第20話 抱きしめたい
<前回あらすじ>
愛が重くて精力絶倫の変態百合(ながっ!)の[相楽]さんの家に閉じ込められちゃったわたしこと[もみじ]と最愛の妹[ちいゆ]。
そこでお友達百合幽霊の[シルビア]ちゃんが捜していた[ティルダ]さんの幽霊と出会っちゃった!
再開をしたふたりは大喜び!
でも水をさすみたいに相楽さんがわたしのちいゆを後ろから羽交い絞め、シャイニングほにゃららフィンガーやらで、ちいゆを自分のものにしようなんてハイパーバカなことを言い出した!
そこへティルダさんがわたしに憑依、警察官らしい体術で相楽さんを瞬殺、めでたしめでたし。
でもこの件でちいゆと百合関係になりたかったんだけどなー、なんて思ってたら心を読める燕奈さんが“しっかり前進してるよ!”と言ってくれた。
そうなのかなー? でも、ちいゆがこれまでとちょっと違う反応するようになってきたし……。
――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ―――
「でー、相楽っちどうするー?」
運転席から燕奈さんが訊いてくる。
「え?」
「さすがに今回のは悪質だからねー、もみじちゃんとちいゆちゃんが了承してくれたら、私らの能力で記憶消去して島外追放するよー」
見境い無く百合相手作ろうとした挙句、わたしのちいゆにあんなことした相楽さんは百合の花の肥料にしたい位許せないんですけどー!
「あ、あたしは追放しないで欲しい……」
ええ?! どしたのちいゆ? ひょっとするとシャイニングほにゃららフィンガーがちょこっと効いてるのー!?
「あたしの中に入ってたシルビアちゃんが~、ティルダさん捜しにあたしの体を動かして二階まで行ったの~」
ああー、だから玄関から急にいなくなっちゃったんだー。
「そこで相楽さんの寝室行ったんだけど~、裸の女の人の写真がずら~っと並んでて~」
ひぃっ! それってこれまで逃げられた百合相手の写真!?
「一枚一枚ぜ~んぶに、ごめんなさい、っていっぱい書かれてたの~」
……おもっ! っていうか写真に謝るくらいなら、逃げられないような自分になってよ相楽さーん!
「そっか、じゃあ厳重注意で済ましとくけどいい? もみじちゃん」
「は、はい」
言ってからふとちいゆがこちらを見てるのに気づいた。
「相変わらず優しいなー、ちいゆは」
「そ、そんなことないよぅ」
顔赤くしてそっぽ向かれてしまったー、何でー?
「あははは、いつの世も自分を守ってくれる白馬の姫騎士はモテるねー!」
白馬の姫騎士? って意味わかんないんですけ――――――――――――え? それってわたしのことー!? そ、そりゃー初めてシルビアちゃんと会った時も……いぶちゃんと会った時も……さっきの相楽さんの時も、ちいゆを守ろうとしたけどー……それは姉として……ううん! この世で最愛の人だからそうするのが自然であってー……。
うわっ! ちいゆがこっち見てるー! 何か瞳うるうるさせてるけど、これってー!?
『もみじサン、はやくちいゆチャンにキスするべきデス!』
『するべきデースヨ。自分がシルビーにしたような熱いキスをするべきデースヨ』
ひゃっ! シルビアちゃんにティルダさん、急に天井から現れないでよー!
ほらー、ちいゆが慌ててあっち向いちゃったじゃないー!!
「ありゃまー、いいトコだったのにねー……って私そのふたり見えないんだけど、一時預かりお願いしていいかなー?」
「え? それはいいですけど……ねっ、ちいゆ?」
「うん、いいよ~」
あっち向いたまま答えられた、お姉ちゃん悲しい!
「ありがとっ! さすがに幽霊の百合受け入れは初めてだからねー、姉貴……島長と話し合わなくちゃいけないんだわ」
それを聞いていたシルビアちゃんとティルダさんがこちらに顔を突き出した。
『ワオッ、ありがとウ』
『世話になるデースヨ』
「う、うん、わかったから、近い、近いよ」
鼻が当たりそうに顔を近づけるふたりに手の平を向ける。
そして顔が離れたところでちいゆを見た。
「ちいゆ、お家が賑やかになるね」
俯いた顔を持ち上げるとこちらを見た。
「うん、そうだね」
いつもの笑みが戻っていた。
思わず手を引いて胸元に抱き寄せる。
「お姉ちゃ……ん?」
「今はこうしたい気分なの、いや?」
「ううん」
ちょっと甘酸っぱい汗の匂い、呼吸で動く胸の振動、あったかい体温のぬくもり。
一生手放したくない、わたしの大事な妹。
「あー、お取り込み中悪いんだけど、もみじちゃん」
「え? は、はい」
「開店に向けてのラーメン屋さんどうなってるー?」
「ええ、まあ順調です」
「そか、さっき急用で私いなくなっちゃったでしょー?」
恐怖の相楽さん宅に入る直前、島長の連絡で車に乗り込んだ燕奈さんを思い出す。
「島祭りでやる屋台で緊急案件浮上してさー、それでもみじちゃんのラーメン屋さん、まずは屋台でプレビューしてみない?」
「あの……それって屋台でラーメン出せってことですか?」
「ま、そゆことになるねー」
「ちょっと待ってください、島祭りっていつですか?」
「五日後」
胸の中のちいゆと目を合わせる。
「「ええ~~~!!」」
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