悪魔と
木村直輝
1
眠い。
今何時だろう?
まだ暗いし……。
寝よう。
真っ暗な部屋の中――布団の中で、直輝は思うともなしにそう思った。
そして、お腹ぐらいまでしかかかっていなかった毛布を引っぱり上げ、頭まで布団にもぐりこんだ。
その過程で、一瞬開いた目に、人が映った。
……。
ん? ちょっと待った……。今……、誰か……。いや……。なんだ?
直輝の眠気はほとんどなくなった。
怖かった。すごく、怖かった。恐怖だった。
人がいるなんてありえない、とも言いきれないけれど……。
自分の部屋がない直輝は、家族と同じ部屋で寝ている。親や妹が、寝ている直輝の傍らに座って寝顔を覗き込んでいる可能性だってないわけではないが……。それはそれで恐いと言うか、気持ち悪いというか、なんと言うかである。
それよりは、見間違えである可能性の方が高い。真っ暗な部屋の中で、寝起きで一瞬見ただけで、はっきり見えたわけではないのだから。
どちらにせよ、このまま眠るのは難しそうだったので、直輝は思い切って毛布から顔を出し、恐怖を堪えて目を開けた。
そこにはあの人が座っていた。
直輝のすぐ脇に、直輝の腰ぐらいの位置に、あの人は座っていた。
「おはよう。木村」
懐かしい声で、あの人はそう言った。
中学時代に幾度となく聞いたことのある声で、当時は聞くともなしに聞いていたその声で、あの人は言った。
「私と、エッチしよう」
「……。」
……。
意味がわからなかった。
訳がわからなかった。
わけわかめ。
「えっ……、えっとー……。」
「だよね。いきなり過ぎて、意味わかんないよね」
あの人は、微笑みながら、そう言った。
俺は、心の中で、同意するともなしに同意した。
「私ね、悪魔になっちゃったんだ。夢魔って言う悪魔。女性型は、サキュバスって言うらしいんだけど……、知ってる?」
「……、うん。」
いやまあ知ってるけど……、知ってるけどもね……。
そうじゃなくて……。
「それにしても汚いね。木村の部屋? ってゆーか、木村の家」
いやまあそれは否定しないけどもさ……。
二人の間に、少しの沈黙が流れた。
「……、えっと……、あの……。」
……。何て言えばいいんだ……。
「意味わかんないよね。起きたら私がいて、悪魔になったとか言われても」
まあ、そりゃぁなぁ……。
「うーん……、何て説明すれば良いんだろう……。
私ね、人類悪魔化計画の試作品なんだって。私も詳しくは知らないんだけど、人類悪魔化計画の実験台みたいな感じらしくて……。
今日がその初仕事なの。ちゃんと悪魔としての働きができるかの、試験の日なの。
サキュバスはね、寝ている男性とセックスして精液を奪う悪魔らしいんだけど……。
本当だったらサキュバスは、襲う男性の理想の姿で現れることができるらしいんだけどね、私は試作段階だし悪魔になったばっかりだから、まだ上手くそこまでできなくて……。
しかも初仕事だから、難易度は低い方がいいって事で、私に片思いしてる男を探したらしいの。魔力でね。
でね、私に片思いしてる男の中で、その思いが強くて、その期間も長くて、しかも性に飢えてそうな童貞を選んだら……、それが、木村だったんだって……」
「……。」
「……、あっ。ご家族は全員、終わるまで魔力で起きない様にしてあるから、大丈夫だよ……」
「……。」
「……じゃあ、そろそろ始めよっか?」
「……。」
「木村……、私のこと、ずっと好きだったんでしょ……。良かったね……、私と、エッチできて……」
あの人は、悲しそうにそう言った。
その皮肉を聞いて、俺は……。
服を脱ごうとするあの人を前にして、俺はやっと、ちゃんと口を開いた。
「あの、ちょっと、待ってくれませんか。」
「?」
「俺の精液を……、奪いに来たんですよね。」
「……、そうだよ」
「つまり……、俺の精液を持ち帰ることができればいいんですよね。」
「……、うん……」
「じゃあ、その方法。俺に決めさせて貰えませんか。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます