第563話 レベル40到達


 卑怯なはととの戦闘なんぞもこなしつつ、今日の分のダンジョンマラソンを終えた僕は、村の教会までやってきた。

 そして、いつものようにローデットさんと応接室まで移動したわけだが――


「今日はどうしますかー? 通話していきますか?」


「む……」


 通話か。パーティメンバーであるスカーレットさんと情報共有のための通話……。

 ちょくちょく通話しているせいか、この頃はローデットさんの方から通話の提案をしてくるようになった。


 はて、どうしたものかな。その予定はなかったのだけど、そうやって提案されると、ついつい僕も考えてしまう。追加料金を払い、追加のオプションサービスを受けたくなってしまう。

 うむ。なんておねだり上手なんだローデットさん。


「んー…………いや、でも今日はやめておきます」


「そうですか? わかりましたー」


 ついこの前も通話したばっかりだしね。今日のところはやめておこう。


 情報共有はまた今度……というか、スカーレットさんはずいぶん長いことラフトの町にいるね。勇者パーティのお仕事は大丈夫なのだろうか? また揉めるようなことがないといいけど……。

 あと、クリスティーナさんのこともちょっと気になる。ずいぶん長い間一緒にいるけど、クリスティーナさんとスカーレットさんがちゃんと仲良くできているか、それも少し気になる……。


「さて、それじゃあ鑑定をお願いします。こちらをどうぞ」


「ありがとうございますー」


 僕はマジックバッグからお財布を取り出し、ジャラジャラと硬貨を並べていく。

 鑑定代とお布施ふせと迷惑料と応接室の使用料と、あとなんかお茶とか出してもらったしドリンク代と、それら諸々の料金をローデットさんに納める。


「では、どうぞー」


「はい、いざいざ」


 さてさて、今日はどうかな。

 僕が鑑定用の水晶に手を置き、魔力を流すと――



 名前:アレクシス

 種族:エルフ 年齢:19 性別:男

 職業:木工師

 レベル:40(↑1)


 筋力値 26(↑1)

 魔力値 21

 生命力 18(↑1)

 器用さ 53(↑1)

 素早さ 7


 スキル

 剣Lv1 槌Lv1 弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv2 召喚Lv1 ダンジョンLv1


 スキルアーツ

 パリイ(剣Lv1) パワーアタック(槌Lv1) パラライズアロー(弓Lv1) ニス塗布(木工Lv1) レンタルスキル(召喚Lv1) ヒカリゴケ(ダンジョンLv1)


 複合スキルアーツ

 光るパリイ(剣) 光るパワーパリイ(剣) 光るパワーアタック(槌) 光るパラライズアロー(弓)


 称号

 剣聖と賢者の息子 ダンジョンマスター エルフの至宝 ポケットティッシュ



「来た……」


 来たぞ。ついに来た。念願のレベル40……到達だ!


「おー、おめでとうございますー」


「ありがとうございます!」


 いやー、良かったねぇ。良かった良かった。いったいいつになるのかとヤキモキしていたけれど、なんとか無事にレベルアップすることができた。

 やっぱりそこそこレベルアップも近かったんだね。世界旅行中に受けた世界樹式パワーレベリングの効果もしっかりあったみたいだ。『生命力』が上がっていることから、そのことがうかがえる。


「あ、それじゃあ通話の魔道具を借りていいですか?」


「ああ、世界樹様に連絡ですね?」


「そうです。忘れないうちに伝えておかないと」


 これもいつもの流れだ。レベルアップを確認したら、そのまますぐ教会本部に通話して、ユグドラシルさんにレベルアップを報告。

 うむ。なんだか久々だ。久々にちゃんとした理由で通話するような気がする。

 ……あ、いや、もちろん情報共有も大事なんだけどね? あれはあれで大事な通話なのだけどね?


 そんな言い訳めいたことを考えながら、ローデットさんに追加で料金を支払い、通話の魔道具を借り、通話の準備を進めていく。

 そして魔道具のフタを開けて待っていると――


『はい。森と世界樹教会本部です』


「もしもしー」


『あ、はーい、もしもしーもしもしー』


 少ししたら、いつもの教会本部の人が出てくれた。楽しげに『もしもし』と返事をしてくれる。


 さて、それじゃあレベルアップのことを伝えんと。

 教会本部の人は毎回楽しくお喋りしてくれるけど、今日の通話はちょっと違うのですよ。大事な用件があるのです。むしろ緊急の用件。緊急通話なのですよ。


『――そうだ、ちょっと聞いてくださいよアレクさん』


「はい?」


『この前大変だったんですよー』


「大変? えっと、何かありましたか?」


『この前、友達と二人でご飯食べに行ったんですけどー』


「ふむふむ」


 ふむ……。なんかこの会話の切り出し方からして、大変そうな雰囲気は伝わってこなくて、普通の世間話っぽい印象を受けるが……。

 ――でもまぁ、わからんしな。ちゃんと話を聞いてからじゃないとわからん。緊急通話はひとまず置いておいて、教会本部の人の話を聞こう。


 僕としても、教会本部の人の話が気になる。大変なこととはなんなのか。いったい何があったのか。僕に何を話してくれるのか。ついでに、そのお友達が男性か女性かが気になる。ちょっぴり気になってしまう。

 うむ。まずは話を聞こう。心して話を聞こう。しっかり話を聞くために、僕からもその話題に上手く相槌を打ちながら共感を示し、さらに会話を広げるように努めよう。


 ――そんな決意を固めつつ、タオルケットを用意してソファーで横になるローデットさんを横目に、通話の魔道具から聞こえる声に耳を傾ける僕なのであった。



 ◇



 まぁなんというか、普通に楽しいお喋りだった。話題の内容的には、やっぱり緊急性はあまりなかったようにも思えたが、個人的には楽しかったので良い。

 そんなお喋りが終わり、改めてレベル40到達を教会本部の人に伝え、ユグドラシルさんにも伝えてもらうようにお願いしてから、僕は自宅へ戻ってきた。


 そして自室のドアを開けると――


「む、アレクか」


「おぉ……? ユグドラシルさん……?」


 ユグドラシルさんだ。ユグドラシルさんがいる。

 ……僕よりも先に、すでにユグドラシルさんが到着していた。


「連絡を受け、急いで来たのじゃが……」


「あぁ、そうなのですね……。ええはい、ご足労いただきありがとうございます」


「というか、アレクの方が遅いとはどういうことじゃ……?」


「ええまぁ、それはまぁ……」


 僕もびっくりだ。てっきりこれからユグドラシルさんが到着するまで頑張って起きて待っていなきゃと思っていたのに……。


 ……まぁ、ローデットさんともお喋りしていたからだろうな。

 レベルアップも達成したし、これからはそこまで頻繁に教会へ来ることもなくなるわけで、また隔週で通うことになるはずで、そんなことを思ったら名残惜しくなっちゃって、それで長めにお喋りしちゃって……。そうこうしているうちに、結構な時間が経ってしまったようで……。


「まぁアレクじゃからのう。遅いのは仕方がないか」


「…………」


 違う。それは違う。別にそういうことではない。

 しかし本当の理由というのも、理由が理由なだけに説明しづらく、おまけに僕が遅いからというのも、確かに理由のひとつなのかもしれなくて……。





 next chapter:旅立ちの準備

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