第590話 神力


「神力?」


「そう。神力」


 ディースさんが見事に初狩りを達成し、再び進み始めた人力車の中で、改めて本人に今の戦闘を解説してもらった。

 なんでも戦闘中に歩きキノコに叩き込んだ打撃は――神力とやらを込めた打撃だったらしい。


「ただの打撃ではないと思っていましたが、神力ですか……」


「そうね。ただの打撃ではないの。ただのパンチやキックなんかじゃなくて――神パンチや神キックだったわけね」


「…………」


 ふむ。神パンチや神キックや神エルボーか……。なんかだいぶチープな名称になってしまった気がしないでもない。


「えっと、それは具体的にどういうものなのでしょう? ディースさん本来の力とか、そういうことなんですかね? それとも、『神』という種族だったり称号だったりが関係しているのでしょうか?」


「簡潔に言うと――『神』スキルの能力ね」


「ほほう?」


 あースキルか。そっか、『神』スキルとは、そういう能力だった…………あれ?


「でもミコトさんは違うことを言っていましたよ? 『神』スキルは天候を操れるスキルだとかなんとか言っていて、実際に見せてもらった記憶もあります」


 まぁそのときやってもらったのは、『とてもとても小さい雲が、遠くにうっすら見えるような見えないような……?』といったレベルの天候操作ではあったが。


「そうね。ミコトの『神』スキルは、そういう能力みたいね」


「ふむ?」


 ミコトさんはそういう能力? というと、ディースさんのは違うものだと?


「『神』スキルと一言で言っても、いくつかパターンがあるの。……あるみたいなの」


「ほう?」


「私の場合は、自分の神力を操作して、攻撃や防御に使うことができるの。……できるみたいなの」


「……ほう」


 なんか取って付けたように、語尾に『みたいなの』を連呼してるな……。

 まぁ創造神のディースさんは、実際に全部知っているのだろう。しかし、あくまで自分はただの召喚獣というスタンスを取っているため、そう振る舞うと神のルールを制定したため、一応は曖昧にぼかすような表現を心掛けたっぽい。


