第8話 兎と亀
「うーん。ぎゅぎゅになっちゃった」
次の日、一角兎を狩りに来たマイゼンドは絶好調。さくさくと一角兎を倒して行った。重くなった袋は持って歩く時は浮かせ、移動するのには問題はないが、狩り過ぎたせいか、辺りに一角兎がいなくなってしまった。
「ぎゅぎゅになったし、一旦戻るかな?」
冒険者協会に一角兎を持って行くと、驚かれた。レベル8の攻撃力も魔法も持たないマイゼンドにしては凄すぎるのだ。レベル10になっていない彼が、スキルや魔法を取得しているはずもないと思っているので、不思議でならないシャーフだった。
「35体だ。で、燻製も作るのか?」
「はい」
「長持ちするとはいえ、食べきれないだろう」
「そうですけど、勿体なくないですか?」
「モンスターの肉を勿体ないと言ったやつを初めて見たよ。まあ作るけど、食べきれなかったからとそこら辺に捨てるなよ」
「はい!」
わかったと返事を返す。
皮を剥ぐのを待って、貰った毛を持って仕立て屋に持って行く。
「凄いね、君。一人で狩ったのかい?」
「はい」
「でもいつも狩っているところいなくなっちゃったんだよね」
「あぁ。じゃ川の近くにもいるらしいからそこでどうだい? ちょっとレベルが高いのがいるらしいから腕に自信があるのならだけどね」
「そうなんですか? ちょっと見に行ってみます」
次の日マイゼンドは、ボアがいる場所の奥にある川辺を目指した。
買ったかぎ縄を使い木に引っ掛けて、浮いた自分を引っ張り進む練習もしながら向かう。
木にかぎ縄を引っ掛けるのも自分を移動させるのも最初は難しかった。上手く引っかからずに戻ってきたかぎ縄の先が自分にぶつかったり、移動して止まれなく木に衝突したりと、戦闘する前にボロボロのマイゼンドだ。
思ったより難しいかぎ縄を使っての移動の練習は、目的地に着く頃にはだいぶ上手になっていた。上手く目的の場所に投げ飛ばす事が出来るようになり、木に足で着地する事により激突しないようになった。
川のせせらぎの音が聞こえる森の中に一角兎の姿を捉える。
木の上にいたマイゼンドは、一角兎に向かって木を蹴り、自分に浮遊を掛けた。ボアはそれでも止まらずに進んだのだからこれでも進めると思ったのだ。予想通り猛スピードで一角兎へと向かって行き、マイゼンドはかまえた剣で一角兎を串刺しにした!
上手くいったと喜んだマイゼンドだったが、一角兎がぴょーんと跳ねたのだ! 死んだと思って油断していたマイゼンドは、吹き飛ばされた。剣は一角兎に刺さったままだ。
「え~!!」
体を起こして逃げて行く一角兎を追いかける。よく見ると一角兎は、ボアと同じぐらい大きかった。なんか違和感があると思っていたマイゼンドは、これかっと納得する。
ジャンプした一角兎に、マイゼンドもジャンプして浮遊を掛け抱き着いた。そしてその勢いでそのまま飛んで行きそうになり、慌てて浮遊を解除するとそのまま落下。しかも浮遊を解いた途端、明るくなったと思ったら森から出ていた。崖だったのだ! 川辺に一角兎ごとマイゼンドは落下する。
「わぁ」
慌てて浮遊を掛けるも一角兎は重かった。思わず手を離すと、一角兎が剣ごと落下していく。仕方がないので、ゆっくりとマイゼンドは川辺へと降りた。
一角兎は、今度こそ力尽きたようだ。しかもあまり見たくない容姿になっていた。辺りは血だらけだ。
「これ、毛って使えるのかな? げ……」
ふと自分を見ると、一角兎に抱き着いた為に一角兎の血で服が真っ赤になっていた。慌てて剣を抜き、剣を持って川の中へと入って服と剣を洗う。
じゃりじゃりと川辺を這う様な音が微かに聞こえたと、驚いて一角兎に振り返った。まだ生きていたのかと思ったが違った。石が動いている。
(石のモンスター?)
そう思ったマイゼンドだが、そっと近づいて見るとそれは、亀だった。直径15センチ以上はある大きな亀だ。それが、死んだ一角兎へと向かっていた。
移動の邪魔だろうと一角兎を少し浮かせると、亀はジャンプして一角兎にかぶりついた!
「え!?」
驚く行動に暫く、茫然とするマイゼンド。
亀は、一部の肉を引きちぎり地面に落下すると、その肉をむしゃむしゃと食べていた。
「亀ってモンスターを食べられるんだ……。あれ? モンスターを食べられるのって、神の加護を受けた者だけじゃないの?」
もしかして、亀にされた冒険者? そう思ったマイゼンドは、一角兎を持って冒険者協会へと急いだ。知らせなくてはいけないと思ったからだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます