第559話 忙しい木工エルフ2


 人界のギルドと、エルフ界の教会本部は、通話の魔道具で繋がっている。

 このネットワークを利用させてもらい、僕も時々人界にいるスカーレットさんに連絡を送ったりしている。


 今もスカーレットさんはラフトの町でクリスティーナさんと一緒に活動中らしく、つまりは今もスカーレットさんはアルティメット・ヘズラトボンバーズとして活動中というわけだ。

 であるならば――連絡はこまめに取り合った方がいいだろう。パーティメンバー同士の情報共有は大事。


 というわけで、今日も教会にやってきた僕は、応接室にて通話の魔道具を借り、スカーレットさんからの伝言を確認し、僕からも伝言を送る作業をしていた。

 そこで行われた通話の内容が――


「そうなんですよ、海で取れる魚とか貝とか、そういうのも美味しいですね」


『へー、そうなんですねー。海の美味しいものですか』


 ――と言った感じで、いつも通話に出てくれる教会本部の人と、会話を交わしていた。


 ……うん、まぁ今はスカーレットさんとか全然関係なくて、ただただ教会本部の人と雑談をしているっぽくもなっているが、あくまで本来の目的は真面目な情報共有であり、真面目なパーティ活動の一環なんだ。


『いいなぁ。私海って見たことないんですよね』


「あぁ、やっぱりエルフはそういう人多いみたいですね、うちの村でも初めて見たって人が多かったです。――どうです? 今度ダンジョンにいらっしゃってみては? 海を一緒に体験してみませんか?」


 ……うん、まぁなんというか、確かにスカーレットさんとの情報共有は、一番最初に教会本部の人と『何か伝言ありますか?』『あー、今回は何もないですねー』『あ、そうですか。じゃあ何かあったらまた教えてください』といったやり取りだけで終わってしまったわけだが、一応はちゃんと真面目にパーティのことを考えて通話を始めたんだ。それは嘘じゃない。それだけは信じていただきたい。


「――さて、それじゃあ今日はこの辺りで」


『あ、はーい。また今度』


「ええはい。では失礼します」


 軽く挨拶を交わしてから、宝石箱の形をした魔道具のフタを閉め、通話を終わらせた。

 うむ。個人的には満足した。個人的には有意義な通話となった気がする。


「んん……? あ、終わりましたかー?」


「ちょうど今終わりました。すみません、なんだか長話をしてしまいまして」


「いえいえ、いいんですよー」


 通話が終わったタイミングで、ソファーですやすやとお休み中だったローデットさんが、のそのそと起き出してきた。


 一応僕としては事前に鑑定の方も済ませて、ローデットさんには『通話が終わるまで待っていなくて大丈夫ですよ?』と伝えたんだけどね。

 するとローデットさんは『そうですかー、では遠慮なく』と言って、そのままソファーで眠ってしまった。うん、まぁローデットさんがそれでいいなら、僕も別にいいけどね……。


