた。


「燕奈……」


 ひぃっ! 燕佐さんがにっこりしながらピリピリした空気を放ってるー! こういう怒り方が一番怖いよー!

 

「おおっと、わかってますってー。いろいろ迷惑かけちゃってごめなさい」


 ぺこりとこちらに頭をさげた。


「でもさー」


 顔を上げるとウィンクされた。


「これ使ってちいゆちゃんにするんでしょ? アレ」


 ひゃわっ、メダル取って告白するの読まれてるー!


「おー、ちぃちゃんのお姉さん、こんちはー」


 声の方に顔を向けると、いり子ちゃんが白い歯を見せながら右手を上げていた。


「こんにちは、いり子ちゃん。いぶちゃんは?」

「お姉は屋台の準備に付きっ切りや、もう大丈夫言うてもやっとる。何やえろう気合はいっとるで」


 そう言ったいり子ちゃんが、燕佐さんと燕奈さんに挨拶する。


 いぶちゃんがそんなに気合い入れてるのは金メダル取っていり子ちゃんに告白する為だからだよ、って言ったら驚くだろうなー。


「いり子ちゃんのところも屋台勝負用のうどん出すの?」

「んなもん出さんでも一番取れるんやけど、お姉がこれまた入れ込んどってなー。ま、それはお楽しみってトコや」

「ふっふっふー、わたしとちいゆのラーメンも自信あり! だよー」


 腰に手を当てながら胸を張った。


 ライバルといえる麺を使う屋台はこちらを除けば、いぶちゃんいり子ちゃんのうどんと百合庵の蕎麦のみ。

 それぞれ好みが別れるけど、ラーメンは幅広く好かれるはずー! ってあれ?

 いり子ちゃんが難しそうな顔して腕組みしてるんですけど……。


「ちぃちゃんのお姉さん、う~ん……」


 今度は首を捻って空を見上げたー?


「……早う戻って対策練った方ええで」


 え? あ、行っちゃった……。

 対策を練る? 対策って何の?


 そう思いながら屋台に戻ると、ちいゆが笑顔で迎えてくれた。


「お帰り~、お姉ちゃん」

「お留守番ありがと、って、ちいゆ! 汗凄いじゃない! ほらこれ早く飲みなよー」


 クーラーボックスから薄めたスポーツドリンク入りのペットボトルを渡す。


「ありがと~、えへへ~、スープの火加減ちゃんと見てたから、もう出せるようになってるよぅ」

「さすがちいゆ! よーっし、開始まであと五分! 頑張ろうね!」

「うん、お姉ちゃん!」


 気合満天、準備万端で屋台勝負がスタートした……んだけど。


「お姉ちゃ~ん、来ないね~」


 パイプ椅子に腰かけるちいゆが熱風を掻きまわす扇風機に顔を近づける。


「そうだねー」


 もう一台ある扇風機にわたしも顔を近づけた。


 ひえー、汗まみれ。これじゃ汗っかきのちいゆは……ってやっぱり汗まみれ!

 あ、汗で白いシャツに胸と乳首が浮き上がってるー!!


「ち、ちいゆ」

「ほえ~、何? お姉ちゃ~ん」

「その、汗で見えちゃってるよ」

「え?……ひゃわっ!」


 慌てて体にへばりついたシャツを引っ張った。


「着替え持ってくればよかったねー」


 そう言いながら目を上げると、ふたりの子供が屋台の前で足を止めた。


「あ! ラーメンどうですかー! とーっても美味しいですよー!」


 そこでふたりの子供が誰か気付いた。


「お前はいつぞやのおなごではないか」

「これは奇遇でござりますな、姉上」


 お友達の幽霊、シルビアちゃんを成仏させようとした、人の話をまったく聞かない双子の百合巫女だった。


「その節はどうも……あの、ラーメン食べていきません?」


 すると姉の方が百合巫女とは思えない形相になった。



 つづく


「」





 

 


 


 


 


 

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