第2話 百合ノ島、島民募集

 わたしこと小池もみじは、困窮していた。

 

 住んでいた実家兼食堂が火事で全焼、両親もそれに巻き込まれ亡くなった。

 支払われた保険金も家や食堂のローンで使い果たし、二十歳のわたしは高校を卒業したばかりのちいゆと共に職を求めて上京した。

 

 高校卒業してからの二年間、両親の下で働きながら身に着けた調理スキル、それを武器に働く先を探した。


 幸いにもすぐ雇ってくれるラーメン店と出会えた。

 

 そして、昼は配膳に食器洗い、夜はスープの火加減調整につきっきりという激務の甲斐もあり、ある程度生活が安定してきた――と思った矢先、働いてたラーメン店が潰れた。

 手元の金は、家賃、食費、その他でおよそ一ヶ月分。

 

 わたしは条件に合う仕事をスマホで探し続けた。

 そして次の記事が目に飛び込んできたのである。


 島のラーメン店主募集 年齢不問。店舗兼住居提供。売り上げの半分が給料です。

 条件:25歳未満の女性であること、共に同棲できる25歳未満の女性が一人いること。

 連絡先:0×〇□ー〇2ー4△×〇 百合ノ島(ゆりのしま)町役場 

 担当:百合(ゆり)まで


 何これぇ! わたしの為にある条件じゃない! しかも応募締切が今日、ラッキー!

 

 という訳で素早く申し込んだ。

 

 そして面接当日、センタービルの一室には、ある種厳しい条件であるにもかかわらず、三十人程の応募者が集まっていた。

 

 面接はスピーディに進められ、ほぼ最後尾のわたしに順番が回ってきた。

 ボードで作られた簡易面接室の中には二人の女性が座っていた。

 

 一人はスーツ姿の二十代らしき女性、ショートヘアで顔は端正、目は涼やか、同性にもモテそうなタイプ。

 傍らのロングヘアは高校生だろうか、学校の制服姿で、端正な顔、切れ長な目であることからスーツ姿の女性の妹かと思われた。


「百合燕佐(ゆりえんさ)と申します。こちらは妹の燕華(えんか)です」

「小池もみじです。どうかよろしくお願いいたします」


 挨拶が終わり、面接が始まった。 

 質問の受け答えは燕佐さんが行い、燕華さんはただじっとわたしを見ているだけ。


「同棲される女性はこの話に同意されてますか?」

「その女性との関係は良好ですか?」


 ラーメン作りの知識を試される質問の後はひたすら同棲する女性のことを聞かれ辟易した。


 それにしても何でこの人、わたしが質問に答える度、小さく首を傾げて間を置くんだろう? 地方から来たとはいえ、わたしの発音そんなにおかしいかな?

 

「小池様はこれまで男性との恋愛関係が無いとおっしゃってましたが、それは同棲される女性の方以外恋愛対象と見てないからですか?」

 

 ちょっ、え? 何その質問!? それ面接に何か関係あるの? 答えなきゃいけないの? で、でも、女性に興味持ち始めたきっかけが妹だった訳だし。そう、わたしが小学校六年生の時、風呂上りのバスタオル姿で廊下歩くちいゆにときめいたのが始まりで、それからは見慣れていたエプロンに三角巾姿で働くちいゆにも胸がドキドキしたり、そして毎晩……ちいゆの裸想像して悶々したり……といった具合に。つまりわたしは世間一般でいう百合――そう、わたしは誰にも言えない悩みを抱え込んでいる訳で。


 「いえ、それは、あの…………」

 

 ああ! 何やってんのわたし! 面接でグダグダ発言は致命的ぃー! お、終わったぁぁ。

 

 またも燕佐さんが間を置いた、しかも今回はかなり長かった。

 本当に終わった。

 ジ・エンド。

 

「……今日の夕方に移島へ向けて具体的な段取りの連絡を入れます」


 燕佐さんが爽やかな笑みを浮かべた。


 え? こ、これって瓢箪から駒!?

 

「よ、よろしくお願いします!」


 わたしは何度も燕佐さんに頭を下げた。

 

 そして面接合格の連絡を受けた次の日、燕佐さんが島への交通チャートを書いた紙とキップ一式を届けに来た。

 更には引越し業者の手配まで用意すると言う。

 

 ……いくら何でも優遇し過ぎじゃない? 二年の食堂働きに一年しかないラーメンスキル、しかもバイト、それでわたしを選ぶというのもおかしい。

 一体何でわたしなんだろうか?


 そんな事を考えている内に、船は岸壁へ近づいていた。

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