「いわゆる『気』とか『オーラ』とかをイメージしてくれたらわかりやすいかもね。そういうものを体にまとわせて、攻撃力や防御力を上げたりできるみたいなの」


「なるほど、体にまとわせて……。ということは、肉弾戦専用スキルってことになるんですかね?」


「専用――ではないわね。たとえばだけど、持っている武器に神力を付与することもできるわ」


「へぇ? それはすごいですね。どんな戦い方でも柔軟に純粋に強化できるわけですか」


「そうね。かなり応用が効くスキルで、それどころか――――」


「はい?」


「んー、そうね――ラタトスクちゃん、ちょっと止まってくれる?」


「キー」


 ディースさんは少し考える素振りを見せてから、大シマリスのラタトスク君に停止の指示を出した。

 その言葉を聞き、ラタトスク君がスピードを緩め、人力車を停止させた。


「ありがとうラタトスクちゃん。それでアレクちゃん――あれが見える? あの小石」


「あ、はい。ちょっと待ってくださいね……よいしょ、よいしょ」


 なにせ荷台がぎゅうぎゅうなもので、ポジションをズラすのも一苦労。

 一苦労してから位置を移動し、ディースさんが指差す小石を見る。


「見えました。小石です。普通の小石に見えますが?」


「よく見ててね?」


 ディースさんは指差していた右手の人差し指と親指を開き、いわゆるピストルの形を手で作った。

 そして、その指先から――


「――えい」


「おぉ!」


 ディースさんの指先から、何やら気弾のようなものが発射され、小石をペシンと弾き飛ばした。


「こうやって、神力を弾丸にして飛ばすこともできるの」


「はー、すごいですねぇ……」


 そんな使い方もできるのか。まさか飛び道具になるとは……。しかも格好いい。


「これはあれですか? 一日に四発だけ撃てるとか、そういう回数制限がある必殺技だったりするんですか?」


「……え? えっと、これは別に神力が続けば何発でも撃てるけど?」


「なるほど」


 そうか。それはそれで、むしろちょっと残念かもしれない。回数制限ある方が、なんとなくロマンもあって良いのにな。


「とはいえ、弾丸で飛ばしたり武器に付与するよりも、自分の体に付与した方が簡単だし効率も良さそうなのよね。だからやっぱり肉弾戦で使おうかなって」


「そうでしたか。しかし、それはなかなか思い切った決断にも感じますが……」


「そうかもね。でも、ダイエットにも良さそうじゃない? ボクササイズ的な感じで」


「ダイエットですか……」


 今から体型管理に気を使っているのか……。やはり同僚の現状を見て、今からでも危機感を覚えているのだろうか……。


「そんな感じの戦闘スタイルに決めて、さっきも見よう見まねでポコポコ殴ったり蹴ったりしていたけれど……体術って意味では大したことはないのよね。その打撃に『神』スキルレベル2の力を上乗せしているから、さっきみたいな威力が出ただけなの」


「あー、まぁ『体術』スキルを持っているわけでもないですしね。じゃあ『体術』スキルを取得したら、より強力な打撃を繰り出せそうですね」


 ポコポコではなく、ボコボコとした打撃を放てるようになり、その上での神力付与であり、それはもう相手はボッコボコだろう。


「そうなの。それで体術を学ぼうと――ユグちゃんに付き合ってもらっていたの」


「ああ、ユグドラシルさんを訓練場に呼んだのは、そういうことだったんですね」


「そうそう。ユグちゃんと軽く組手みたいなことをしつつ、世界樹式パワーレベリングを試みた感じね」


「なるほど、そんな訓練を……」


 そういえばユグドラシルさんも体術使ってたなぁ。というかユグドラシルさんの戦闘シーンって、それしか見たことがない。スーパーマンパンチでウルフをふっ飛ばしたあのシーンだけだ。

 あのパンチを知っている僕からすると、そんなユグドラシルさんと組手ってのも、なんだか考えるだけで恐ろしいのだけど……。でもそれでレベル5まで上げているんだものな。ガッツあるなぁディースさん……。


「あ、じゃあディースさんの『魔力値』が異常に伸びているのは――」


「神力を使いながら組手をしたからでしょうね。神力のことは、『魔力値』と一緒にまとめたから。……まとめてあるみたいなの」


「ほう?」


「魔力を神力に変換して使うって考えたらいいかしら? 魔力の量が増えたら使える神力の量も増えるし、魔力の強さが増えたら神力の強さも増える。……増えるみたいなの」


「ほう……」


 もういいんじゃないかな……。なんかもう『私がそう決めました』って言っちゃってもよくない……?

 いや、まぁ確かに『神としてのアドバイスはできない。神だからこそ知っている情報なんかは教えることはできない』って言ってたけどさぁ……。やっぱダメなのかな。そこはルールに厳格なディースさんなのかな。


 それにしても、今の話を聞く限り……どうやらユグドラシルさんと特別な訓練をしたってわけでもなさそうだ。

 てっきり『魔力値』を伸ばす訓練でもしたのかと思いきや、どうやらそうではないらしい。やったのは普通の戦闘訓練だ。ディースさんの戦闘スタイルで、普通に訓練をしたに過ぎなかった。


 ってことはさぁ……これからも同じ比率で能力値が上がっていくってことじゃないの?

 たぶんそうだよね。実戦でも同じ戦闘スタイルなんだから、訓練と同じように能力値が上がっていくに違いない。


 だからまぁ、4レベル上昇で『素早さ』が2上がるってディースさんのペースは、おそらく今後も変わらないはずだ。

 4レベル上昇で『素早さ』2。8レベル上昇なら『素早さ』が4上がる。そうなるとディースさんの『素早さ』は……7に到達する。


 あとたった8レベルで……僕と同じ『素早さ』7……。

 ディースさんはたったレベル13で、レベル42の僕に追いついてしまう可能性が出てきてしまった……。





 next chapter:アレク汁2

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