縁(えにし)
縁 上
ある世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界を指す、謂わば今生きている自分が取らなかった選択肢を取って生きた世界。
その世界事態に大きな差は無いらしいが、たまに今生きている世界の理から大きく外れた世界が生まれるとも言われている。
今回、語られる世界もその一つ。
あるはずの無い妖怪が存在し、人と共存する世界。
貴方がその世界に入った場合、貴方はどのような反応を示すのでしょうかね?
この世は本来行く道から外れた世界。
人と妖怪が言葉を交わし、まじわり、他とは時代軸が混じった世界。
路地に設置された鳥居をくぐればそこは妖の世界。
妖の住む世界は“彼岸町“とされ法を守りながら過ごしている。
彼岸町とは妖怪が住む世界。
各地に点在し、そこによって紋が違う。
会得するにはその町の物を一つ買い身につける。
何処からでも各地の点在する場所に行くことは出来るがやはりその紋が必要で、違う番地の紋では入ることが出来ない。
人と妖の狭間を取り持つのは、三種の守神と呼ばれる探偵達だ。
「あのー、すみません。
また一人、依頼人が顔を出す。
「今回はどのような依頼でしょう?」
一頻り挨拶等を進めた後、家主は話を切り出した。
「行方不明になった妹を探してほしいのです。」
「それなら、近くにある探偵事務所でも済みそうな話ですが・・・」
「もう行きました、四五ヵ所探偵事務所を当たり、探してもらいましたが見つからず・・・最後に行った探偵事務所に言われました。“もしかしたら何かの怪異に巻き込まれたかもしれない、もしそうなら彼岸町七番目の三守事務所に相談するといい“と。」
「成る程。怪異となればこちらの管轄ですね。私達はそう言ったもの専門ですから。」
三守事務所は、おもに妖怪側が起こした、または偶然が重なって起きた怪異を解決する探偵だ。
家主は、そうですか。とお茶を一啜り。
依頼人も一口飲んだ。
「経緯は?」
「帰省してきて間もない話です。妹は地元で働いていました。その時は酷い雨で、電車とかも遅延がありましたし、いつも帰ってくる時間帯に帰ってこなくても仕方ないなとは思ってたんですけど。翌日になっても帰ってこなくって、電話も繋がらない。メッセージアプリにも既読がつかない。」
「成る程。異界に巻き込まれた可能性も無くは無いですね。・・・分かりました、お引き受けしましょう。」
男が出ていくのと入れ違いに狐が一匹入ってくる。
男の足元を素通りし、ソファーを軽く跳び、スイの足元に座り込む。
「ワンッワンッ」
「・・・そう、ありがとう。引き続きよろしくね。」
頭を撫でられ気持ちよくなったのか、欠伸をして丸まった。
「んー。」
考え込むように顎に指を添えその場から動かない男が一人。
彼の名はケイ。
妖怪で元は悪鬼だったが更生して七十五匹の白狐になったとされる阿久良王だ。
今は姿を悪鬼だったときの姿そのまま、七十五匹の白狐を使役している。
妖鬼の大将で力も強く昔は鬼達を従えてよく悪さをしていたが、今は自由奔放で鬼の中の争い事を仲裁する以外は好きなようにやらせている。
過去の自分は黒歴史らしく、掘り返そうとすると五日間再起不能にさせられると言う噂まで立っている。
唯一の例外は探偵をやっているスイとソウらしい。
そんな彼だが、今悩んでいた。
足元にいる狐と地面を見比べながら、戻ろうか。と小言を吐き、影にさっき飛ばした狐を戻そうとした時に、ふと声が聞こえた。
竹藪に響く大きくて元気な声。
「ソウか、スイに頼まれていた仕事は?」
「さっき終わったー。」
「そうか。」
「どうした、いつにも増して険しい顔だな。何かあったのか?」
「何かあったら良かったんだけどな。」
「ん?」
「可笑しいんだよ、何もない。これだけ管狐や天狐、白狐・・・いろんな狐を投じても何も出てこない。」
「数は?」
「計四十。」
「結構な数出して見つかんねぇのかよ、こりゃ、相当な術者だな。」
「そうだな。」
返答しながらも何処か引っ掛かる事があった。
ケイに課せられた依頼は、巷で騒がせている呪いに似た病の出所を追って欲しいと言うことだった。
処方箋でも一切聴かず、祓い屋は出処が分からない。
それもその病はうつるときた。
あるものは、発狂し、あるものは耳を剥ぎ、あるものは引きこもる。
概要を聞いたとき、三人揃えて依頼人前にしてドン引きしてしまった。
術者が何かしらの目的があってこれを広めていると思い、その痕跡を狐の鼻と耳、術全てを使って調べているのだが見えない。
かけられた人だけで完結しているのだ。
術の中身を覗いても、憎悪や執念だけ。
「そんなに困ってるんなら、俺も手伝おうか?」
「すまん助かる。」
「良いってことよ!・・・あ、結界張ってくんない?」
「分かったよ」
枯れ葉の上に、あぐらを掻いて座る。
その四方に狐を配置。
よろしくな。
近くにいる配置した狐の一匹を撫でると、少し強い突風が吹き、狐が居なくなる。
少し翳すと冷たい風がソウの回りを覆っている。
それを確認すると、ケイはその場を後にした。
彼岸町。
赤提灯が垂れ下がり、遊郭や出店、居酒屋等が立ち並ぶ通りをスイはぶらりぶらりと歩いていた。
薄ら笑みを浮かべて町を眺め、目についた所に入ったり、妖怪の世間話を聞いたりしている。
誰かが言っていた。
遊郭『勿忘』の太夫はとても物知り。
フラりとスイはそこに立ち寄った。
「ちょいとそこの。」
「スイ様!どうしてこの様な所へ。もしかしてスイ様もそういうご趣味が?」
スイを少し誂うと、困り顔で違うよ。と軽くあしらって、太夫に頼みたいことがあるのだが会わして欲しい。と頼んだ。
帰ってきたのは案の定、いくらスイ様でも・・・と渋る声。
そりゃそうか
花魁の世界は金が全て。
トップクラスになると、相当な大金持ちでと少し厳しい金額らしい。
当然うちにはそのような者はない。
スイもそれは薄々分かっていたことで。
やっぱり無難に他から聞いて行こうかな。
ごめんね。と対応してくれた男に会釈をして敷居を跨ぐ。
外に出て、さて何処から当たろうかと値踏みをしていると上から声が降ってきた。
自分を呼ぶ声。
「君がワスレナの太夫かい?」
「そうでありんす、わっちに何か用かえ?」
「貴女がかなりの情報網を持っていると聞いて話を聞きたかったんだ。」
外に顔を出していた太夫は煙管を口に付け、煙を巻くと、フッと笑みを溢す。
「いいでありんす、但し、お代は高いでありんすよ?」
「んー、あまり厳しい物は止めて欲しいかな。」
「多分、スイ様なら易々と差し出してくれると思うござりんすけど。」
「んー、それは本当かい?」
「わっちを疑うござりんす?」
スイは太夫の目を覗く。
何も読めない上品な笑みを浮かべた顔。
その目に光の芯が一つ通っている。
目を反らしはぁ・・・っと溜め息を吐き、首を掻く。
「分かった、僕が言い出したことだ。」
「・・・ルイ、コイ。御客様だよ。」
暫くして、小さな双子が二人スイを迎えに来て、両腕を引き強引に遊郭の中に入っていった。
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