第574話 謎が解明された二つのボール


「では発表します。今回僕がチートルーレットで獲得した景品は――召喚獣ボールです!」


「ほほう?」


「ふむ」


 ナナさんとユグドラシルさんに向けて、今回獲得した景品を発表した。そしてそれを聞いた二人は、それぞれが考え込む様子を見せた。

 はてさて、この景品の名称を聞いて二人がどんな想像をしたのか、ちょっと気になるところだね。


「ふーむ。召喚獣ボールか……。やはり『召喚』スキル関連のアイテムじゃろうか?」


「そうですね。あるいは――ボールそのものを召喚できたり?」


「むむ? ボールそのものを?」


 おぉ、僕達と同じ発想だ。なるほどなぁ、やっぱりみんな最初はその発想に至るものなのだね。


「しかし、それはどうなのじゃろうな……。だとしたら、ずいぶんと奇抜な能力じゃが……」


「まぁ――ないですかね。ボールそのものを召喚は、さすがに奇をてらいすぎですね」


 ……やっぱりなかったらしい。

 そうなのか。僕達は別に奇を衒ったつもりはなかったのだけど……。


「なのでボールを――おそらくユグドラシル様の言う通り、『召喚』スキルに関連するアイテムのボールを渡されたのでしょう」


「じゃな。そう考えるのが自然じゃろう」


 ……二人とも優秀だなぁ。勘が鋭い。

 ついつい自分達のときと比べてしまう。僕とミコトさんと大シマリスのモモちゃんの三人は、最後の最後までボール召喚で間違いないと確信していたし、ミコトさんなんてボールを渡された後でもボール召喚の可能性を模索していたくらいなのに……。


「……ええはい、お察しの通りです。では、実際に僕が貰ったボールをお見せしましょう」


 さて、そのボールを送還前に自分のマジックバッグへ入れておいたはずなのだが、そのマジックバッグが…………おお、肩に担いでいたわ。

 そっか、そういえばこの状態で寝たんだっけか。


「では、このマジックバッグから……と、その前に、ベッドから移動しましょうか?」


「む、まぁそうじゃの」


 なんか流れのままに話し込んでしまったが、三人で身を寄せ合って狭いベッドで会話することもないだろう。テーブルに移動しよう。


「そういえば、天界へのマジックバッグ持ち込みは成功したのですか?」


「うん、バッチリだったよ。ちゃんとディースさんにお土産も渡せたし、こうして天界で貰った召喚獣ボールもマジックバッグで運搬できたみたいだね」


「ほほう? 持ち込みも持ち出しもできたと? ということはつまり、天界から何かを持ってくることも可能というわけですね?」


「うん? まぁ確かに……?」


「では次回のルーレットでは、何か天界土産でもお願いしますよ」


「天界土産かぁ……」


 なんとなく冥土の土産と語感が似てるな……。内容的には、まったく逆の意味になりそうだけど……。

 まぁディースさんやミコトさんに頼んだら、ちょっとしたお土産くらいは用意してくれそうかな? 次回はちょっとお願いしてみようか。


「さておき、では改めて――こちらがその召喚獣ボールです」


 みんなが席についたところで、僕は改めてマジックバッグに手を伸ばし、今回貰った景品をテーブルに置いた。

 テーブルにはかごと、その中に召喚獣ボールが二つ。


「ふむ。これがそうなのか。上半分が赤色で、下半分が白色で――」


「――モ◯スターボールじゃないですか」


「…………」


 な、なんてことを言うのだナナさん……。

 後になってから、まるっきりその配色だと僕も気付いたけれど、なんか危険だから言わないようにしていたのに……。


「モ◯スターボールとはなんじゃ?」


「日本の◯◯◯という会社が販売しているゲームのアイテムです」


「◯◯◯?」


 その名前まで出してしまうのかナナさん……。

 大丈夫なの……? なんだか僕は怖いのだけど、言い知れない不安に襲われているのだけど……。


「日本というのは、確かお主らが前世で住んでいた国じゃな?」


「そうです」


 ……違うけどね? 正確に言えばナナさんは住んでないけどね?


「で、日本の会社?」


「そうです。◯◯◯とは、日本が誇るカードゲーム会社です」


「ふむ?」


 カードゲーム会社……?

