第6話 仕立ててもらいたいのです

 次の日、一角兎を倒すべき森に来ていた。

 向かって来る一角兎を避けもせず、斬りつける。まるで高レベルの冒険者の様だ。但し攻撃力はないので、一回では倒せない。

 マイゼンドは、楽しくなっていた。

 手を振るだけでラクラク倒せるのだからだが、素早さは通常で計算すれば50レベル以上の数値なのだ。元々初期数値にしては、高い方の数値だったし不思議ではない。


 気が付けは、一角兎の死体の山だ。

 一角兎の角が5個でいいところを10体も倒していた。


 「あ……倒しすぎた」


 レベルも1レベルから4レベルに上がっていた。レベルの上がり方はやはり、拾うクエストの方が上がりやすいが、これだけ楽に倒せるなら数をこなして素材集めも良いかもと思い始めていた。


 とりあえずと、両手に抱えて一角兎を何とか冒険者協会へと運ぶ。マイゼンドを見た人たちは皆、振り返っていた。普通は袋などに入れて運ぶが、そのまま一角兎を持って歩いているからだ。


 「何やってるんだ……」


 マイゼンドの姿を見たシャーフがまた驚きの声を上げた。


 「倒しすぎちゃったけど、全部燻製にしてもらおうと思って」


 「はぁ? 全部?」


 マイゼンドは、うんと頷く。

 ただ焼いた肉より燻製の方がおいしかったのだ。日持ちもするし、何せ冒険に旅立つなら燻製は必需品。だたマイゼンドには、今の所街を出る予定はないが。


 「……街を出る予定でもあるのか?」


 「なんで?」


 「なんでって、食料調達しているみたいだから。それとも毛を使って防具でも作るのか? まあ10体じゃ足りないけどな」


 「え? 防具を作れるの?」


 「……違うみたいだな」


 「詳しく聞きたい!」


 「防具と言っても防御力はないに等しいぞ。つくるなら防寒用だな。俺に聞くより仕立て屋に聞きな」


 モンスターの剥いだ皮を使って服を作るスキル、「仕立て」を持った冒険者は仕立て屋で働いている。彼らには鎧は作れないが、物によってはそれなりの防御を持った色んな耐性の衣服が作れるのだ。



 一角兎を預け、マイゼンドは仕立て屋を訪ねた。


 「はぁ? 一角兎で作るだって? お金がかかる割には何の効果もない服になるぞ。それならまだ敷物にした方がいいってもんよ」


 一角兎で服を作って欲しいと言うと、笑いながらそう返された。


 「じゃそれを!」


 目をキラキラさせて、マイゼンドは言った。

 自分で倒したモンスターで作った物が手に入ると、嬉しくなっていたのだ。


 「いや、ただ寝袋みたいな感じだぞ? しかも買った方が安いが? それでもいいのか?」


 「はい! 是非!」


 「……まあ、そこまで言うなら。一角兎の毛を100体分必要だが」


 「はい! 調達します」


 「了解。お金は前払いになってる」


 それを聞いたマイゼンドは固まった。


 「貯めたら払います」


 「そうか。では、材料だけ先に受け取る事も出来るから。お金を頂いたら開始する。それでいいかい?」


 「はい!」


 「銅貨500枚な」


 「え!? あ、はい」


 はいと言ったものの今のままでは貯められない。職人の手作りは高いのだ。


 「うーん。お肉のクエストもあったっけ? どうせだから一緒に引き受けよう」


 名案とばかりマイゼンドは、冒険者協会へと戻った。

 だが――


 「一角兎の肉の依頼なんてないぞ」


 あったと思ったクエストはなかったのだ。


 「ボアならあるがな。普通はこっちを食べるんだ」


 「あ、そうなんだ」


 依頼を見てみると、ボアの牙もあり肉と合わせると一体銅貨500になる。それを見て、マイゼンドはこれだと思った。


 「これ受けます!」


 「大丈夫か? 大型犬を太らせた体型だぞ? ちゃんとモンスターのステータス表見たか?」


 モンスターのステータス表とは、その名の通り近くにいるモンスターのステータスが書かれている。


 ボア:レベル10

 HP:50

 攻撃力:30

 素早さ:150

 突進して攻撃してくる


 (うーん。10回攻撃しないとダメなのか)


 「わかったか? 一人では無理だろう? HPはそれほど高くないが素早さがあって、防御がある装備をしていないと、死ぬぞ」


 このボアを倒すのには素早さがなくてはならない。攻撃が当たらないと倒せないからだ。通常レベル8の冒険者では、攻撃はあたらない。しかもこれより高いレベルのボアもいるのだ。


 「はい。わかりました。大丈夫です」


 「わかってないじゃないか!!」


 シャーフが怒鳴った。こうして、二人の押し問答が約一時間続いたのだ。結局、ちょろっと遠くから見て来いとシャーフに言われ、実物を見て仕事を受けるかどうか決める事になったのだった。

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