第582話 精神と時の会議室
引き続き、ナナさんとともにディースさんのステータスを検証していたわけだが――
「しかしマスター、『水魔法』スキルとは、どういうことでしょう」
「そうなんだよナナさん、まさにそこなんだ。そこが注目ポイントなんだ」
注目ポイントに、ナナさんがしっかり注目してくれた。さすがだ。さすがはナナさんだ。
「ひょっとすると、この『水魔法』スキルはマスターから継承したスキルですか? つまりマスターは、すでに『水魔法』を取得していた?」
「おぉ、そうだよね、やっぱりそう考えるよね」
さすがのナナさん。話が早い。
「僕も同じことを考えて、試しに自分の鑑定もしてみたんだ。その結果が――これだね」
僕は自分の鑑定結果をメモした紙を取り出し、ナナさんに提示した。
その鑑定結果が――
名前:アレクシス
種族:エルフ 年齢:19 性別:男
職業:木工師
レベル:42(↑2)
筋力値 26
魔力値 21
生命力 18
器用さ 59(↑6)
素早さ 7
スキル
剣Lv1 槌Lv1 弓Lv1 火魔法Lv1 水魔法Lv1(New) 木工Lv2 召喚Lv2(↑1) ダンジョンLv1
スキルアーツ
パリイ(剣Lv1) パワーアタック(槌Lv1) パラライズアロー(弓Lv1) ニス塗布(木工Lv1) レンタルスキル(召喚Lv1) ヒカリゴケ(ダンジョンLv1)
複合スキルアーツ
光るパリイ(剣) 光るパワーパリイ(剣) 光るパワーアタック(槌) 光るパラライズアロー(弓)
称号
剣聖と賢者の息子 ダンジョンマスター エルフの至宝 ポケットティッシュ
「これはまた……いろいろと変わりましたね」
「そうなんだよねぇ……」
変わったのは『水魔法』だけじゃなかった。それ以外もいろいろと変わっていて、いろいろと成長していた。
「それで、何故かレベルが2つも上がっているようですが……?」
「うん、おそらくだけど――天界滞在の影響だと思う」
「天界滞在……。ああ、そういえば天界に一年間滞在したと言っていましたね。その一年で経験値を得て、レベルアップしたということですか?」
「たぶんね。能力値を見ても、そう予想できる」
「なるほど、等身大人形を作る日々だったとのことで、それで『器用さ』が上がったわけですか」
肝心のルーレットを忘れるくらい人形作りに集中する毎日だったからね。それはもう納得の上昇ですよ。
「それにしても、全ポイントを『器用さ』に突っ込むとは……」
「別に僕も突っ込もうと思って突っ込んだわけじゃないんだけどね……」
プラス6ポイントだもんなぁ……。納得はできるけど、1つか2つくらい他に割り振られてもよかったのに……。
「ですが、天界でもレベルが上がるものなのですね」
「あー、それは僕も驚いた。鑑定でも年齢は変わってないし、肉体的には歳を取ってないはずなのにね」
「肉体や時間は止まっていても、マスター自身は経験を重ねて、経験値を得たということでしょうか」
「そういうことなのかなぁ」
まぁ詳しい仕組みはわからんけど、僕からしたらありがたい仕様ではあるね。嬉しい誤算だ。
「で、同じように天界で熟練度を積み上げ、『水魔法』を取得したわけですか?」
「そうみたい。こっちは特別何かしたわけじゃないんだけど、なんか取得してたね」
まぁ普段から『水魔法』の訓練には取り組んでいるからね。日常生活の中でも、シャワー浴びるときとか飲み物を飲むときには、常に魔力で水を操るよう努めていた。
母に命じられた訓練ではあるが、おそらく天界でも繰り返していたのだろう。もはや無意識レベルで行っていた僕の『水魔法』訓練である。
つまりはアレだ――クセになってんだ、シャワー浴びながら『水魔法』訓練するの。
「おめでとうございますマスター。お祖母様もお喜びになるのでは?」
「おぉ、ありがとうナナさん。そうだね。後で母に報告してこよう」
そっかそっか、いろいろと想定外のことが起こりすぎて、『水魔法』取得を実感する暇もなかったな。
今まで訓練してくれた母に報告しよう。きっと母も喜んでくれるし、きっと褒めてくれるはずだ。
「そして最後に――『召喚』スキルですか」
「なんかレベル2に上がってたね。これはなんだろう? これもやっぱり天界でスキルの熟練度を得たからかな?」
ヘズラト君は召喚しっぱなしだったし、それで上がったってことも一応は考えられるか。
「ふむ……。それよりは、召喚獣ボールが関係していると考えた方が自然では?」
「召喚獣ボール?」
なるほど、確かに今回のルーレット景品は召喚関連だったし、その線もあるのか。
