第22話 キスした姉妹の翌朝

<前回のあらすじ>

 急に決まっちゃった島祭りのラーメン屋台! &屋台王決定戦!

 シスコンなわたしこと[もみじ]は友達の[いぶき]さんのおかげで材料を確保、愛してやまない妹の[ちいゆ]とラーメン試作に取り掛かりましたー!

 試作は深夜までかかっちゃって、ちいゆはお寝む。

 おんぶで運び、布団に下ろそうとしたんだけど、ひょんなことで寝たままのちいゆとキスしちゃった……!!。

 あまりにも突然すぎる偶然に、喜ぶよりボーゼン! 

 でも、本当に偶然かな?

 下ろそうとしたとき、ちいゆがわざとわたしの姿勢を崩させた気がするんだよね……。


♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀



 網戸から流れ込む、あたたかい風が顔を撫でた。


 あー、朝なのが閉じた瞼でもわかるー。


 瞼を開き、目覚まし時計を確認したら八時五分。


 えーっと、昨日寝たのが夜中の一時過ぎだから、七時間寝たのかー。やっば、起きなきゃ。


 体を起こして、ちいゆがいないのに気づく。

 

 もう起きたんだ。それにしてもシャワー浴びてないから、体がべとついてるよー。 


 着替えを手に持ち、らせん形の階段を降りる。

 浴室の隣にあるトイレに目をやると、小窓に灯かりが点いていた。


 そっか、トイレか。


 ふと昨晩のことを思い出し、持ち上げた指先で唇に触れた。


 柔らかかったなー……あれがちいゆの唇……。

 

 途端に体が火照ってきたので、慌てて裸になって浴室に入る。


 ふー、朝のシャワーは気持ちいいー! 


 頭の先から爪先まで綺麗にして脱衣所に出る。

 長めにシャワーを浴びたので体が熱い上に、今日は朝から気温が高かった。

 体にバスタオルを巻き、扇風機目当てにリビングへそそくさ移動する。


「ふいー、気分そーかい!」


 バスタオルを開いて素っ裸の正面に扇風機の風を当てる。

 網戸に目をやると青空と白い雲が見えた。 

 耳にはジョイ~ジョイイ~というこの島特有の虫の音。


 あー、この島来てよかったなー。


 そこへ廊下からぺたぺた歩いてくる音。

 この独特のリズムはちいゆだなー、生まれたときから一緒だったこのお姉ちゃんには丸わかりだよー。ちいゆのカルトクイズも全問楽勝ー!

 

「あ、お姉ちゃ――」


 リビングに来たちいゆ、その声が変わった。


「きゃ~! な、何てカッコしてるの~?」


 え?  と思いつつちいゆを見ると、両手で目を覆っていた。


 何でそんなことしてるの? お姉ちゃん風呂上ったらよくやってるし、ちいゆも普通にしてたでしょ?


「あ、ごめん」


 取り合えず謝って、開いたバスタオルを閉じた。

 そして着替えを置いた脱衣所へ行こうと、両手で顔を塞いでいるちいゆの側を通る。 


 どーしたの!? 耳まで真っ赤っ赤なんですけど……。

 

 着替えのある脱衣所に向かう途中、自分の唇に触れる。


 もしかして昨日のキスのせい? でもちいゆ寝てたし……。


 脱衣所で水色パンツを履いて、オーバーサイズのTシャツに首と腕を通し、レモンイエローのホットパンツを腰まで引き上げた。

 ブラはしない。

 貧乳だからじゃないよ? 南の島であっついからだよ?


 脱衣所から廊下へ出ると、いい匂いがしてきた。


「ちいゆ、手伝う?」


 キッチンに顔を出すと、おたまを手にしたちいゆがお椀に味噌汁を注いでいた。


「じゃあこれお願い~」


 味噌汁が注がれたお椀をちいゆから受け取ろうとする。


「あっ」


 自然と手が触れたら、静電気が走ったみたいにピクンとされた。

 振動で床に落ちた汁からちいゆに目をやると、またも顔を赤くしている。


「それ、お姉ちゃんのぶんだよ~」


 勢い良く背中を見せて自分のお椀に味噌汁を注ぐ。

 そんなちいゆと朝食を取り始めた。


「お姉ちゃんが寝坊してお米炊けなくてごめんねー」

「き、気にしなくていいよぅ」

「その代わり、お味噌汁に島豆腐たっぷり入れてくれたんだね、おいしいよー」

「えへ、えへへ~、ありがと~」


 普通に会話してるのに、何この気まずい空気ー!

 やっぱりちいゆ、昨日のキス覚えてるのかなー。

 それもわたしの手を引っ張ってのキス。

 ここは言っちゃうべきかなー、「昨日のキス、お姉ちゃん嬉しかったよ」って。

 うう……あー! だめっ! わたしの気のせいだったら人生でもっとも取り返しつかないコトになっちゃうー!

 

「ねえ、お姉ちゃん」


 マイナス妄想から引き戻され、慌てて顔を上げた。


「え? はいっ、なに?」

「あの……昨日の夜~、あたしを布団まで運んでくれて……ありがと」

「い、いいんだよー、その位。ちいゆぐっすりだった……もんね」

「あのね……お姉ちゃん……あたし……あの時、実はね……」


 テーブルに目を落として顔を赤らめるちいゆ。

 よく見ると、あっという間にたいらげる朝食もほとんど手をつけてない。


 ごくりと喉が鳴った。


 な、何を言うつもりなの、ちいゆ? 

 

「眠ってなかったんだよぅ」


 そこでピンポーンと玄関のチャイムが鳴る。

 わたしとちいゆの目が同時に玄関の方角へ動いた。

 そして再び目が合う。

 

 何と言っていいかわからなかった。

 確かにちいゆは“眠ってなかった”と言った。

 ということはわたしとのキスを憶えているということで……。


「は~い!」


 立ち上がったちいゆが早足でリビングを出て行った。


「スマホで呼んでも出んので、直接来たんや」

「熱中症でなくてよかったわ」


 チャイムを鳴らしたのはいぶちゃんといり子ちゃんだった。

 店は定休日で、屋台の件も目途がついたので手伝いにきたという。


「なんやまた悩みごとな?」


 わたしはすぐに顔に出るのか、またもいぶちゃんにそう言われてしまう。

 キャッキャッとカウンター席で話に夢中なちいゆをチラっと見てからいぶちゃんに向き直った。


「実はですねー……」  


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