第571話 謎の三つのボール


 ――召喚獣ボール。

 今回のチートルーレットで得た景品は、召喚獣ボールとのことだ。


 ……で、それはいったいなんなのか。

 なんとなく想像は付くものの、名前だけではいまいちわからんな……。


「ふふふ。やったわねアレクちゃん。素晴らしい景品を手に入れたわね!」


「え? おぉぉ……。あ、はい、えっと、そうなんですね?」


 いきなりディースさんに抱え上げられて、ぐるんぐるん回されてしまった。

 景品が当たった瞬間から、結構な喜びようだなぁディースさん……。そして、さすがのパワーである。


「えぇと、とりあえず僕としては景品の実物を見たいところなのですが……。というか、実物があるものなんですか?」


「ああ、それもそうね。じゃあちょっと待っていて、すぐに持ってくるから」


 ディースさんはそう言うと、抱えていた僕を下ろして、チートルーレットの裏側へササッと移動していった。

 いつものようにルーレットの裏側から景品を取り出すのだろう。……前々から思っていたのだけれど、その回収作業をちょっと覗いてみたくもある。


「召喚獣ボールか。どんな景品なのかな」


「ミコトさんはご存知ありませんか?」


「んー、私もこれは知らないな。――でもまぁ、名前からある程度は予想できそうだよね」


「ほほう?」


 予想できますか。それは是非ともお聞かせ願いたい。この景品について、ミコトさんはいったいどんな予想を立てたのか――


「私が予想するに、おそらくこの景品で――ボールを召喚できるようになるのだろう」


「……ボールを?」


 ボールを召喚? ボールそのものを? 『召喚』スキル関連のアイテムとかではなく、ボールそのものを召喚できると……?


「なるほど、それは――同意見です。僕も同じ予想をしていました」


「おぉそうか、アレク君もか」


 僕とミコトさんの見解が一致した。

 この景品を手に入れたことにより、きっと僕はいろんなボールを自由に召喚できるようになるのだろう。


「例えば野球ボールだったりサッカーボールだったり、そういうのですよね」


「そうそう。それで熟練度が上がっていけば、さらにもっといろいろ出せるようになったり」


「いずれはラグビーボールのような変わった形のボールとか、あるいはスーパーボールのような変わり種のボールまでも?」


「他にもボウリングのボールみたいに大きくて重い物や、なんなら鉄球とかですら出せるようになるかもしれない」


 ふむふむ。良いね。そう考えると、なかなか発展性も高そうな景品だ。いろいろと夢が広がる。


「……ですが、『召喚獣ボール』なんですよね。『ボール』を『召喚獣』と呼んでいる部分が気になるのですが、これに関してはどう考えたらいいものか」


 獣ってのはどうなのか。さすがにちょっと違和感あるよね? どう考えてもボールは獣ではないだろう。


「あんまり気にしなくていいんじゃないかな? 私も召喚中は、神なのに召喚獣と呼ばれているし。……神なのになぁ」


「あー、そうですねぇ……」


 神なのに『召喚獣ミコト』になってるものね……。であれば、『召喚獣ボール』も別に不思議ではないか。


「あ、でも、これからディースさんが何か実物を持ってくるそうですよ? それはどうなんでしょう?」


「ふむ。それはきっと――また何か飲み物でも持ってくるんじゃないかな? 私のときもそうだったろう? あの飲み物をアレク君が飲んだ結果、召喚獣ミコトとの契約が行われたんだ」


「あぁ、つまりこれからディースさんは、飲むとボールを召喚できるようになる飲み物を持ってきてくれるわけですか」


「そうだね。そういうわけで、別にボールそのものを持ってくることはないはずだ」


「なるほど」

 

 素晴らしい読みの深さだ。当たった景品の名前を聞いただけでここまで察するとは、さすがはミコトさん。なんだかんだ言ってミコトさんも全知全能の神様なのだな。


「お待たせー」


 そんな話をしているうちに、ディースさんが戻ってきた。

 ディースさんは僕達の近くまで来ると、左手に持っていたかごをテーブルの上に置いた。


 その籠には――ボールが三つ入っていた。


「ミコトさん、ボールがありますが……」


「…………」


 あれほど自信満々に力説していたのに、ボールが……。


 ――いや、だけどミコトさんを責めることはできない。僕だって同じことを考えていたし、ミコトさんの説明に深く納得した。

 だから責めることはしないけれど……それにしたって、あんなに力説していたのに……。


「えっと、あの……これが召喚獣ボールですか?」


「そうね、なんだかミコトは面白い話をしていたけれど、とりあえず全部忘れていいと思うわ」


 やめてあげてください。傷口をえぐらないであげてください。


「あー、その、ミコトさん、こうして実際にボールが渡されたということは、残念ながら僕達の予想は……」


「そうみたいだね……」


「残念です。僕達の予想――僕達三人の予想は外れてしまったようですね」


「キー!?」


 間違いないと思ったのになぁ。僕もミコトさんもラタトスク君も同意見で、三人の総意だったのにねぇ。





 next chapter:謎の三つのボールと、謎の一杯のジュース

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