第569話 ミコトパネル
568話に登場した女神ウェルべリアさん。サラッと登場しましたが、新キャラです。
しかしあまりにもサラッとしすぎた登場だったため、何やら混乱を招いた模様……。なので、ほんのちょっとだけ加筆しました。
「今回の滞在中に知り合った女神ウェルベリアさん。時々遊びに来てくれるのだ。」
↑の一文を568話を書き足しました。よろしくお願いします。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
――九ヶ月。
天界に到着し、この会議室に住み着いてから九ヶ月が経過した。
……ふむ。もうすっかりここでの生活にも慣れてしまったな。
会議室暮らしにも、すっかり慣れて……まぁベッドがあったりソファーがあったり、冷蔵庫があってキッチンも付いていて、もはや会議室と呼んでいいのか疑わしくなってきた僕の仮住まいではあるが――兎にも角にも、そんな生活が九ヶ月経過した。
日々人形作りに勤しんでいる僕だが、今はちょっと休憩中。
大シマリスのラタトスク君と一緒に並んでソファーに腰掛け、ダンジョンメニューを眺めていた。
「どうかなラタトスク君、ありそうかな?」
「キー」
「んー、やっぱりないのかなぁ」
ラタトスク君と二人で、それぞれ自分のダンジョンメニューを呼び出し、目当ての項目を探してポチポチと操作していた。
しかし、どうにも僕達が求める項目が見付からず、むーんむーんと唸りながらメニューを眺めていた最中――
「アレク君!」
「おぉ?」
ミコトさんだ。結構な剣幕でミコトさんが会議室に転がり込んできて、こちらに向かってズンズンと歩いてきた。
「えっと? どうかしましたか? あ、ちょっと待ってください、今ダンジョンメニューを――」
「ダンジョンメニュー? そんなことよりもアレク君!」
「え? あっ……」
ベシっと弾かれ、僕のダンジョンメニューは遠くへ飛んでいってしまった。
飛ぶのか。ダンジョンメニューって飛ぶんだな。
「何をするのですかミコトさん」
「それはこっちのセリフだアレク君! あれはいったいなんなのか!」
「あれ? あれとは――ああ、あれですか」
ミコトさんが指差した先には――ミコトさんのパネルがあった。
「ミコトパネル。――ミコトさんの等身大パネルですね。等身大神像は厳しいですが、せめてこれくらいは作らせていただこうかと思いまして」
以前ミコトさんから等身大ミコト神像をお願いされたことがあったが、話し合いの結果、ひとまず今回の滞在中ではなく、下界に戻ってからか、あるいは次回天界に来たときに作らせてもらうという約束で落ち着いた。
とはいえ、それまでミコトさんを待たせ、それでいてディース神像やウェルべリア神像を優先するのも申し訳なく感じ、それならばと、せめてもの思いで女神様バージョンの等身大ミコトパネルを作らせていただいたのだ。
しかし、どうやらミコトさん的には、パネルになんらかの不満があったらしく――
「顔の部分がくり抜かれているのだが!?」
「顔出しミコトパネルですね」
せっかくなので、顔出しパネルにしてみた。
女神バージョンのミコトさんは巫女服なので、こういう特徴のある格好は、顔出しパネルにピッタリだと思ったのですよ。
「何故だアレク君……。何故アレク君はそうなんだ……」
えっと、なんだろう。それはどういうニュアンスで言っているんだろう……。
「ダメですかね? ウェルベリアさんには大ウケでしたけど……」
「笑われているじゃないか!」
「相当気に入ったらしく、ひとしきり笑ったあと、実際に後ろから顔を出していました。スマホを渡されて、その姿の写真撮影をお願いされましたよ」
ようやく僕が作った顔出しパネルが本来の使われ方をしたわけだ。いやはや、まさか天界で目標達成するとはなぁ。
「何をしているんだあいつは……。そして、アレク君もいったい何をやっているんだ……!」
「あ、はい、それで僕達も、ダンジョンメニューにカメラ機能とかないのかなって、ラタトスク君と一緒に探していたのですが――」
「そういう話をしているんじゃない!」
「おぉう……」
結構な猛りっぷりである……。
おかしいな、ちゃんとスタイル抜群のミコトさんをパネルにしたのに……。
◇
――一年経った。
なんやかんやで、天界での生活も一年が経過してしまった。
そして一年という歳月を経て、ついに僕は――
「お疲れ様アレクちゃん」
「ありがとうございますディースさん」
ようやくすべての等身大人形を作り終えた。
等身大アレク人形も、等身大ディース神像も、等身大ウェルべリア神像も……ついでに等身大顔出しミコトパネルも、すべて完成だ。
いやー、長かった。なにせ一年だ。長い道のりだった。
でもペースとしては、当初の想定よりはだいぶ早く終わったかな? 一体に半年と考えていたのが、実際には四ヶ月くらいで完成させることができた。それが三体で、ちょうど一年。
……まぁほとんど会議室から出ることもなく、缶詰状態で作業をしていたのだから、それはそうなるわな。
そんな感じで人形も完成。そして納品もすでに完了した。
アレク人形とディース神像はディースさんに納品し、ウェルベリア神像もウェルべリアさんに納品し、等身大顔出しミコトパネルはとりあえず会議室に置かれている。
だがしかし、すべての人形が完成したということは――
「名残惜しいですが、お別れのときが近づいてきたようです」
「そうねぇ……。そういうことになるわよね……」
人形作りが終わった以上、天界生活も終わりを迎えつつあるということだ。
「でも、これだけ長い時間一緒に居てくれて、一生懸命人形を作ってくれたものね、さすがにこれ以上は引き止められないわよね」
それはまぁ、これ以上肉体と精神の年齢が離れたら僕としても困ってしまう。現時点でも、十九歳の肉体に二十歳の精神となってしまった。
――あくまで十九歳で二十歳である。十九歳で四十七歳ではないのだ。
「では無事に依頼も達成ということで――そろそろ帰りますね」
「そうね、今までありがとう。またねアレクちゃん」
「はい、それでは転送をお願いします」
「キー!?」
隣で一緒にディースさんの言葉を聞いていたラタトスク君が、突然驚いたような声を上げた。
というか、普通に驚いている。大層驚いている。はて、どうしたのだろう?
「んん? いったい何が…………あ、そういうことか」
「キー」
「また置いてけぼりをくらうんじゃないかと心配したんだね? いやいや、今度は大丈夫だよラタトスク君」
「キー!?」
前回は、うっかりラタトスク君を天界に置いて帰ってしまったからな。きっとあのときのことを思い出したのだろう。
でも今回は大丈夫。もうそんなうっかりミスはしない。うっかり大事なことを忘れたりなんてしないさ。
というわけで、離れ離れにならないように後ろからラタトスク君をギュッと抱きしめる。これで置いてけぼりはないはずだ。……なんか妙に暴れるけれど、そんなに心配なのだろうか。安心してくれていいというのに。
さぁ帰ろう。ともにみんなが待つメイユ村に帰ろうではないか。
「お願いしますディースさん」
「また会いましょうアレクちゃん。それじゃあ――転送」
「キー!!」
next chapter:チートルーレット Lv40
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます