第562話 ダンジョンマラソン5
ようやくユグドラビーチの改装が一段落した。
更衣室の建築が終わり、シャワー設備も整え、ビーチチェアや丸テーブルやビーチパラソルの設置も終わり、ある程度はリゾートビーチとしての体裁を整えられたと思う。
引き続き、ジェレパパさんと一緒に無限サーフボード地獄に突入しようかとも思ったが……まぁ今年の夏はこんなもんでいいだろう。ジェレパパさんもだいぶお疲れの様子だったし、他の地獄は来シーズン以降に持ち越しだ。
というわけで、ようやく僕も自分の時間が取れるようになった。
そんな僕の次なるミッションは――ダンジョンマラソンだ。
レベル40を目指し、大シマリスのフリードリッヒ君とともにダンジョンを駆け巡ろう。
今は6-2エリアにて、ホークという鳥型のモンスターと戦闘中で――
「くるっくー」
「うるせぇ、この野郎」
……おっと、いかんいかん。ついつい汚い言葉が漏れてしまった。
6-2エリアに現れるホーク。でかい
そんなホーク相手だと、どうにも冷静でいられない。
言葉も刺々しいものになってしまい、心もささくれ立ってしまう。
「くるっくー」
「うるせぇっつってんだろうが!」
おぉ……。いかんいかん、冷静に冷静に……。
落ち着いて対応すれば、本来苦戦するようなモンスターではない。冷静に立ち回ろう。
「キー」
「うん。それじゃあ射つね」
今日はダンジョンマラソンということで、フリードリッヒ君の鞍に騎乗スタイルだ。フリードリッヒ君はその場にビシッと静止してくれて、僕が弓を射ちやすいようにスタンバイしてくれた。
僕は弓を構え、矢を取り出し、いつもの「やー」という掛け声とともに、ホークへ向かって矢を放った。続けざまに二発ほど連射した。
「く、くるっくー……」
「……悪は滅びた」
うん、無事に討伐完了。
まぁこんなもんよ。心穏やかに、明鏡止水の心で対応すれば、卑怯な鳩など恐るるに足らず。
「キー」
「ありがとうフリードリッヒ君」
フリードリッヒ君はホークが倒れた場所の付近に近付き、ドロップ品を拾い、マジックバッグに回収してくれた。僕は手を伸ばしてフリードリッヒ君の首元を撫で撫でしてあげる。
「……それにしても、もうそろそろレベルが上がってくれないもんかねぇ」
「キー」
こうしてダンジョンマラソンを始めてから、なんだかんだで一ヶ月ほど経っただろうか。しかし未だにレベルアップの兆しは見えない。いったいいつレベルアップするんだろう。
案外レベル40って遠かったのかな? ひょっとすると、もう数ヶ月掛かることも考えられる……?
……というか、そもそもダンジョンマラソンの効率ってどうなんだろうね?
いや、まぁ効率がいいのはわかってるのよ。モンスターとの連戦をこなしているわけで、効率がいいのは間違いない。
僕が気にしているのは、やりようによってはさらに効率を高められるんじゃないかって話よ。
例えば今は、第2階層から第7階層をずーっとループしているんだけど、もう少し範囲を狭めてもいいのかなって考えてる。第4階層あたりから始めた方が経験値効率は良さそうじゃない?
「キー」
序盤の階層にいる弱めのモンスターは、やっぱり獲得経験値も低いと思うし……低いよね? え、低くないの? 普通はそうじゃない? 普通は低いと思うんだけど……。
んー、でも実際のところは、それもよくわからんか……。
例えば第1階層に出てくる大ネズミとか、僕的には結構しんどい相手だったりする。相棒のフリードリッヒ君とは元々同種族っぽい相手であり、微妙に精神的な負担が大きい。
このエリアのホークもそうだ。奴はあの手この手で僕を陥れようと策を巡らすため、戦闘中は毎回神経をすり減らすことになる。
そういった負担はどうなのだろう? 獲得経験値の面で考慮されているのだろうか?
「キー」
ちなみに、強さだけで言えば現在のダンジョンで一番の強敵は、7-3エリアのブルだろう。牛型モンスターのブル。
さすがに大ネズミの方がブルより経験値が多いってことはないのだろうけど、実際はどのくらいの差なんだろうねぇ。
「キー」
でもさ、やっぱりブルは良いよね。配置して良かった。牛肉美味しいです。
ブルを追加したことにより、ボアで豚肉、ホークで鶏肉、ブルで牛肉と取り揃えることができる。主要な肉類はダンジョンで賄えるのだ。とても良い。
次はホースとかいう馬型のモンスター配置しようかな。馬刺し食べたい。
「キー」
「グフッ!」
「キー!?」
痛い! 落ちてしまった! フリードリッヒ君の鞍から落っこちてしまった!
フリードリッヒ君が急に動き出したもので、ついバランスを崩して……あ、いや、急でもないのか。そういえばフリードリッヒ君は、さっきから何かしら僕に声を掛けていた気がする……。
えぇと、確か……『あ、後ろから敵が来てますね』とか言っていたかな? その後は追加で、『一旦前方に移動しますね』とか、『移動を開始します』とか、逐一僕に知らせてくれたはずだ。
しかし僕は、ぼーっと別のことを考えていたため、フリードリッヒ君の言葉を聞き流してしまい、その結果すってんころりんと鞍から転げ落ちてしまった。
というか、フリードリッヒ君の言葉によれば、後ろから敵が来ているそうで――
つまりは、すぐ後ろに鳩が迫ってきているということで――
「くるっくー」
「いたた。ちょ、やめろ」
「くるっくー」
「いたいいたい…………いてぇな、この野郎!」
卑怯だぞ! モンスターが出る危険なエリアで、ぼーっとしていてすっ転んで無様にもがいている隙を突いてくるなんて! 文字通り、隙を突いてクチバシで突いてくるだなんて! なんなのだ! なんて卑怯な鳩なんだ!
next chapter:レベル40到達
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