第21話 妹からのキス

<前回のあらすじ>

 わたし主人公の[もみじ]! 物心ついた時から妹の[ちいゆ]に恋して身悶える重度のシスコン百合!

 精力絶倫の変態百合との一件で、百合っ気の無いちいゆがわたしを意識し始めたみたい。

 こうなったらわたしのラーメン屋開店に合わせてちいゆと結婚式挙げちゃうぞ! と鼻息荒くしてたら、島長の妹[燕奈(えんな)]さんに「島祭りでラーメンの屋台出してね、5日後だからよろしくー」って言われちゃったんですー!

 まだスープの試作もしてないのに5日後だよー!?

 

♀×♀×♀×♀×♀×♀×♀×♀×♀×♀×♀×♀×♀×♀×♀×♀



  家に着くなり厨房に直行! 頭に浮かんでいたレシピでスープ作り!

 あー、材料が足りない! 足りないよー!

  そうだ! ここはいぶちゃんにお願いするしかないー! 


「やあ、もみちゃん。どうしたん?」


 スマホに出たいぶちゃんに事情を説明した。


「ああー、それさっき燕奈さんから連絡きてるけん。ええよ、ちょうど夕方営業前の準備中やから、材料持ってくで」

「わあー! 助かりますー、いぶちゃん!」


 それから程なく、店のガラス戸越しに、いぶちゃんのワンボックスカーが停まるのが見えた。

 運転席のドアが開き、小麦色の細マッチョに黒のタンクトップとデニムショートパンツ姿のいぶちゃんが、長いポニーテールをふわりとなびかせ降りて来た。


「お姉! これあたいが持つけん、こっち頼むわ」


 後部座席から段ボール箱を抱えたいり子ちゃんが出てきた。

 親友の登場に、ちいゆの目が輝き出す。


「あんがとちぃちゃん! ちゃーっす、材料持ってきたで!」


 ちいゆが店のガラス戸を引き、そこから段ボールを抱えたいり子ちゃんが入って来た。


「もみちゃん、こん位で足りるかいな?」


 続いていぶちゃんが、大人ひとりではとても持てないような野菜たっぷりのビニール袋を両手に入って来た。


「十分ですよー! ありがとう、いぶちゃん!」


 そう言うわたしの側でちいゆが「ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!」と高速お辞儀を繰り返していた。


「いやいや、急に屋台参加言われたんやろ? 助け舟出したくもなるわ」

「そうなんですよー、そんなに屋台の数、少ないんですかねー?」

「いや、食べもんの屋台は十二あるんや」

「え? 島にしては十分じゃないですか」

「そ、そうなんやけど……」


 いぶちゃんが楽しそうにちいゆと談笑するいり子ちゃんを横目で見ると、こちらに口を近づけてきた。


「屋台に参加する人達集まった打ち合わせで、島で一番美味いトコ決めようや! って案が出たんや」

「ええ! 何で? っていうかお祭りなんだからそんなことしなくても……」

「私もそう言ったんや。でも周りの人も売り言葉に買い言葉でわやくちゃやっとる内に決まってしもうて……」


 その案出したの誰です、とは訊かなかった。

 いぶちゃんの横目の先に「あたいとお姉ぇのうどんが一番になるわかってて言うたんやけどな!」と自信満々な笑みを浮かべるいり子ちゃんの姿があったからだ。


「でも何でわたしも強制参加に?」

「島一番ってこたぁ、島の調理人全員参加しなきゃダメやろ、って意見が出てなあ……」

 

 またも横目でいり子ちゃんを見る。


 これもいり子ちゃんねっ! ううー、何てことをー!


「ということたい、もみちゃんに私が協力するのは当たり前なんや」


 申し訳なさそうな顔をしながら、小麦色の手で肩をぽんぽん叩いてきた。

 

 引き締まった筋肉がステキな腕、キリっとした小麦色の顔。

 百合なら誰でもキュンときちゃうよねー、いぶちゃんは……って何考えてるの、わたし? 


「そんなことないです、ありがとう。ところでどうやって島一番を決めるんですか?」

「あれたい、島民アカウントのウェブ投票たい」


 島の祭り程度に、しかも急に決まったイベントなのにそんなこと出来るのー!?

 ホント、何なのこの島ー!


「ちぃちゃんトコも頑張ってや、二番の席なら空いてるさかい」

「ぶ~! あたしとお姉ちゃんのラーメンが一番になるんだよぅ!」


 そんなやり取りの後、ちいゆは店を去っていくワンボックスカーに手を振った。


「じゃあちいゆ、お父さんとお母さんのラーメンを再現してみよっか?」

「うん!」


 ちいゆの肩に手を載せて、クーラーの効いた店内へ戻る。

 結局、ラーメン作りは深夜まで続いてしまった。


 調理器具を洗い終え、店の網戸を見ると羽虫がべったり。

 今日も月灯りが見えるし、遠くからは潮騒の音が聞こえてくる。

 クーラーを切った店内に流れ込む、生暖かい南国の夜風。


「むにゃ~……」


 カウンター席ではちいゆが畳んだ両腕を枕に居眠り、ちょうがないなー。


「ほらちいゆ、起きなー、お布団で寝るよー」

「むにゅ~、おんぶ~」


 おんぶかー、そういえば小学生の頃はよくおんぶしてやったもんねー。

 

 ちいゆに背中を見せてしゃがみ込み、上手い具合におんぶさせた。


「よいしょ! ……っておもっ!」


 予想以上の重さ! これが成長というものね!

 にしてもおもっ! お姉ちゃんの腰いっちゃいそう!


 廊下をよたよた歩き、ひーこら言いながらしながら階段を登る。

 

 ひぃー、やっと布団まできたー! 腰が、腰がデストロイするー!


 ちいゆの両手を掴み、布団に寝かせようと体を捻る。

 ころんと布団に背中から着地したのでほっとしたのも束の間、掴んだちいゆの手が剥がれない。


「えっ、あ!」


 顔を横に向けようとしたが遅かった。

 ちいゆの唇とわたしの唇が触れてしまった!

 慌てて起き上り、唇を手で覆う。


 ちいゆの唇の感触! キスしちゃったー!


 思いながらちいゆを見る。

 

 目を開けて「今の何~」と言われるー! やばいー!


 ちいゆは目を開けなかった。

 すーすー規則正しく寝息をたてている。


 よ、よかったー……ラッキーキッスだー、うっふっふー♪


 電気を消して、わたしも横になった。

 とんでもない速さで眠りが押し寄せてくる。

 意識が闇に包まれるその瞬間、ふいに気付く。


 寝かせようとした時、ちいゆは起きていた。

 だって掴んだ私の手に力を入れてたから――――。




 


「」


 







 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る