第560話 あまりにも意外な人選
クレイス村への旅行。誰と行こうか悩みに悩み、考えに考えた結果――
――ジェレパパのホムセンにやってきた。
「というわけで、行きましょうジェレパパさん」
「なんでだよ」
……ふむ。ちょっと話を端折りすぎたか。いろいろ順を追って話していこう。
「なんというか、最近は仕事に追われている僕なわけですが、息抜きも必要だとローデットさんが言ってくれたのです。それで、軽く旅行へでも行こうかなと」
「旅行なぁ……」
「そこで選んだ旅行先がクレイス村。何気にまだ行ったことがなかったので、ここを選びました。しかしながら僕はクレイス村の正確な場所を知らないため、案内してくれる人が必要です。そして誰と一緒に行こうか、悩んだ結果が――」
「結果が……?」
「行きましょうジェレパパさん」
「なんでだよ」
まぁまぁ、待ってくださいジェレパパさん。まだ早いですって、話を最後まで聞いてくださいな。
「そうですねぇ。僕も人選は悩んだんですけど――」
「なんで俺なんだ? アレクだし、誰か他に女でも誘って行きたいんじゃねぇのか?」
「…………」
僕をなんだと思っているんだジェレパパさん……。
「まぁ旅行を提案してくれたローデットさんには、一緒にどうですかと誘ってはみたんですけどね。しかしローデットさんには、あいにくと断られてしまいました。『私は教会の仕事があるのでー、今回は遠慮しますねー』とのことです」
「面倒だっただけだろ、あの嬢ちゃんらしいわ」
「…………」
なんてことを言うのだジェレパパさん……。僕が目をそらしていた真実を、こうも残酷に突き付けてくるとは……。
……いや、まぁいい。僕との旅行が嫌だったわけではなく、ただただ面倒だったってんなら、それは別にいいさ。
「あぁ、あと世界樹様は一緒に行こうかと言ってくれましたね」
「相変わらず世界樹様はアレクに甘いなぁ……」
「ええまぁ……。しかし後になって、世界樹様からは『やっぱりやめておく』と言われてしまいまして」
「ん、そうなのか?」
「自分が同行したらクレイス村で騒ぎになり、僕に迷惑が掛かるかもと、そんなことを心配していました。息抜きのための旅行なのにそれは申し訳ないと、なので今回はやめておくと」
「やっぱり甘いなぁ……」
「ええまぁ……」
なんかもう配慮がすごい。あまりにも思慮深い。あえて同行しないことにより甘やかすという脅威の離れ業までやってのけた。
別によかったのにね。旅行で騒ぎになることなんて、僕としては慣れっこだったのに。
「ただ、世界樹様は同行しない代わりにメイユ村からクレイス村への獣道を引いてくれました。大シマリスのジェイド君に人力車で引っ張ってもらえば、サクッと日帰りできる感じになったはずです」
「とことん甘いなぁ……」
「ええまぁ……」
溺愛とすら言える。なんかちょっとディースさんに近付きつつあるユグドラシルさんかもしれない。
「さておき、そんな感じで難航していた同行者選びですが――ふと思い出したのです」
「あん?」
「繰り返しになりますが、これは息抜きのための旅行です。しかし、よくよく考えると僕以外にも――もう一人休息が必要な人がいるなと」
「…………」
それがジェレパパさんである。真っ先に息抜きを勧めるべき人であり、真っ先に旅行に誘うべき人であった。
「我々には休息が必要です。息抜きが必要なんです」
「あぁ、確かに息つく暇もねぇくれぇ仕事してっけどよぉ……」
「ですよね、だからこそ旅行です」
「というか、俺がこうなってんのは坊主のせいじゃねぇか?」
「…………」
うん、まぁそう言われると確かにそうなんだけど……。
「いきなりいろいろ押し付けてきて、しかも毎朝毎朝回収しに来やがって……」
「ついでにダンジョンまで運んでいるだけなのですが……」
現在ジェレパパさんにはビーチパラソルを作ってもらっているのだが、僕も僕でユグドラビーチで更衣室の建築作業があるため、毎朝パラソルを回収してからダンジョンへ向かっていたのだ。
どうやらジェレパパさんからすると、変にプレッシャーを掛けられて急かされているように感じたらしい。
「――いや、でも待ってください。確かに現在ジェレパパさんは無限ビーチパラソル地獄に陥っていますが、その前の無限熊手地獄は僕のせいじゃないですよ?」
「ん? あ、そういえばそうか……。あれは別に坊主が広めたわけじゃあなかったか……」
「そうですとも」
……と言っても、ダンジョンに海岸エリアを作ったのは僕達なわけで、実際のところ、すべての元凶は僕達だったりしないでもない。
「それによくよく考えると、ビーチパラソルの方は必要数が決まっていました。全部で25個です。別に無限じゃなかったです。有限でした」
「有限なぁ……」
有限ビーチパラソル地獄だった。そう考えると、そこまでつらくはないんじゃないかな?
「しかし俺としては、坊主が言い掛けた言葉が気になってんだけどよ……」
「僕が言い掛けた言葉……? なんでしたっけ? 何か言いました?」
「坊主がビーチパラソルを頼みに来たとき、『あと……あ、なんでもないです。とりあえずビーチパラソルをお願いします』とかなんとか言ってたんだよ。『あと』って言葉と『とりあえず』って言葉が、俺としては気になって仕方がねぇ」
「あー……」
ついうっかりそんな言葉を漏らしてしまっていたか……。
この後ジェレパパさんには無限サーフボード地獄が待ち受けていることを、それとなくほのめかしてしまったわけだ……。
「まぁまぁ、気にしないでください。気の
「そうかぁ……?」
「そうですとも」
今はまだ知らない方がいいだろう。今はあえて知らせない。そんな僕の優しさ。
「で、どうですかジェレパパさん、一緒に行きませんか?」
「……あー、確かになぁ。ここ最近はチマチマ熊手やら傘やら作ってばっかだし、ちったぁ外に出るのもいいかもしれねぇな。気分転換も必要か」
「おぉ、そうですよ。行きましょう行きましょう」
そうか、行ってくれるのか。案外付き合いいいなジェレパパさん。
……いや、『案外』ってことはないか。今までも毎回いろんな地獄に付き合ってくれたジェレパパさんだ。むしろ付き合いの良さでは比類なきジェレパパさんだ。
「それで、いつ行くんだ?」
「一応予定としては明後日ですかね。その日は更衣室の建築作業がお休みなので」
「そっか。んじゃ、ジェレッドも連れてくか」
「ん? 誰ですか?」
「ジェレッドだよ。あいつも連れてくわ」
ジェレッド……。ジェレッドというと…………ジェレッド君!? あの、僕の幼馴染のジェレッド君!?
「なんと、ジェレッド君が……。良いですね。それは良い。ジェレッド君ですか。だいぶ久々な気がします」
「久々?」
「なんかもう二年くらい会っていないような印象です」
「なんでだよ……。普通にしょっちゅう二人で遊んでるだろお前ら……」
そうなんだけど、なんとなくそれくらい久しぶりの感覚なのよね……。
たぶんアレだ、それだけジェレッド君との旅行が楽しみってことなんだろう。知らんけど。
「では決まりですね。明後日はよろしくお願いします」
「あいよ」
よしよし、それじゃあ次の週末は、僕と大シマリスのジェイド君と、ジェレパパさんとジェレッド君の四人で旅行だ。なんとも意外な四人で小旅行だね!
next chapter:第一回プチ世界旅行
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