第21話 安く買えたけど
「シャーフさん! ボアの調理お願いします!」
「……お前、いつ旅立つんだ? それに、ここは★ランクなしのカウンターなんだが」
「うん? ダメなの? だって、いっぱいいるんだもん」
★ランク1は、この街で一番多いランクだ。マイゼンドが★ランク1になった事で今は、★なしはいない状態だ。
「まあ暇だからいいけど。クエストを受けていたのか?」
「ううん。あのね、燻製と生肉と半々にして欲しいんだ。で、生肉をこれに入れて」
「生肉は持って歩くと腐……はぁ?」
嬉しそうに冷蔵箱を出したマイゼンドに、シャーフはいつも通り驚いた。
「お前、それどうした!?」
「うん? 買った」
「………」
やはり人とは感覚が違うと驚くシャーフだった。
「俺は、野営に必要な物を買えと言ったんだが、これは違わないか? って、よくお金あったな!」
「うん。食費もかからなかったからクエストのお金はほぼそのまま残っていたから。それにこれ、中古」
シャーフは、それにしてもと眉間にしわを寄せる。
「異空間を持ってるならそれ、いらないだろう!?」
「え? そうなの?」
「聞いた話だと、時間が止まってるらしいが、転化空間は違うのか?」
「時間経過二分の一だって。これの事かな?」
「一応、時間は流れているのか」
一時間経っても転化空間内は30分しか経過しない事になる。だが時間が経過するので、生肉は腐るという事だ。
「あのな、生肉持ち歩くより焼いたのを持ち歩いた方が、食中毒のリスクは減るぞ」
「あ、そっか。じゃ、焼いたのを冷蔵箱に入れるね」
「まあ、買ったのなら使った方がいいだろうが……」
「ねえ、やっぱりモンスターを調理するのには、スキルがないとだめ? 前に切って焼くだけなら出来るって言っていたよね?」
「うーん、そうだな。皮を捨てるなら自分でやってもいいかもな。骨付きで焼くなら何とかなるだろう」
「調理器具があってもだめ?」
「それがスキルと同じ効果がある魔導具なら別だが、普通は調理出来ないなら自分でしないぞ」
「うーん。買ったんだけどなぁ。浄化付きだしいいかなって」
「調理スキルもないのに買ったのか! 説明はなかったのか?」
「うん? あ、いや……」
調理スキル用だと聞いたのに買ったのかと、シャーフは呆れる。
「あのな、使えもしないもの買ってもしかたないだろう」
「だって、MP使って浄化できるのもついていたんだよ! それだけでも使えるよね!」
「それを買わされたのか……」
「え?」
シャーフは、大きなため息をついた。
「もしかして、冷蔵箱とそのセットを一緒に買うと値引きするとか言われなかったか?」
「何でわかったの?」
「その商品は、不評だったんだ」
「なんで? 便利なのに」
「そう思うのはお前の様なステータスなやつだけだ。いいか、MPは回復力のパラメータがないやつは、自力で回復する事はない。魔法やポーションで回復させるんだ。そして、ステータスのパラメータは、人ぞれぞれ違う。絶対にあるというのが、HPと素早さだ。MPすらない者もいる」
マイゼンドは、シャーフから話を聞いて驚いた。まさかMPがない者もいるとは思わなかった。回復力は、フルムーンのパーティー内では自分だけだったので、持っている人は少ないとマイゼンドも知っていた。
「だいたい調理できるとしても、パーティー内に火を扱う魔法を使える者がいれば、調理器具だけでいい。浄化もほとんどの奴らは必要としていないんだ。異空間を持っている奴は稀だ。だから調理器具を持って歩くより、食料そのものを持って行く方が良いに決まっている。そのセットは、一部の者にしか売れなくて、大抵はそうやって他の売れない物と一緒にして売ってるんだ」
「え? 冷蔵箱も売れないものなの?」
「俺の話を聞いていたか? デカくて重い物など誰が持って歩きたいんだ」
「………」
もし転化空間がなければ、マイゼンドも持って歩こうとは思わないだろう。
「まあお前は、転化空間があるんだから持ってあるけ。ほれ餞別だ。火はついてなかったんだろう?」
ボアと交換に丸くて平べったい物をシャーフは、カウンターの上に置いた。直径10センチで厚さ1センチもない、赤い大きなコースターの様なモノだ。
「何、これ?」
「MPを消費して、物を温める道具だ。こっちの中央がちょっと凹んでる面が熱を持つ。MPは、100まで入るが、3分で5消費する。因みにその中央の窪みに、コアの欠片を入れれば暫くの間はMPなしで使える調理器具の一つだ」
「え? くれるの?」
「俺のお古だけどな。かく言う俺も買って使ったんだ。お前ぐらいの★クラスだと、MP5消費でも迷うもんなんだけどな」
「ありがとう! 大切に使います」
「今度買う時は、考えて買えよ。使える物をな!」
「はい。わかりました!」
「明日の朝までには、作っておくよ。今日はゆっくり休めよ」
なぜかニマニマしているマイゼンドに何となくあやしさを感じるも、明日にでも出発するのだろうと、シャープはそう声を掛けた。
マイゼンドは、うんと頷いて冒険者協会の建物を元気に出て行くのだった。
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