第577話 メイユ村に走る、創造神ディースの衝撃


 ――メイユ村に創造神ディース様が来訪された。

 その衝撃たるや尋常ならざるものがあり、メイユ村も大きく揺れていた。


 森の賢者と呼ばれる僕の母も――


『な、ななななななななかなかやるじゃない』


 ――との言葉を漏らしたほどだ。

 結構な狼狽ろうばいっぷりである。これほどまでに動揺した母を僕は初めて見た。


 ……というか、やっぱり創造神様うんぬんよりも、そのスタイルに注目が集まっているみたいね。

 まぁエルフはみんな貧にゅ――スレンダー体型なわけで、それなら驚くのも無理はないか。


 特にエルフ界から出たことがない人にとって、ディースさんのスタイルはよりインパクトがあるものだったらしく――


「おっかしいでしょ! なんなんあれ!? 喧嘩売ってんの!?」


 隣村のディアナちゃんも、そんなことを言いながら僕の家に乗り込んできた。

 ……まぁ僕に文句を言われても困ってしまうのだけど、どうやらディースさんの衝撃は、メイユ村だけではなくルクミーヌ村にまで及んでいたらしい。


「えぇと、別に喧嘩を売っているわけでは……」


「エルフ族に対する宣戦布告と受け取ったんだけど!」


「宣戦布告て……」


 なんという被害妄想だろうか。ちょっと落ち着いてディアナちゃん。どれだけ猛っているのだディアナちゃん。

 それにしても……周りがみんなスレンダー体型のエルフ族でも、やっぱり胸の大きな人に対して羨ましいとか悔しいとか、そう感じてしまうものなのね。なんだろう。女性の本能的なものなのかな。


「というか、ナナも怒ってたからね」


「え? ナナさんも?」


 そうなの? あ、でも確かにディースさんの胸に埋もれていたときは、ナナさんもかなりピキッていたように見えた。やはりナナさんにも嫉妬の感情が生まれてしまっていたのか……。


「ナナも自分のことを巨乳だとか爆乳だとか言ってたけどさ、突然あんなのが出てきちゃったら、それはナナも冷静じゃいられないでしょ」


「え、そんな理由で?」


 えっと……うん、確かにそんなことを言ってたね。『お祖母様を筆頭に、貧乳しかいないエルフの村にいるのですから、相対的に見て私は爆乳でしょう?』とかなんとか言ってた気がする。

 そんな感じで、この村では優位性を保っていたナナさんだったけど、さらに上の本物の爆乳が現れてしまった以上、相対的に見てナナさんは爆乳ではなかったことに……。


 でもそれでディースさんに怒るのはどうなの? それは完全にお門違いで八つ当たりってもんでしょうよ……。


「だからさ、アタシがナナに『ナナは別にふつーじゃん? アレに比べると、むしろナナは小さいほうじゃない?』って言ったら、すっごいキレだしてさー」


「…………」


 それはディースさんに怒っていたわけではなく、ディアナちゃんに怒っていたんじゃないかな?


「というか、もうディアナちゃんも会ったのかな?」


「うん? ディース神に?」


「うん、ディース神に」


 ――ディース神。エルフ族の人は、ディースさんのことをそう呼ぶらしい。

 やっぱり創造神とは呼ばんのね。エルフ族の人達からすると、世界樹様こそが世界の創造神であり、ディースさんは違うということなのだろう。

 でも一応ディースさんも神だとは認めているっぽくて、そのあたり、いろいろと複雑である。


「うん、一応会ったね。世界樹様と一緒のところをルクミーヌ村で見て、それでなんか話し掛けられたりして……」


「あ、そうなんだ?」


「えらいフレンドリーな感じで、『あなたがディアナちゃんね』とか聞かれた」


「ほー」


「いきなり名前を呼ばれてびっくりした。なんでアタシのこととか、名前まで知ってたのか……」


 ……そこはちょっとうっかりだなディースさん。

 まぁディースさんからしたらディアナちゃんも、長年僕を見る過程で見続けてきた相手だろうし、それで少しテンションが上がってしまったのだろう。


「それから『ディースとディアナ。――ディつながりね』とか、わけわかんないこと言い出して、急に抱きしめられて……」


「そんなことが……」


 なんだかいろんな人に抱きつきまくってるなディースさん……。


「えっと……それでディアナちゃんはなんて返したの?」


「うん?」


「『ディつながりね』って言われて、抱きしめられて、ディアナちゃんはなんて返事をしたの?」


「アタシは……。『あ、はい、そうですね』って……」


「…………」


 それはまた、ずいぶんと控えめで、しおらしい反応を……。てっきり今みたいに猛々しく噛みついたのかと思ったけれど、むしろ真逆の反応であった……。


「いやいやいや! だってさ、謎の爆乳からいきなりフレンドリーに話し掛けられて、その爆乳にいきなり挟まれてみなよ! そんなんそうなるから! どうしたらいいかわかんなくなるから!」


「あ、いや、うん、そうだよね……」


「あんなのはもう、乳の暴力だって」


「乳の暴力……」


 まぁ確かに僕も挟まれて窒息しかけたことはあるし、そう呼んでも間違いではないのかもしれない?


「アレクはあの乳に挟まれたことがないからわかんないだろうけど…………ないよね?」


「え? ああ、うん、ないよ?」


「んんー?」


「ないよ。もちろんないとも」


 ある。実際には全然ある。だがしかし、今はないと思い込むのだ。自らそう思い込むことにより、どうにかこの嘘を完結させる。


「なんか微妙に怪しいような気もするけど……よくわかんない。賢者さんとかレリーナは、こういうの見抜くの上手いんだけどなー」


 まぁ母とレリーナちゃんの勘の鋭さは恐ろしいものがあるからね……。

 というか、ディアナちゃんも十分鋭いんじゃないの? 自然に答えたつもりだったのに、何故か普通に怪しまれているし……。


「あ、そういえばレリーナはなんて言ってるの?」


「ん? 何が?」


「ディース神について、危険度はどんな感じなの? レリーナはどう判断した? 例のレリーナノートのやつ」


「あー、レリーナノートね……」


 レリーナノート。僕の近くにいる女性に対し、丸、三角、バツで危険度を判定して書き込んでいるレリーナちゃんのノート。

 まぁ単純な判定だけではなく、それ以外にもいろいろと恐ろしげなことを書き込んでいるようだが……。


 さておき、そのレリーナちゃんの判定でいうと、ディースさんは――


「判定としては、三角だって」


「へぇ、そうなんだ? そこまで危なくはない感じなんだ?」


「そうみたいね」


 まぁディースさんは僕のことを息子だと認識しているわけで、そういう意味では危険はないのだろう。そのあたりの部分をレリーナちゃんは敏感に感じ取ったらしい。


 ――よかったね。とてもよかった。やっぱりこういうときはレリーナちゃんの反応が一番気になってしまうのだけど、それほど恐ろしい事態にはならなそうでホッとする。なんとなくお墨付きをもらえたような気分だ。


「お、ということは、別に僕がディース神に挟まれても問題はなかったりする?」


「ダメでしょ」


「おぉう」


 いつもの肩パン。最後にノルマを消化するように、ディアナちゃんから肩パンをいただいてしまった。





 next chapter:神鑑定2

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