しかし今回は、ボールを貰っただけで別に――
「あ」
「はい?」
「そういえば、ジュース飲んだわ」
「ジュース?」
「召喚獣ボールと一緒に、謎のジュースをディースさんから貰ったんだ。飲んだところ、以前に獲得した『召喚』スキル(+ミコト)のジュースと同じ味がしたかな」
なんかすっかり忘れていた。すっかり僕の記憶から…………あぁ、そうか、飲んだ直後にミコトさんから『これでボールを召喚できるようになったはず』とか言われて、謎の召喚実験を命じられたんだっけか……。やっぱりどうしてもそっちの記憶の方が強く残っているため、ジュース自体の記憶はだいぶ薄まっていた。
「そういえばそんなことを言っていましたね。なるほど、ではもうこれで決まりじゃないですか? そのジュースが『召喚』スキルを取得できるジュースだったのですよ」
「そうなの? あ、いや、確かに僕も似たような想像はしていたけれど……」
「聞いてくださいマスター。召喚獣ボールとは、召喚獣を増やすことができるアイテムですよね? しかし当然のことながら、召喚獣は『召喚』スキルを所持していなければ使役できません。――なので、そのジュースです。ちゃんと召喚できるよう、『召喚』スキルを取得できるジュースも付属されていたのです」
「はー、そういうことか……」
じゃあ今回の召喚獣ボールという景品は、ボールと『召喚』スキルのセットだったんだね。
「で、そのジュースを飲んだから、僕の『召喚』スキルがレベル2に上がったってこと?」
「おそらくは」
「なるほどなぁ……」
今回ので『召喚』スキルがダブったため、それでレベル2に到達したのか。
……ふむ、じゃあもしかしたら三つ目がダブってレベル3とかあるかもね。
確かディースさんの話では、『召喚』スキル(+ディース)みたいのもあるらしいし、その景品を獲得できれば、『召喚』スキルレベル3に…………いや、それだとまた別の疑問が湧いてくるな。
それだと『召喚獣ディース』もダブってしまう。そこがダブるとどうなるのか。ディースさんが二人になるのかな……?
「さて、ひとまず今回の変化はこのくらいですかね」
「あ、うん、ありがとうナナさん。ナナさんのおかげで謎はすべて解けたよ」
「いえいえ、お役に立てて何よりです」
僕一人では、ここまでスムーズに考察は進まなかっただろう。ナナさんにお願いしてよかった。
ナナさんにも感謝だし、ナナさんとの考察を勧めてくれたディースさんにも感謝だ。
逆にミコトさんとの考察は非推奨の様子だったけど……もし本当にミコトさんと二人きりで考察していたらどうなっていたのか。やはり見当違いのシュールな結論にたどり着いていたのだろうか? ちょっと気になるところではある。
「それにしても、この天界でのレベルアップは面白いですね。私達からすると一瞬でしたが、マスターからしたら一年で、それでレベルアップして帰ってくるとは――――おや?」
「ん? どうかした?」
「ということは、これはつまりアレですよね? アレじゃないですか?」
「アレ?」
「精神と◯の部屋じゃないですか」
「…………」
あー、えっと、まぁ確かにそうかな。まるっきり同じ現象かもしれないね。
だけどそれは、その名前はちょっと……。
「僕的にはすごくわかりやすい例えだけれど、その名前で呼ぶのはどうだろう……」
「なんですか? 集◯社を恐れているのですか?」
「そりゃ怖いでしょ……」
そんな大きい会社に喧嘩を売りたくはないよ……。異世界だし大丈夫だとは思うけど、やっぱり怖いものは怖い。
「では、『精神と時の会議室』としましょうか」
「あ、うん、それがいいかな」
それなら大丈夫だろう。きっと大丈夫。集◯社もニッコリだ。
……いや、別にニッコリはしないか。ニッコリはしないけど、とりあえず怒られはしないはず。たぶん。
「しかしこれは大きな発見ですね。マスターがその気になれば、一瞬で好きなだけレベルアップできるじゃないですか」
「ナナさんからすると一瞬かもしれないけど、僕からしたら一瞬でもなんでもないからね? 普通にみっちり長期の修行期間だよ……」
そう考えると、あの漫画の人達も頑張っていたんだな……。
作中ではバッサリカットされて、あっという間に成長して戻ってきていたが、実際には厳しい修行をみっちり積んでいたのだね……。
next chapter:『水魔法』スキル
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます