第580話 神のルール


 ひとまず僕とディースさんの鑑定が無事に終了した。

 ……まぁそこそこ波乱はあって、あんまり無事ではなかったかもだけど、兎にも角にも鑑定は完了した。


 そしてその結果について、あれやこれやと二人で話をしていたわけだが――


「つまりは、『水魔法』が継承スキルですか。どうなんですかね、ディースさんのお役に立てるスキルだといいのですが」


「普段使いもできる良いスキルじゃない? 便利なスキルをありがとうねアレクちゃん」


「いえいえ、そんなそんな」


 まぁ僕も便利そうだと思ってスキル取得に挑んだわけで、おそらくは優良スキルだと思うのだけど……実際の使い心地はまだよくわからんからなぁ。なにせ、ついさっきまで僕もスキルの取得を知らんかったわけだし……。


「――あ、そういえばちょっとだけ気になったことがありまして、ディースさんに聞いてもいいですか?」


「気になったこと? 何かしら?」


「どうもディースさんは、『水魔法』の継承を予想していたように見えたのですが」


 そんなふうに感じた。自分の鑑定結果を見て『なるほど』と頷いていたし、『水魔法』については驚いていないように見えたのだ。


「そうね、アレクちゃんが『水魔法』を取得していたことは、すでにわかっていたから」


「ほう、やはりそうでしたか」


 まぁ創造神様だしな、それくらいは当然すぐに調べられるのだろう。僕が天界で生活し、レベルアップしたりスキルを取得していく様を、リアルタイムで確認していたのだろう。

 しかしそうだとすると、またちょっと別の疑問が湧いてくるわけで……。


「でも、ディースさん自身のステータスはわからなかったようですが?」


 鑑定前には、『久々に緊張している』的な言葉も漏らしていたはずだ。自分がどんなステータスで、どのスキルが継承されているのか、そこはディースさんも鑑定するまでわからない様子だった。

 これはどういうことなのだろう。僕のステータスは把握できていたのに、自分のステータスは把握できていなかった? それは何故?


「ええ、もちろん知ろうと思えばすぐに知ることができたわよ? でも、あえて調べようとはしなかったの。この世界の神である私だけれど、こうしてアレクちゃんの召喚獣になったのだし、この世界の住人としても生きようと思ったから」


「おぉ、そうなのですか……」


 そこはきっちり線引きしていくつもりらしい。神の立場を利用したりせず、召喚獣として正々堂々と活動するつもりのようだ。さすがはディースさん。ルールに厳格である。


「そういうわけで、アレクちゃんもそのつもりでいてほしいの」


「はい? と言いますと?」


「アレクちゃんの召喚獣として、私もアレクちゃんを助けたいし、時には助言したいと思っているけど――でも神としてのアドバイスはできないの。神だからこそ知っている情報なんかは、アレクちゃんに教えることはできないの」


「なるほど……」


 なんてルールに厳格なのだディースさん……。

 そうかー。まぁそれは今までもそうだったし、なんでもかんでも聞けばすぐわかるってのも、それはそれで少し味気なかったりするかもしれないし、だから別にいいっちゃいいんだけど……。


 とはいえ、ディースさんしかわからなそうなことで、今まで微妙に気になっていた謎とかも、それなりにあったりして……。


「じゃあ例えば――モンスター討伐で獲得できる経験値の量とか、次のレベルアップまでに必要な経験値とかも教えることはできないわけですね?」


「ん? あぁそうね、答えられないわね」


 これなー。これがわかったらなー。ずっと昔から、むしろ何故わからないのかとちょっぴり不満だった。教会に対する唯一の不満だ。

 今回のルーレットでも大変だったよね。このせいで、ゴールもわからないまま一ヶ月間マラソンをすることになった。


「他にも――ディースさんが作ったとされる冒険者ギルドの疑問。カードをダス魔道具や、ギルドカードの仕組み、獲得ギルドポイントの量、どうにかポイントを不正受給できないかという疑問も……」