「人界の勇者様との情報共有でしたか? 大変ですねー」


「いえいえ、それほどでもないです。それに、これはパーティとして大事なことですから」


「なるほどー、そうなんですねー」


 ふむ。今の発言を聞く限り、ローデットさんは本当にすぐ眠ってしまったらしいな。僕達の通話を実際に聞いていたなら、とてもじゃないが出てこない発言だろう。


 さておき、こうして鑑定も通話も無事に終わったわけで、ひとまず用事は済んだかな。

 ――あ、ちなみに鑑定は前回と変わってなかったです。レベルも上がっておらんかったとです。


「じゃあまた一週間後ですね」


「わかりましたー。次回はレベルアップしてますかねー?」


「あー、どうでしょうねぇ」


「アレクさん的には、もうすぐな感じなんですよね?」


「ええまぁ、そうだと思うんですが……」


 正直わからんねぇ。一応はレベルアップが近いことも考え、普段は隔週の鑑定を、一週間ごとの鑑定に変えたわけだが、果たして実際にはいつになることやら……。

 というか、そもそもの話として――


「そもそも全然レベル上げしてませんからねぇ……」


 そりゃあ僕としても早くレベルアップしたいところなんだけど、肝心のレベリングがさっぱりだ。全然やってない。ダンジョンマラソンどころか、普通の狩りすらやっていない。


「あー、確かに最近アレクさんは忙しいみたいですからねー」


「そうなんですよ。ユグドラビーチの改装で大忙しです。やっぱり更衣室は早いうちに建てておきたいので……」


 実際かなりのハイペースで建築工事を行っている。

 いつもなら建築のお手伝いは週に四日で、お休みは三日のペースなのだが、今回は週に五日働き、お休みは二日である。週休二日制。普通にガチの労働である。


 それだけ早く更衣室を建ててあげたいと僕も考えているのだ。一応シャワーだけは先に取り付けたのだが、更衣室がないのなら、それも片手落ちだろう。

 海水でベタベタしたまま高尾山に迷い込む水着姿のエルフはいなくなったが、さっぱりはしているけど水着で高尾山に迷い込むエルフはまだまだいるのだ。

 そんなエルフを救いたい。迷えるエルフを救うために、日夜奮闘する僕とフルールさんなのであった。


「んー、あんまり根を詰めすぎないようにしてくださいねー?」


「ありがとうございます」


 おぉ……。何やら普通に気遣われてしまった。

 確かに普段からのんびりしているローデットさんからすると、今の僕は働きすぎに見えるのかもしれない。


「息抜きする時間も必要だと思いますよー?」


「そうですねぇ……」


 まぁ、実はここに来ることが息抜きになっているんだけどね。ここに来るだけで十分息抜きできている。相当リフレッシュできている。


 ……しかしそうか、息抜きか。

 なんだろね? 他には何があるかな? 他に息抜きっていうと――


「……ふむ。旅行とか?」


「旅行?」


 息抜きという言葉から、なんとなく旅行を連想した。

 思えば世界旅行中の僕とか、なんならローデットさん以上にだらけている印象がある。


「んー、旅行いいかもしれませんね。行こうかな? 次の休みにでも、ふらっと旅行へ行ってきますかね」


「えっと、旅行というと、世界旅行ですか?」


「え? あ、違います違います」


 世界旅行ではないね。別に人界を旅してこようと思ったわけではない。僕が考えたのは、もっと軽めの旅行だ。


「というか、お休みは二日しかないですからね。二日じゃ世界旅行はできませんよ」


「アレクさんは、よく二日で帰ってきていたと思いますけど?」


「…………」


 確かにそうかもしれんけど……でも最近はそうでもないからね? 第四回、第五回、第六回と、三連続で二ヶ月以上旅してたからね? 最近はちゃんとしているのよ。そこは気を付けて?


「そうじゃなくて、もっと近場で――――クレイス村とかに」


「クレイス村ですか?」


「実はまだ行ったことないんですよね」


 この村から南にあるというクレイス村。ずいぶん前に移動自体は解禁されたと思ったが――ああ、ワイルドボアか。ワイルドボアを倒したとき、世界を旅することが許可され、ついでにクレイス村への移動も許可されたはずだ。

 しかしその時点で、僕の目は外の世界へ向いてしまい、クレイス村の優先順位は低いものになってしまっていた。


 ……でも、前々から思っていたんだ。なんかいきなりエルフ界を飛び出しちゃったけど、もうちょっとエルフ界にも目を向けてもいいんじゃないかって、もっと近場に目を向けてもいいんじゃないかなって、そんなことをぼんやり考えていた。

 だからいいんじゃないかな? 思い立ったが吉日。ちょいとクレイス村に行ってみようよ。


「まぁ一日か二日で帰ってくると思うので、それなりに慌ただしくて、そこまでのんびりできるわけではないかもしれませんが、良い気分転換になるかなと」


「なるほどー。いいかもしれませんね、楽しんできてください」


「はい、ありがとうございます」


 うん、なんかちょっと楽しみになってきたな。次のお休みは、クレイス村観光だ。


「あ、でもアレクさんの足だと、二日で帰ってくることは厳しいかも……」


「……ヘズラト君に乗せていってもらいますかね」


「あぁ、それなら安心ですー」


「…………」


 ……まぁいいや、何も言うまい。実際そうなのだろうよ。

 とりあえずヘズラト君に連れてってもらえば…………あれ? でも、ヘズラト君と二人でもクレイス村には着けないよね? そもそも行ったことがないのだ。場所がわからん。


 ふむ。そうなると他に助けがいるな。誰か案内してくれる人を探さないとだ。

 どうしたもんかな。まぁ誰でもいいんだけど――はて、誰と行こうか?





 next chapter:あまりにも意外な人選

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