第19話 ザラと一緒♪
「よいしょっと」
マイゼンドは、ドサッとボアを空間から取り出し、カウンターの上に置いた。
「お前、今どこから出した!?」
その行動に、お約束の様にシャーフは驚く。
「うんとね、しまえる空間のスキルを覚えたんだ。そこから」
「なんだと! 異空間を覚えたのか? まあMPもかなりあるだろうからな」
腕を組んでうんうんと頷くシャーフの言葉に、マイゼンドは首をかしげる。
「MPは消費しないよ。HPだよ」
「うん? は? ダメージがあるって事か?」
違うとマイゼンドは首を横に振った。
「10,000分のHPと引き換えに、体内に空間を作れるんだって。痛くないよ」
「……今、何と言った?」
「痛くないよ」
「10,000分のHPだと!?」
マイゼンドはそっちかだったかと、そうだと頷いた。
「そのスキル名はなんていうんだ?」
「転化空間。☆のスキルだった」
「だったって……普通は、一つでも持っていれば凄いのに、二つ目かよ!」
マイゼンド本人に凄いという自覚がないが、持っている者はトップクラスになっている者がほとんどだ。それをふたつも持っている。
「それに似た異空間という魔法があるんだ。自分の周りの空間に、収納スペースを作る魔法だが、MPの消費が半端ないらしい。だがそれがあれば、装備だけで色んな場所へ行けるので、あるのとないのとでは大違いだ。お前はMPを消費せずにそれが出来るんだぞ。凄いんだぞ? わかるか?」
最後は唾を飛ばしながらシャーフは、マイゼンドに説明した。
「そうなんだ。僕のは体内にしまうって書いてあった。ザラと一緒♪」
「一緒って……とりあえずは、ソロで行動したいと思っているのなら人前では使うな。それじゃなくてもステータスが凄いんだからな」
「はーい。これでザラに食べられないで済む」
「そうか、よかったな。もっと使い道があるとおもうんだが……」
はぁっとため息を漏らすシャーフ。
「ねえ、シャーフさん。旅に出るのに必要な道具ってどんなの?」
「冒険する気になったのか?」
マイゼンドは頷いた。
食事の確保が出来るようになったので、ちょっと冒険してみる事にしたのだ。ボア狩りをしていたので、お金も結構たまった。ただ、何が必要かわからないのだ。
「そうだな。しまって持って行けるなら、野営用の道具とか持ち歩くといいかもな。後は、その為のモンスター除けのアイテムや、あと装備も整えた方が……まあお前の場合は、大丈夫か」
シャーフは、まず弱いモンスターの攻撃は交わせるだろうと思ったのだ。攻撃力はないが当てられるので、当面は今の武器でも大丈夫だろうとも思った。
「そっか。野営か。冒険者って感じだよね!」
「お前の喜ぶ基準がよくわからんな。そうだ。あまり変なモンスターを食うなよ」
「変なって?」
釘を刺されたマイゼンドだが、シャーフの睨んだ通り楽しみにしていたのだ。
「体内に毒を持ったモンスターもいるから何でもかんでも食べるのはやめておけよ」
「え? そうなの? 気を付けないとザラが死んじゃう」
「そっちの心配かよ……」
「だって、僕の初期のステータスと一緒なんだよ! HP100しかないんだ」
マイゼンドがそう言うと、シャーフは驚いた顔つきになった。
「ザラって弱いんだよ」
「いや、驚いたのはそこじゃなくて、お前と丸っとステータスが一緒なのか?」
「うん。スキルが違うだけ。僕の魔力を上げたからかな?」
「じゃ、攻撃力もないって事か!?」
驚くシャーフに、そうだとマイゼンドが頷く。
「……食べ物を奪うだけではなく、攻撃力もないなんて。それ本当に聖獣か?」
「え? 違うの?」
「知るか! まあ、お前に懐いてはいるみたいだからな。役に立ちそうにないが」
「いるだけで寂しくないから」
本当は、会話ができたらいいのになぁとは思っているが、一向にそういうスキルを覚えないのだ。
「まあ、あれだ。いつでも戻って来ていいからな。アパートには住めないだろうけどな」
あのアパートは一旦出て行くと、一年以内でも借りられなくなる。
「うん。リトーンに会って来る」
「リトーンか。確か、トグリップに向かったはずだ。あそこには、祈りの泉があるからな」
「祈りの泉?」
「経験値をくれる泉だ。ただし、それでレベルが上がってもスキルや魔法は覚えない。だが、何が覚えるかわからないスキルよりはまず、レベル上げだからな」
「そうなんだ。僕には必要ないけど……」
マイゼンドの場合は、今よりずっと上がりやすくなるはずだ。どうせなら便利なスキルか魔法がほしいのだ。
「まあ、お前の場合は、攻撃力のある武器だろうな。エンチャントしてもらえばいい。お金と鉱石が必要だが、武器を強化してもらえる」
「へえ。そうなんだ。街に行ったら聞いてみる」
マイゼンドは、旅支度をして冒険に出る事になった。
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