第558話 キャッキャウフフ
引き続き、ユグドラビーチの改革案について相談する僕とフルールさん。
そして、次に候補として挙がった案が――
「やはり、更衣室は必要かと思います」
「んー、そうだね。あったらきっと便利だよね。逆に、今はちょっと不便かな」
このエリアも基本は水着で過ごすことになりそうだし、そうなると着替える場所が必要だ。
現状、このエリアに水着で来るためには、4-1湖エリアの更衣室で水着に着替え、その後3-4エリアのワープ装置で7-4エリアにワープ。それから8-1海岸エリアに移動――という手段が用いられている。
そして水着から着替えるときも、今度は逆の順番で4-1湖エリアまで移動しなければならないのだ。不便。これはだいぶ不便。
どうにも不便だし、うっかり移動を間違えて水着姿で高尾山エリアに侵入してしまうエルフも
そういった状況をなくすため、やはりこのエリアにも更衣室が必要だろう。
「では建てましょう。湖エリアと同じものを、ここにも
「了解。更衣室ねー」
そう言って、サラサラとメモに文字を書き込むフルールさん。
……よくよく考えると、なんかすごいよね。たぶんメモには『必要な物:更衣室』とか書かれているんだろう。買い物のリストをメモるような雰囲気でフルールさんは書いていたが、改めて考えるとサラッと書くような内容でもないな……。
……まぁそれを言うなら、その前にメモしたであろう『ビーチチェア50個』と『丸テーブル25個』の方もそうか。これだってサラッと書けるような物ではなかった。
大量の家具と小屋一棟。いやはや、なんだかんだで相当大掛かりな改装になってしまいそうだ。
「あとは何かな? まだ何かある?」
「あー、そうですね、では――シャワー室がほしいですかね」
「シャワー室?」
「海水はベタベタするので、洗い流すためのシャワー室が必要かと」
これは更衣室がない今の状況だと、逆に発生しなかった問題だ。
結局着替えで湖エリアまで移動しなければいけないため、今まではそこの湖で体を流し、さっぱりした状態で更衣室に入ればよかった。なので最悪シャワーがなくてもなんとかなった。
……まぁ、湖に付くまではベタベタな状態で移動をしなければいけないし、うっかり間違えたエルフが、ベタベタの水着姿で高尾山にたどり着くという事案も発生していたわけだが。
さておき、ここに更衣室を建てるならセットでシャワー室も必要だろう。シャワー室を建てればベタベタ問題も解消だ。『水魔法』や水が出る魔道具を使えばいいのかもしれないが、シャワー室の方がもっと楽に体を流すことができるだろう。
「まぁ簡単な物でいいんです。というかシャワー室じゃなくて、シャワーだけでもいいですね」
「シャワーだけ?」
「適当に柱でも立てて、そこからシャワーが出るよう魔道具を付けるだけでいいと思います」
「なるほどなるほど。水着の上からササッと流す感じだ」
「そんな感じです」
そんな感じのやつを、適当に並べて建てればいいと思う。とりあえず十本くらい? それくらいあれば十分だろう。
「あとは? まだ他に必要そうなものがあったりする?」
「ふむ。他には……どうですかね、もう十分案は出尽くした気もしますが……」
ふーむ。他に海岸で必要なものか。海岸なぁ、海岸でとなると、例えば――
「……防波堤?」
「うん?」
「テト◯ポットとか……?」
「テトラ……何?」
いや、でもいるのか? さすがにいらないんじゃないか……?
「ねぇアレク、なんの話?」
「あ、えぇと、海岸には波が押し寄せるわけじゃないですか、今も行ったり来たりしていますよね? でもあんまり大きな波が来たら危険なので、それを防ぐために海の中に壁を立てたりするらしいのですよ」
「へー、詳しいねアレク」
「いえいえ、そんなそんな」
というわけで防波堤だが……でもさ、普通に考えて必要ないよね。そんな大波が来ないようにダンジョンを設定すればいいだけだ。絶対来ない大波を対策することに、なんの意味があるというのか……。
あるいは、ここであえて防波堤を作ることにより、メイユ村のみんなに防災意識を高めてもらうとか……? 高波に対する危機意識を持ってもらうことにより――
いやいや、それすらも必要ないんじゃないか? メイユ村だぞ? そもそも海がない。一度も海を見たことがない人も多いくらい内陸の村なんだ。
……じゃあ、やっぱりいらんのか。防波堤で釣りとかできたら、それも楽しそうだったんだけどな。
そして防波堤での釣りは、危険なので規制するとかしないとかの問題が持ち上がり、ゆくゆくは釣り人と行政が揉める展開になるんじゃないかと、無駄に心配したりしていたのだけれども……。
◇
海岸エリアの改装について、大体の方針が固まったところで――とりあえず遊ぶことにした。
まぁせっかくここまで来たんだしさ。それにナナさんと来たときもそうだったけど、やっぱり実際に海岸エリアをその身で体験することも大事だと思うのよ。それでこそ見えてくる発見もあるはずなのよ。
というわけで――遊ぼう。
そう決めた僕とフルールさんは、二人とも水着に着替えてユグドラビーチまで戻ってきた。
「しかし、この移動はやっぱり面倒に感じますね」
「うん、あと水着姿でダンジョンを行ったり来たりするのも、ちょっと恥ずかしいなぁ……」
フルールさんは未だに水着が恥ずかしいらしい。
うむ。尊い。着替えた後、恥ずかしげに更衣室から出てきたフルールさんも尊いし、照れながらダンジョンを移動するフルールさんも尊かった。
そんな尊いフルールさんと――海でデート。うん、デートだよね。これはもう普通にデートなはず。
そう考えると僕もちょっぴり照れてしまう。僕もちょっぴり尊い感じになっているかもしれない。
うんうん、良いね。なんだか良い雰囲気な気がする。このままキャッキャウフフと浜辺で追いかけっこでもしたいところではあるが――
……いや、それはダメだな。僕が追いかける側でも、追われる側でも、どっちにしろ悲惨な画にしかならんと思う。
んー。じゃあどうしようかな。二人で何をしようか。
ぼんやり考えながら、波打ち際を歩いていると――
「えい」
「おぉう?」
パシャリと水を掛けられた。
「ふふ、えい、えい」
「あ、ちょ」
笑顔のフルールさんが楽しげに、パシャパシャと水をすくって掛けてくる。
一瞬戸惑ったものの、フルールさんがそう来るなら、僕としても返さなければならないだろう。
なので僕も水をすくって――
「やー」
「ふふふ、えい」
僕がフルールさんに水を掛けて、そしてまたフルールさんに水を掛けられる。
おぉ……。そうか、これは――こういうことだったのか! なるほど、楽しい! これは楽しいぞ!
ナナさんとの会話でも出てきた海での定番ムーブだが、確かに定番になる理由もわかるね! そりゃあ定番だよ! 楽しいもん!
「えい」
「やー」
というわけで、のんびりとした掛け声とともに、水をすくって掛け合う僕とフルールさん。
微妙に周りの視線を集めているような気もするが――気にしない! 知り合いとかに見られているような気もするが、気にしない! 今を楽しもう! 今を生きるんだ僕は!
next chapter:忙しい木工エルフ2
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