3
悪魔城。
廊下。
直輝は自責の念に駆られながら、悪魔を探していた。
少女を人間に戻す薬がどんなもので、どこにどんな風に置かれているのか、何もわからない現状では、薬を探すより悪魔を見つけて、薬の情報を訊き出す方が得策だと……、そう思っていたのだが……。
先程、やっと目の前に現れた悪魔を、直輝は何も訊かずに気絶させてしまった。
あれっきり、悪魔は一向に姿を現さない。
直輝は、扉を見つけては開き、扉を見つけては開きを繰り返していた。
そしてまた一つ扉を見つけた直輝は、その扉を開いた。
「よう、兄ちゃん。精が出るねぇ。精液は出さなかったクセによぉ」
「!」
そこそこ広い部屋の中、部屋の一番奥の壁の前に、扉と向き合う形で置かれたソファー。
その上で、ゆらゆらと炎が揺らめいていた。
ソファーが燃えているわけではなく、何が燃えているというわけでもないのに、ソファーの上には揺らめく炎が存在していた。
目の様な模様のある、オレンジ色の炎。
先程の声はどうやら、その不思議な炎から聞こえたようであった。
「ハハハ、兄ちゃん。そう、警戒しないでくれよ。俺みたいな悪魔は、兄ちゃんみたいな若い男がいてこその悪魔だからよぉ。突然襲いかかったりはしねぇよ?」
「……。」
「いやー、にしても可愛いよね、そのお譲ちゃんは。そんな子と一緒にいると、男はやっぱ滾ってくるよね? 込み上げてくるよねぇ、熱いものが」
「……。」
「ハハァ、そんな目で見るなよ。ホントのことだろぉ? 別に隠さなくたっていいじゃないか。そのお譲ちゃんだってそれぐらいのことはわかってるはずだよ。ねぇ、お譲ちゃん」
「えっ……」
「フフ、その反応も可愛いねぇ。まったく、可愛い子ってのはさぁ、一挙一動が可愛いよね。それは天然なのかい? いったい、どこまでが計算なんだい? ……ハハ、まあいいや。俺はね、ギンギンに熱く
「……。」
「いやー、それにしても兄ちゃんは無口だねー。まあでも、唐突にこんな話されても返答に困るか。無口って決めつけるのも早計だね」
「……そうですね。」
「ハハ、無口って言ったら途端に返事をするだなんて、兄ちゃんなかなか捻くれものだね。まあ、それはそうと兄ちゃん」
そう言った炎――悪魔から突然、火の粉が飛び出し少女へと降りかかった。
「きゃっ!」
火の粉は少女の衣服に降りかかり、触れた部分を一瞬で灰にしてしまった。
「大丈夫ですか?!」
直輝は言いながら悪魔と少女の間を遮る形で、少女の許に駆け寄った。
「……う、うん」
「なら好かったです。ごめんなさい。」
少女の衣服に開いた数箇所の穴からは、慎ましやかな胸元と艶やかな太腿が覗いていた。
直輝は少しの間少女を見つめると、悪魔の方に振り向いた。
「フフフ、兄ちゃん。怒っているかい? ごめんね、お譲ちゃん。でも、今の火の粉は衣服だけを少し燃やすだけで、特に体には影響ないから。安心してよ。それよりも兄ちゃん。どうだい、好きな女の子の体を見た感想は。そのお譲ちゃんは今や、男と交わるサキュバスだ。君は、お譲ちゃんの――かなちゃんのその体を、撫でまわし、舐めまわし、余すことなく堪能してもいいんだよ? フフ。怒っていても、体は正直だろう? 熱くギンギンに、滾ってくるだろう? そして燃え上がるんだ。ほら。ボウッ、って」
……。
「なぜだ? なぜ燃え上がらない? 兄ちゃんはそのお譲ちゃんを前にしても、ギンギンに熱く滾らないとでも言うのかい?」
「んなわけねぇだろ。俺のアレはいつだって、熱くギンギンに滾ってるよ。」
「そうだろ? ……じゃあなぜだ? なぜ燃え上がらない? ギンギンに熱く滾るモノの熱を数百倍にするこの力を、いったいどうやって……」
「てめぇの魔力なんかでよぉ、俺の熱さは操れねぇよ。熱くギンギンに滾ってる、俺の魂の熱さはなぁ。俺の魂はいつだって限界突破して、いつでも熱く燃えてるんだよぉ。」
「なっ……」
「てめぇ。よくも俺の大切なもんに、汚ねぇ火の粉をふっかけてくれたなぁ。」
ドクゥン! ドクゥゥン!
「なっ、なんだ? この音は」
「これか。これは俺の、熱くギンギンに燃え滾る、魂の音だ。」
「たっ、魂の音だって……。兄ちゃん……。ふざけちゃあいけないよ。そんなもの……。熱くギンギンに滾るものの音は、ビクンビクンに決まってるだろ!」
「ビクンビクン? それは、俺の熱くギンギンに燃え滾る魂の音に怯える、てめぇのぬるい魂の音だ。」
「っ!」
ビクビクビクゥゥゥゥン!
「なぁ。俺の、熱くギンギンに滾る魂の熱さ……。感じてるか。」
「あ、あぁ、感じてるさ。でもなぁ、兄ちゃん。冷静になるんだ。俺の体は炎だ。兄ちゃんいったい何する」
「感じてるんだろ。だったらよぉ……。一気にそのまま、イかせてやるよぉ。」
「いやっ、ちょ」
喋りながら少しずつ悪魔との距離を詰めていた直輝は、言い終わると一気に走りより距離を詰め、悪魔目がけて右拳を打ち込んだ。
「ぁっ!」
揺らめく炎は静かになった。
「……。」
少しの沈黙の後、直輝は少女の方を振り返り思い出した。
「あっ。」
薬のこと、又忘れてた……。
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