悪魔城。

 そのとある入口。

「いや~、にしてもさぁ。まさかマジでこんなことになるとはな」

「ホント、それな」

「ただの酒の席での冗談だったのにさー」

「素面に戻る頃には既に引き返せないところまでいってたからな」

「マジでやべぇよな。もしこれが、悪魔人間化計画とかだったらマジやばかったよな」

「いや、そんな企画だったら通ってねぇよ」

「言えてる」

「いや~、にしてもあの子、マジで可愛いよな」

「お前、そりゃそうだろ。世界中の可愛い女の子の中から無作為に一人選んだぜ。可愛くねぇわけねぇよ」

「いやー、にしても可愛いっしょ。日本人も捨てたもんじゃねぇな」

「ホント、どうせならまずはエロい悪魔にしようぜとか言い出したアイツに感謝だよな」

「マジでそれ」

「あ~。今頃、ヤってんのかな」

「そりゃそうだろ」

「うお~、俺もあの子とヤりてぇ~」

「そりゃ、みんな思ってるって」

「あぁ……、おっ? あれ? 早くね?」

 悪魔城と人間界を繋ぐ門が開き、少女が、サキュバスが入ってきた。

 予想以上に早く帰ってきた少女を前に、二人の悪魔は少し動揺した。

「まさか、失敗したのか?」

「いや、あの童貞君の精液がねぇと門開かねぇだろ」

「だよな。じゃあ、成功したのか。性交だけに」

「だなっ。かなちゃん、お疲れ~。何? あの男早漏だったの?」

「……」

「ん? どうした? なんでそんなとこでつっ立って……、んぁ?」

 悪魔が言い終わらないうちに、門から男が――直輝が姿を現した。

「っ? ……なんで、コイツまでいるんだ?」

「どーゆーことだ?」

「まっ、まぁ、かなちゃんが帰ってきたってことは、成功したってことだろ? 性交だけに」

「だよな。少年。どうだったよ? 長年好きだった女の子で童貞を卒業できた気分は?」

「残念だったな。俺はまだ、童貞だ。」

「は?」

 直輝は言うなり目の前の悪魔の顔面を右拳で殴り飛ばした。

「ぶぇっ!」

 さらに今度は悪魔の腹部に右拳を打ち込んだ。

「グェッ!」

 続いてよろめいた悪魔の腹部を思いっきり蹴り飛ばした。

 そして、仰向けに倒れた悪魔の顔面を右足で勢いよく踏みつけた。

「なっ、テメェ!」

 突然のことに呆然としていたもう一人の悪魔が、直輝に向かって走り寄り距離を詰めた。

 悪魔は直輝に向けて手の平を向けると叫んだ。

「オラ、ぶっ飛べ!」

 突然、悪魔の方から直輝に向かって強い衝撃が加わった。

 直輝は1メートル程吹き飛ばされ、地面に仰向けに倒れた。

「ハァ、ハァ、なんなんだコイツ」

 悪魔はそう言いながら、直輝に倒された悪魔の方へ駆け寄った。

「おい! 大丈夫か?」

 駆け寄った悪魔はしゃがみ込み、倒れている悪魔の顔を覗き込んだ。

「……、あっ……あぁ……。なん、とか」

「はぁー。にしてもどういうことだ? アイツからは全く魔力が感じられねぇ。一体どうやって」

 そう言いながら振り返った悪魔の目の前に、直輝が立っていた。

「っ!」

「気合でだ。」

 そう言うなり直輝は、右足で悪魔の顔面を踏みつける様に蹴りつけた。

「ぶぉっ!」

 顔面を蹴りつけられ倒れた悪魔の顔面を、直輝は更に踏みつけた。

「グォッ!」

 そうすると直輝は後ろに素早く二歩程下がり、間合いを取った。

「おい。てめぇらよくも、俺の大切なもんに手ぇ出してくれたな。」

「ぅ……、ぐっ……」

「どうやったらこの人は人間に戻れるんだ。」

「……、ん、んなこと……、教えるかよ……」

 直輝は悪魔にゆっくりと歩み寄った。

「答えねぇなら、ぶっ壊すぞ。」

「……」

「答える気はないのか。」

「……」

「答えないなら、本当に壊すぞ。」

「……、やってみろ!」

 言いながら悪魔は直輝に向けて勢いよく手の平を突き出した。

 突然直輝の顔面に強い衝撃が加わり、直輝は上半身を大きく仰け反らせた。