「……それも答えられないわね。というか私が作ったギルドなのに、その私にポイントを不正に受給できないか聞くのはどうかと思うの」


「あとは――『ヒカリゴケのスキルアーツはなんなのか』、『複合スキルアーツの光るシリーズはなんなのか』、『木工スキルレベル2のアーツはいつ手に入るのか』、『というかレベル1のニス塗布が優秀すぎないか』、『そのせいでレベル2のアーツが出しづらくなってない?』等々、そんなスキル関連の疑問も……」


「……答えられないわね。ええまぁ、もはやアレクちゃんの疑問と言うか感想になっているけど、とりあえず答えられないわ」


 それから――『タワシってなんなの?』、『ラタトスク君優秀すぎない? やっぱり僕の召喚獣だから?』、『僕の素早さが全然伸びないのですが』、『王都に現れた暗黒竜は美女?』――といった細々こまごまとした疑問もあるのだが、やっぱり全部答えられないのだろう。

 まぁ仕方がない。これらの疑問は、自分でひとつひとつ地道に答えを探し続けるしかないな。


「そういうわけで、申し訳ないのだけど何も答えられなくて――おそらく今ならアレクちゃんも自分のステータスについて考察したいと思うのだけど、それは私に聞かないでくれると助かるわ」


「あー、そうですか、そうですよね」


 ふむ。確かに今回の鑑定では僕のステータスにも驚きの変化があって、誰かに相談しながら考察したい気持ちがある。

 しかし、答えることができないディースさんにその相談を投げ掛けても、ディースさんだって心苦しいだろう。


「では――ミコトさんと相談してみますか。おそらく今回のレベルアップは天界滞在中に起こったもののはずで、であればミコトさんと相談するのが得策ですよね」


「ミコトと?」


「はい、そのつもりです」


 僕の考えについて話したところ、ディースさんはしばし考え込むような素振りを見せてから――


「もっと大勢いた方がいいんじゃない? 例えば、天界に一緒にいたラタトスクちゃんとか」


「ラタトスク君は、今もまだ天界ですが」


「あ、そうだったわね」


 今回も天界に召喚した大シマリスのラタトスク君だが、なんでも今は天界でウェルベリアさんに愛でられているそうで、前回同様、やっぱり今回ももうちょっと天界に滞在するらしい。


「それじゃあ、アレクちゃんの事情を知っているナナちゃんとユグドラシルちゃんかしら? とにかくもう少し人がいた方がいいと思うの」


「なるほど、確かに大勢いた方が考察も深まりますからね」


「というよりも、ミコトと二人で考察するのは止めておいた方がいいと思うわ」


「そうなんですか?」


「ミコトはポンコツだから」


「…………」


 いきなりなんてことを言うのか……。

 おそらくディースさんとミコトさんは、長い長い時を一緒に過ごした盟友とかなんじゃないの? その友をポンコツとは……。


「だって、もしもアレクちゃんとミコトだけで考察したら、何やらとんでもない結論に至ってしまいそうな気がして……」


「いや、別にそんなことは……」


 ないと思うのだけど……。あー、でもまぁ、そうなのかな……。なんかそんな気がしてきた。

 というか、それってつまり僕のこともポンコツ扱いしてない?


「前はミコトももう少しちゃんとしていたような気がするのだけれどね……。いつの間にやら、なんだかとんでもないポンコツになってしまって……」


「それは……」


 確かにちょっとわかるかも……。初めて会ったときのミコトさんは、ちょっとだけ抜けているところもあるけど、とても真面目でしっかりした人って印象があったような……。


「なんだかここ十年くらいで、どんどんポンコツになっていってしまった気がするの……」


「ここ十年くらいで……?」


 あー、えぇと、ここ十年というと……なんでだろうね? ここ十年でミコトさんに何かしらの変化があったのかもしれないけれど、それは……違うよね? それは――別に僕のせいとかではないよね?





 next chapter:精神と時の会議室

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