第581話 ディースさんの衣食住

※『第581話 精神と時の会議室』の予定でしたが、都合により予定を変更してお送りいたします。誠に申し訳ございません。

―――――――――――――――――――――――――――――――――


 鑑定が終わり、自宅に戻ってきた僕は――早速ナナさんを部屋に呼び寄せた。

 今回の鑑定で示された僕のステータスが何を意味しているのか、是非ともナナさんの意見を伺いたい。二人で議論を重ね、この謎を解明していこうではないか。


「というわけで、協力してくれるかなナナさん。今回の鑑定結果について、僕と一緒に考察してほしいんだ」


「はぁ、ディース様のステータスの考察をするんですか?」


「うん?」


 ディースさんのステータス……? あ、そっか。そういえば今日はディースさんの鑑定をすると伝えて家を出たんだっけか。

 しかしそのディースさんの鑑定で不審な点が見つかり、その流れで僕も鑑定し、そしてさらに不審すぎる僕の鑑定結果が現れたんだった。


「ところで、そのディース様がいらっしゃらないようですが?」


「あ、うん、今はもう天界だね。今日のところはいったん送還させてもらったんだ」


「おや、そうなのですか」


「ディースさんもミコトさんみたいに下界での滞在を望んでいるし、できるだけ早くその希望を叶えてあげたいんだけどねぇ」


 だがしかし、今はその準備が全然整っていない。なんといってもディースさんは着の身着のままで降臨してきたわけで、そりゃあ準備にも時間が掛かって当然だ。


「とりあえず明日、ディースさんが下界に滞在するための生活用品とかを買い込んでくる予定だよ」


「ほうほう、明日はお買い物ですか」


「うん、日用品とか家具とか服とか、ディースさん用のマジックバッグも用意しなきゃだね」


 やっぱりいろいろ必要で、もしかしたら僕ではよくわからない買い物とかもありそうだし、物によってはナナさんかミコトさんに付き添ってもらった方がいい可能性もありそうかな。

 そんなふうに明日の予定を立てていると――何やら考え込んでいる様子のナナさんが目に入った。


「どうかした?」


「あ、いえ、なんと言いますか、服とは……」


「服? うん、着替えも必要だよね」


 着の身着のままディースさんなわけで、衣類も現在着ているキトン服一着しか所持していない。下界での生活を続けるのなら、さすがに別の着替えも必要だろう。


「いつものキトン服じゃなくて、普通の村人衣装でいいみたいなんだけど、とりあえず何着か用意しなきゃいけないよね」


「その服は……どう用意するおつもりで?」


「ん? どうするって言われても……それは普通に村の布屋さんで買えばいいんじゃないの?」


「無理ですよ?」


「無理?」


「乳が入りません」


「…………」


 あー、そっか。それは盲点だった……。

 そうだな。スタイルがスタイルなだけに、普通に売ってる服じゃ入らんのか……。


「じゃあオーダーメイドってことになるのかな……」


「そうでしょうね。――まぁエルフの村ですから、それも仕方がないことです。その点に関しては私も苦労しています」


「……うん?」


「なにせ私も爆乳なので」


「…………」


 まだ言い張るのかナナさん……。

 以前から『相対的に見て私は爆乳』などと吹聴していたナナさんだが、今はもう事情が違うだろうに……。ディースさんという真の爆乳が現れてしまった以上、むしろ相対的に見たら貧乳側に回ってしまったかもしれないナナさんだろうに……。



 ◇



 そんな感じで、ディースさんについて話をしていた僕とナナさんだったが――


「ほう、これがそうですか」


「そうだね、これが――ディースさんのステータスだね」


 というわけで、僕とナナさんが眺めているステータスメモが――



 名前:ディース

 種族:神 年齢:0 性別:女

 職業:神

 レベル:1


 筋力値 1

 魔力値 2

 生命力 1

 器用さ 1

 素早さ 1


 スキル

 神Lv2 水魔法Lv1


 称号

 神



 ――このメモである。ディースさんの鑑定結果を書き記しておいたメモだ。

 僕のステータスについて考察を進めようと思っていたはずが、何やらディースさんの話題になったので、せっかくだしディースさんのステータスも考察していこうという流れになったのだ。


