第7話 VSボア

 一角兎がいた場所より森の奥にボアは棲息している。

 ボアは、マイゼンドが思っていたより大きかった。あれが一角兎より早いのが不思議な感じだ。


 マイゼンドの素早さは、600を超えていた。なので素早さ的には問題はない。ただ、相手に10回攻撃しないと倒せない事が問題だった。体型から言って一角兎の様に、向かってきたのをただ斬るという訳にはいかないだろう。


 「攻撃受けたら凄く痛そう」


 何かいい方法がないかとマイゼンドは考える。


 ドドド……。


 ハッとしてボアの方を見ると、自分に向かって来るボアが見えてマイゼンドは驚いた。ボアに見つかったのだ。


 「ぎゃー!」


 咄嗟に浮遊してどけようとした。ただボアは思ったより早く自分に到達した為に、ボアに両手をついて跳び箱の様な感じで浮かんだ……はずだった。


 どさ!


 「いった~い」


 ガツン!!


 マイゼンドが地面に衝突した少し後に、ものすごい音が後ろから聞こえた。魔法を使うのを失敗して地面に叩きつけられたマイゼンドが後ろを振り向いて驚く。

 ボアが木にぶつかって伸びていた。ただそのボアは浮いて・・・いたのだ!


 「あれ? もしかして浮遊って自分以外にもかかるんだ」


 手を付いた事により、ボアに魔法がかかったのだった。猛スピードで進んでいたボアは、そのスピードのまま木に衝突。気を失っても魔法で浮いたままだった。


 「あ、今のうち!」


 剣を手にボアを叩く。目を覚ましたボアだが、逃げたくても動けない。その場で浮いたまま、バタバタと足を動かすだけでついに死亡した。

 一生懸命に剣を振ったので、息が上がっているマイゼンドは、その場に座り込む。


 どすん!


 「うわぁ」


 マイゼンドは、魔法の効果が切れたボアが目の間に落ちて来て驚いた。


 「あぁ、このボア重そう。どうやって運ぼうかな?」


 倒す予定ではなかったので、困って眺めていたが、ふと閃く。


 「浮かせばいいじゃん」


 ボアに浮遊の魔法をかけて、それを押して行けばいい。名案だと早速ボアに浮遊を掛けると、ふわりと浮く。ただ浮かせられる時間が3分間なので、走って移動する事にしたが、それでも何度も魔法を掛けなくてはならなかった。



 「一体、どうやって倒したんだ?」


 軽々とボアを持って帰って来たマイゼンドに、唖然としてシャーフが聞いた。


 「どけたら自分で木にぶつかって気を失ったから……」


 嘘ではない。だが真実は少し違う。

 シャーフは、マイゼンドの運の良さに驚いた。きっとレベルが低いボアだったに違いない。そう思ったのだ。ボアは最初から10レベルらしいのだが、稀に8レベルと低いのもいるらしい。それだったのだとシャーフは思った。


 マイゼンドが森へ行った後に、シャーフは彼のステータスを確認そしていた。と言ってもレベル1の時のステータスだ。今のステータスを確認するのには、「ステータス確認」というスキルが必要だが、それをもった者はこの街にはいない。

 なのでレベル1の時の数値からレベル8の数値を計算したのだ。一律一割増える仕組みなので、計算は簡単だ。


 レベル8ならば、素早さは119になる。150の素早さがあるボアの攻撃を交わす事は、ほぼ不可能だ。


 「まったく無茶しやがって」


 「え~。襲われたんだもん」


 「……そっか。無事でよかった。ほら報酬だ」


 「え? 受けてないけどくれるの?」


 「あぁ。買い取らせてもらうよ。ほら一角兎の皮だ。依頼するんだろ?」


 「ありがとうございます!」


 もらったお金と毛がついた一角兎の皮を持って、仕立て屋に急いだ。

 仕立て屋の主人もお金がなさそうなマイゼンドがお金を持って来たので驚いていた。


 「残りの毛は、毎日持ってきますので宜しくお願いします」


 「あぁ。確かに」


 ルンルンでマイゼンドは、道具アイテム屋に向かう。明日から沢山の一角兎を持って戻る予定なので、それを入れる袋を買う為だ。かぎ縄を買うという、最初の目的などすっかり忘れていたマイゼンドは、かぎ縄を見てハッとして思い出す。


 「そうだった。これを買う予定だったんだ」


 お金に余裕があったマイゼンドは、かぎ縄と袋の他に皮手袋も買った。かぎ縄を扱うなら必要だと思ったのだ。余裕があったと言っても使う予定がなかっただけで、貯金などないマイゼンドは、ほとんどお金がなくなった。


 それでも気にしないマイゼンド。冒険者が貯金できるようになるのは、★ランクが3以上になったらと聞いていたからだ。

 燻製もあるので、毎日同じ食事にはなるが暫くは食べるのに困らない。


 今日も10階まで浮遊して自分の部屋へと戻るマイゼンド。浮いて上がる事に関しては、恐怖心はだいぶなくなっていたのだった。

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