「……、へっ……。人間風情が」

が、次の瞬間、直輝は勢いよく上体を元に戻し言った。

「んな軽い攻撃じゃぁ、俺はヤれねぇよ。」

「……、なっ……。魔力のないお前が……、どうして……。なんで、さっきから」

「気合で殴って、気合で耐えた。それだけだ。」

「……」

 ……。

 直輝と片方の悪魔は、無言で見つめ合った。

 少しの沈黙の後、直輝は瞬きをし、溜息をつき、沈黙を破った。

「……、突然こんなことして申し訳ありませんでした。つい、やり過ぎてしまいました。本当に、申し訳ありませんでした。」

「……」

「どうしたらあの人は人間に戻れるのか、教えて下さい。お願いします。」

直輝はそういい終わると、深く頭を下げた。

「……」

 直輝は床に右膝をつき、正座をし、両手を前に出そうとした。

「……、わかったよ。あの女を人間に戻す方法は簡単だ。人間に戻すための薬を飲ませればいい」

「……。」

「ただ、薬がどこにあるかは俺達は知らねぇ。本当だ。俺達はそこら辺には関わってないし、そもそも人間に戻す気なんてなかったからな。暴走した時のためとかで作ったらしいが、そこら辺はよく知らねぇ。俺が知ってるのは、この城のどこかにあるってことぐらいだ。本当だ」

「……わかりました。ありがとうございます。」

「……。オマエ、薬を探すつもりか?」

「はい。」

「ここは悪魔城だぜ。全員が集まってるわけじゃあねぇが、城内には悪魔がごろごろいる。俺らみたいな低級悪魔じゃねぇ奴もな。それでも探すのか?」

「はい。」

「はっ。ヤることはちゃんとヤるくせに、ヒーロー気取りか、笑わせるぜ。理由はどうあれ、オマエはオマエのことを好きでもなんでもないその女とヤってんだぜ。今さら何をしたって、オマエはその女のヒーローなんかになれねぇぜ?」

「……俺は別に、あの人のヒーローなんかになる気はないですよ。それに俺は、童貞だって、言ったじゃないですか。」

「へっ。なんだその嘘は。かっこつけてるつもりかなんだか知らねェが、かっこわりィし無駄だぜ。この城と人間界を繋ぐ門の中で、あの女が通れるのはここだけだ。そんで、この門をあの女が開くための条件はお前の精液を持っていること。この門は、設定された条件を満たしていない者は例え魔王であったとしても通さない。あの女がここにいる時点で、あの女とオマエがヤったことは明白なんだよ」

「俺はあの人を俺なんかと、交わらせたりはしませんよ。」

「ウゼェな。オマエの精液なしじゃ、あの女はここを通れねぇんだよ」

 直輝は自分の胸を親指で指しながら言った。

「だから俺ごと、持ってきた。」

「ぁ?!」

 悪魔はしばし、沈黙した。

「……へっ。そういうことかよ。確かにそれならお前がここにいることにも合点がてんがいく。その女の所有物として入ってくるたァ、よくもまあそんなことが思いついたもんだな。まるで、巧いこと言って人をそそのかす悪魔みてェだ」

「悪魔にそんなこと言って頂けるとは。光栄です。」

「へっ。……、そんなオマエに特別に忠告しといてやるよ。俺等みたいな悪魔ってのはな、大抵が人の欲を糧にして魔力を生み出してる。その中でも、この城にいる奴等の大半は、人の欲の中でも最も根源的で強力であると言われる性欲を糧にしてる奴等だ。まあ精々、オマエの性欲でその女を傷つけないように気をつけるんだな」

「はい。ありがとうございます」

「はっ。じゃあ、さっさと行けよ。夜明けまでに戻んねぇと、帰った後がめんどくせぇぞ」

「はい。先程は本当に、申し訳ありませんでした。色色、ありがとうございます。では、これで。」

そう言うと直輝は、戸惑う少女を連れて城内へと入っていった。

「……、オイ。大丈夫か?」

「あぁ、なんとか」

「アイツ、相当ヤベェな」

「あぁ、イカレてやがる」

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