 あ、でも元は花札を作る会社なんだっけ? 確かにそういう意味ではカードゲーム会社と言っても間違いではない……?


「その◯◯◯が販売しているのが――ポ◯モ◯カードです」


 え、あ、そうなの? カードって、そのカード?

 えー? でも◯◯◯と言えばコンシューマーゲームじゃないの? そりゃあ確かにポ◯モ◯カードもすごい人気みたいだけど……。


「ふーむ。ポ◯モ◯カードか……。それは、トランプのようなものではないのか?」


「あー、そうですね、カードゲームという意味では同じかもしれませんが、トランプのように五十二枚あればいいというものでもないのです。もっともっと数がありまして、しかも自分で集めなければいけないのです」


「むむ。そうか……では自分でカードを買って集めて、その中から使うカードを選んで遊ぶわけじゃな?」


「そうです。五枚セットで売っていたりするのですが、中身はランダムです」


「む、そうなのか。何が入っているのかわからずに買わねばならんのか……」


「そして珍しいカードを引き当てることができたなら――高額で取り引きすることが可能です」


「高額で……」


 ちょっとナナさん、いきなり何を言い出すんだ。やめるんだナナさん、それ以上いけない。


「つまりポ◯モ◯カードゲームとは――できるだけ多くのカードを買い占め、レアカードを引き当て、高値で転売するゲームのことです」


「どういう遊び方じゃ……」


 やめろナナさん! さっきから洒落にならないことを言っているぞ!


「ふーむ……。何やら闇を感じるのう。闇が深いゲームじゃ……」


「ですね、闇のゲームです」


 ……それはまた別のカードゲームだ。



 ◇



 とんでもなく話が脱線してしまった。とんでもない方向に話が脱線してしまったが――それはさておき、召喚獣ボールだ。

 僕は召喚獣ボールの話がしたい。もういろんな意味で恐ろしいカードゲームの話はしたくない。


「しかしこれは、どういうことなのでしょうね。やはり本家モ◯スターボールと同じように、モンスターを捕まえたり放ったりできるのでしょうか?」


「ふむ? だとすると、『召喚』スキルとは関係がないアイテムじゃったか?」


「どうでしょうね? ディース様のことですし、ジョークで同じ配色にしただけということも考えられますが」


 なんやかんや脱線しつつも、やはり読みが鋭い二人。着々と推理を進めていく。


「ふーむ。のうアレク」


「はい?」


「アレクが貰ったのはこれだけか? 他に何か貰ったりはしなかったか?」


「他に? あ、そうでしたそうでした。ボールの他に――飲み物も渡されましたね」


「ほう? それはもしや、『召喚』スキルのときと同じ飲み物か?」


「正解です。同じ味だと感じました」


 すごいなぁユグドラシルさん。さらにはこうやって、今まで伝えていなかった事実すらも明らかにしていくものな……。


「なるほど、ではやはり『召喚』スキル関連のアイテムで間違いなさそうじゃな」


「そのようです。というか、もうあれじゃないですか? 投げてぶつけたら召喚獣としてゲットできるとか、そういうアイテムなんじゃないですか?」


 ……あまりにも鋭い。鋭すぎるよナナさん。

 これほど鋭い推理を見せつけられると、なんかちょっと落ち込んでしまう。僕達三人は全然だったからなぁ……。


「あ、ですが、そうだとするとディース様はマスターの召喚獣になりたがるはずですよね?」


「ふむ。――のうアレク」


「……はい?」


「このボール、元から二つだけか? あるいは――もう一つあったのではないか?」


「……正解です」


「そうかそうか、ではディースに使ったのじゃな?」


「……正解です」


 この正解にたどり着くまで、僕達三人は三日も掛かったのになぁ……。散々ディースさんからヒントを出してもらって、それでも三日……。


 まぁ僕達がもうちょっと早く決断できていれば、三日も掛かることはなかったのだけどねぇ……。

 なんというか……『対象に投げることで、おそらく召喚獣を増やせるはず』と主張するモモちゃんと、『今いる召喚獣に与えたらパワーアップできるはず』と主張する僕と、『やっぱりボールを召喚できるはず』と主張するミコトさんで議論が迷走し、結果的に三日も掛かることに……。





 next chapter:創造神ディース、顕現けんげん

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