「なるほど、ミコト様と似たステータスですね」


「そうだね。もうほとんど同じと言ってもいいくらいじゃない? レベル1で、神関連のスキルやら称号やらがいっぱいある感じ」


「種族が神で、称号が神で、『神』スキル取得の条件が二つ揃ったため、スキルレベル2になったと予想したんでしたかね」


「うん。ミコトさんのときはそんな考察をしていたね」


 ……それにしても、こうやって他人のステータスをじっくり考察するというのも、なんだかあまり良い趣味ではないような、そんな気がしないでもない。


 いや、まぁディースさん本人はいいって言ってたんだけどね? 事情を知っているナナさんやユグドラシルさんには、むしろステータスを知っておいてもらった方が話が早いと、そんなことをディースさん本人が言っていたのだ。

 なので、決して僕が勝手にバラして勝手に考察しているわけじゃない。そこは勘違いしないでいただきたい。


「そしてレベル1ということで、能力値もかなり残念な感じに……」


「あー、それは確かにねぇ……」


 『魔力値』だけが2で、他は全部1である。なんという初期能力値。

 ちなみに『魔力値』2はあれだな、エルフ族的に言うと、『神樹様の贈り物』ってやつだ。……実際にはどういう理由で1ポイント付与されるのか、ディースさんに聞いてみたくもあるが、やっぱり神のルールで教えてくれんのかね?


「……あ、そうだ。この能力値を考えると、もしかしたら早めにヘズラト君を天界から呼び戻さなきゃかな?」


「ヘズラト君を? 何故です?」


「今のディースさんはレベル1で『素早さ』も1でしょう? だとすると移動にも苦労するはずで、それならヘズラト君の助けを借りた方がいいかなって」


 ディースさんもダンジョンのアレクハウスを根城に活動してもらう予定だが、今のディースさんでは森の移動も一苦労だろう。

 こんなときこそヘズラト君が頼りになると思うのだけれど……しかし肝心のヘズラト君は、現在天界で愛でられ中。下界を留守にしている。


「早めにヘズラト君に戻ってきてもらうか、そうでなければ――」


「そうでなければ?」


「あるいは――僕が人力車を引こうかな」


「……は?」


 ふむ。何やら鳩が豆鉄砲を食ったような顔をナナさんはしているが、別におかしくはないでしょう?


「僕の方がディースさんより『素早さ』があるからね。当然僕がディースさんを輸送した方が速いわけだよ。誰もいないなら、僕がディースさんの乗った人力車を引っ張ろうかなって」


 まぁあくまでヘズラト君の都合次第だけれど、僕としては全然構わない。都合によっては場合によっては、僕が一肌脱ごうではないか。

 そう思って提案してみたのだけれど――


「…………」


「……何かな?」


「いえ……」


 なんだか胡乱うろんげな目でナナさんが僕を見ている。なんなのだその目は。


「自分よりも遅い存在が現れたことに対して、ずいぶん嬉しそうにはしゃいでるなぁと思いまして」


「……いきなり何を言うのかナナさん。違うよ。全然違うよ」


「そうですかね?」


「そうですとも」


 ただ単に、『素早さ』に関して僕はディースさんよりも上位の存在なわけで、いろいろと気を遣ってあげなきゃなって、そう考えているだけなんだ。

 別に上から目線で調子に乗っているわけでもないし、マウントを取ろうとしているわけでもない。


「……でもまぁ、忠告として心に留めておこうか。例え自分の『素早さ』が他人より優れていたとしても、変に喜んだり勝ち誇ったりしないよう、自分を律して生きていこう」


「まぁそれがよろしいかと、どうせすぐ抜かれることになるのですから」


「…………」


 なんてことを言うのだ……。それはまだわからんだろうに……。





 next chapter:精神と時の会議室

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