第575話 創造神ディース、顕現!


「当たりましたねユグドラシル様」


「当たったのう」


 見事に召喚獣ボールの仕様を言い当てた二人は、手を取り合ってキャッキャとはしゃいでいる。

 僕としては、あまりにも簡単に言い当てられて少し悔しい思いをしていたのだけど、その様子には少しほっこりする。


「さてさて、それじゃあ早速召喚してみましょうか」


「おお、早速か? 今この場でか?」


「そうです。早速、今この場でです」


 早速召喚を――まぁ今まで散々無駄話や、無駄に危険な話を繰り広げていたわけで、あるいはあんまり早速ではないかもしれないが、とりあえずディースさんの方は今か今かと待ちわびているかもしれないわけで、いい加減そろそろ召喚しようじゃないか。


「ではでは、召喚――」


「のうアレク」


「え? あ、はい、なんですか?」


「確か初めてミコトを召喚したときは、森の中まで移動したと思ったが、今回はこの場でいいのじゃろうか?」


「あー、そういえばそうでしたね。まぁあのときは召喚自体が初めてで、何がどうなるかわからなくて不安だったんですよ。でも今回は大丈夫です。というか、実はすでにディースさんの召喚は天界でも試しているのです。なので、諸々問題ないかと」


「む、そうであったか」


 しかし、なんだか懐かしい話だね。もう三年以上前のことになるのかな? みんなで森へ移動して、そこで初めて『召喚』スキルでミコトさんを召喚して……ミコトさんのあまりの弱さに驚いたんだっけか。

 まぁそれも仕方がない。レベル1の召喚獣だったからな。そして、それはおそらくディースさんも同じはずで、これからディースさんもレベル上げに勤しむことになるのだろう。


「では気を取り直して、召喚――」


「しかしマスター」


「え? えっと、何?」


「そうは言っても、ディース様はこの世界の創造神様ですよ? しかもこの世界への顕現けんげんは相当久しぶりだと聞きます。そのディース様を、こんな貧相で寂れた部屋にお呼びしてもいいのでしょうか?」


「貧相で寂れた部屋……」


 僕の部屋に対して、なんて言いようだ……。


「……じゃあせめて、テーブルは隅っこに寄せて、部屋の中央で召喚しようか」


 貧相で寂れた部屋であることに違いはないだろうが、ほんのちょっとだけ創造神様をお招きする体裁を整えさせてもらおう。


 というわけでナナさんにも手伝ってもらい、テーブルを移動し、ついでに椅子も移動した。

 おまけで、何か良いがらのカーペットでも敷こうかとも思ったが――下手をすると床とカーペットの間にディースさんが召喚されてしまい、何やら相当間抜けな画になりかないので、ひとまずそれは止めておいた。


「ではでは、いよいよ今度こそ改めて、召喚――」


「アレクー、ご飯だよー」


「…………」


 部屋の外から父の声が聞こえてきた。どうやら朝ご飯らしい。


「アレクー?」


「……はーい、今いくよー」


 全然話が進まんな……。『早速召喚する』とは、いったいなんだったのか……。



 ◇



 みんなで朝食をいただいてから部屋に戻ってきた。

 ……というか、何気に父も母も会うのは一年ぶりで、僕からしたらそれなりに感動の再会ではあった。二人とも元気そうで何よりだ。


「さて、もういいかな? 今度こそ本当に召喚するよ?」


「ええはい、お願いしますマスター」


「うん、ではでは――『召喚:ディース』」


 部屋の中央に手をかざし、僕が呪文を唱えると――


「創造神ディース、顕現!」


 力強く右拳を天に突き上げながら、にゅにゅにゅっとディースさんがせり上がってきた。


「うんうん、無事成功ですね」


「おー、ディースじゃなー」


「なるほどなるほど、記憶にはありますが、お会いするのは初めてですね」


 無事に下界でも召喚成功だ。一年間の共同生活があり、もはや見慣れたキトン姿のディースさんだが、僕の部屋で会うとなると、これまた新鮮なものがあるね。


「何やら最後の最後で妙に待たされてしまったけれど……満を持して顕現したわ。久方ぶりの顕現ね。そして、召喚獣としては初めての顕現」


 右手を握りしめたまま、ぷるぷると感動に打ち震えるディースさん。

 いやはや、妙な寸止めを何度も繰り返してしまい、誠に申し訳ない。


「ユグドラシルちゃんも、久しぶりね」


「うむ。久しぶりじゃ」


「久しぶりねー。本当に久しぶり」


「やめい」


 ディースさんはユグドラシルさんに近付いたかと思うと、その場で膝をついて、ユグドラシルさんにぎゅうぎゅう抱きついて頬ずりした。何やら微笑ましい画だが、ユグドラシルさんはイヤそうにぐいぐいと押しのけている。


「天界からは見ていたけど、こんなに可愛らしいユグドラシルちゃんと会うのは初めてね。前に会ったときもそうだし、そもそも普段はもっとセクシーな感じなのに」


 ――セクシー!?

 そうか、そうなのか……。大人バージョンのユグドラシルさんは、セクシー路線だったりするのか……。


「それから――ナナちゃん!」


「はぁ、初めまして、ナナ・アンブロティーヴィ・フォン・ラートリウス・D・マクミラン・テテステテス・ヴァネッサ・アコ・マーセリット・エル・ローズマリー・山田です」


 久しぶりにフルネーム聞いたな……。まぁちゃんとした挨拶の場だし、ここでのフルネームは間違いではないだろう。


「そうね、初めましてね、ナナ・アンブロティーヴィ・フォン・ラートリウス・D・マクミラン・テテステテス・ヴァネッサ・アコ・マーセリット・エル・ローズマリー・山田ちゃん」


「おぉう……」


 さすがはディースさんだ……。まさかナナさんのフルネームをフルで言えるとは……。言われたナナさんもちょっと引いている。


「ずっと会いたかったの。血縁的には、私はナナちゃんのおばあちゃんになるわね」


 ないけどね? 血縁はないですよ?


「さぁ、こっちへ来てナナちゃん」


「えっと……」


「いいのよ? もっと甘えてくれていいのよナナちゃん」


「…………」


 バッと両手を広げて待ち構えるディースさんだが、ナナさんは困惑するばかりで歩み寄りはしない。というより、ナナさんは依然として引き気味だ。

 双方が動かず、ちょっぴり微妙な空気が流れた後――ディースさんは自らナナさんへ歩み寄り、その胸の中にナナさんを抱きしめた。


「会えて嬉しいわナナちゃん」


「…………」


 ……イヤそう。すごいイヤそう。

 ユグドラシルさんのように押しのけはしないが、ディースさんの胸に埋もれながら、とてもイヤそうな顔をしている。


「ふぅ、それにしても体が重いわね」


 ふむ。そういえばミコトさんもそんなことを言っていたね。神から召喚獣になったことの変化に難儀していた。

 というわけで、やはり召喚獣ボディは体が重いらしく――


「……その乳が重いだけでは?」


 やめないかナナさん。


「そして――アレクちゃん!」


「え? あ、はい。お待たせしました、無事に召喚も完了いたしまして――」


「こうして下界でもアレクちゃんと会えることが、何よりも嬉しいわ」


「え、あの、ええはい、それはもう僕としても大変嬉しく思っているのですが、えっと、そんなふうに抱きしめられると、ちょっと、あの――」


「アレクちゃん! これからはずっと一緒よアレクちゃん!」


「いや、あの……」


 あぁ、視線が! ユグドラシルさんとナナさんの視線が! なんだかとても冷たい視線を感じる!





 next chapter:解き放たれたアレク君

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