第553話 ここ三ヶ月の活動報告


 なんやかんやあったけど、とりあえず地道にレベル上げをすることにした。

 ユグドラシルさんからも、『さすがに今回は見れなくても仕方がない。運良くレベルアップと鑑定が噛み合ったときは連絡してくれ』とのことなので、ダンジョンマラソンでもこなしながら、地道にレベル40を目指していこう。


 そんな決意を胸に秘め、今日はダンジョンへとやってきた。

 ……と言っても、今回のダンジョン入りはレベリング目的ではなく、実は全然別の理由だったりもするのだけれど。


 とある別の目的で、僕はナナさんとともに2-1森エリアまでやってきた。

 そうして二人が辿り着いたのは――


「到着しましたね」


「うん、久々の――アレクハウスだ」


 アレクハウスである。僕が世界旅行をしている間にアレクハウスの増築工事が完了したということなので、今回ナナさんと一緒に確認しに来たのだ。


「さてさて、そんなアレクハウスだけど……まぁ外観は僕が居た頃からあんまり変わっていないかな」


 僕が旅立ったときは内装工事中で、外装工事はすでに終わっていた。なので外からの見た目はあんまり変わらない。僕自身が建築を手伝った外装だ。


「ちなみにですが、マスターの出発後、わりとすぐに完成したかと思います」


「なるほどねぇ……」


 もうすぐ完成ってとこまできてたしなぁ……。そう考えると、やっぱり僕も完成を見届けたかった気もするね……。

 でもまぁ仕方がない。世界旅行も世界旅行で大事だからね。エルフのおきてという、エルフとして達成せねばならん使命を帯びている僕なのだから、それはもう致し方なし。


「さて、それじゃあ入ろうか」


 僕はマジックバッグから玄関の鍵を取り出し、扉を開ける。

 そしてナナさんとともに中へ入ると――


「おーおーおー、ちゃんと完成しているね」


 今回の増築工事は、ゲストルームの追加を目的としたものである。

 意外と需要が高く、それでいて一部屋しかなかったゲストルームは、使いたくても使えない人が時々いたようなのだ。そのために部屋数を増やそうと計画した増築工事なのである。


 そうして増築したゲストルームの数が――五部屋。


 うんうん、しっかり完成しているね。僕が居たときには四部屋完成していて、最後の五部屋目に取り掛かっていたはずだけど、今はもうしっかり五部屋完成している。


「それにしても、ずいぶんと大きな家になってしまったね」


「そうですね。五部屋追加され、間取りとしては7LDKですか」


「7LDKかぁ……」


 元々が2LDKで、完成時には『一人暮らしで2LDKとか、広すぎて持て余しそう』などと考えていたはずが、まさか7LDKにまで増築することになるとは……。


 ちなみに現在アレクハウスにある七部屋のうち、元々あった僕の部屋――アレクルームはミコトさんに譲渡し、ミコトルームに変更された。そして元々あったゲストルームを、新たなアレクルームとして使うことになった。

 なので現在のゲストルームは五部屋。新しく増築した五部屋を、すべてゲストルームとして使うことに決めた。


「でもさ、この五部屋って判断はどうだったのかね。足りないよりは良いのかもしれないけれど、さすがに増やしすぎたかな?」


「どうでしょうね。『足りないよりは良い』と言うのであれば、むしろもっと増やしても良かったのでは?」


「ええ? これよりもさらに?」


「そんな気がします。現に今も――ご覧の通りです」


「ん? おぉ……」


 ナナさんに指摘されてゲストルームに目をやると、そのうち四つの部屋には『使用中』のプレートが掛かっていた。

 今も四部屋使用中らしい。五分の四が使用中とは、結構な使用率である。やっぱり妙に需要があるのね……。


 うーむ。この現状を見ると、確かにもう少し増やしてもよかったのかもしれない。ひょっとすると、今後さらなる増築が必要になるのかもしれない……。

 そんな調子でどんどん部屋数が増えていって、いずれは寮だかホテルだかにまで発展しそうな勢いを感じるな……。



 ◇



 ひとまずナナさんとアレクルームに移動した。

 元々はゲストルームだったこの部屋、何気に自分の部屋として使うのは初めてだ。そのため、部屋には自分の私物というものがほとんどない。テーブルと椅子とベッドはあるが、備え付けの棚などは空っぽである。


 ……というか、元々使っていたアレクルームの方にはいくつか私物があったはずなんだけどね。

 ミコトさんに部屋を貸したとしき、使えそうな物があったら使ってほしいと一緒に貸し出した記憶がある。

 それから正式に部屋を譲渡することになり、ついでに私物も正式に譲渡されたことになったのだろうか……? いや、別にいいんだけどさ……。


「さてナナさん、それじゃあ話を聞かせてくれるかな? 僕が旅に出発する前、ナナさんにはいろいろとお願いをしてしまったと思うのだけど、それらは今現在どうなったんだろう?」


 今回の世界旅行は急に決まったため、いろんな案件を大慌てでナナさんに引き継いでもらった。

 それらの案件が三ヶ月でどうなったのか、改めて報告してもらいたいのだ。


「ええはい、それは構いません。構いませんが――マスターの話も聞かせてくださいよ」


「うん? 僕?」


「マスターはどうだったのです? 旅ではどんなことがありましたか?」


「ふむ……。まぁそうだね。僕も三ヶ月間旅をしていて、それなりにいろいろと――」


 ……あれ? あったか? いろいろあったか?

 振り返ってみると、非常に怪しい。果たして僕の旅はどうだったのであろうか……。


 とりあえず移動は良かったと思う。人力車を導入してみたところ、非常に良い成果を上げることができた。その確認ができたのは良かった。

 ……しかしその移動も、運ぶのはヘズラト君であり、僕は何もしていなかった。僕は荷台で揺れているだけだった。


 そしてカーク村についてからは、さらに何もしていない。カークおじさん宅でだらだらと怠惰に過ごしているだけだった。そんな日々が二ヶ月続いた。

 その後ようやく村を出発したものの、一週間ほど荷台で揺れながらラフトの町に到着し、それからすぐさま二週間ほど荷台で揺れながらメイユ村に帰ってきた。

 そう考えると僕の世界旅行は、ほとんど何もしていない旅行ということに……。


「あー、えっと、そうだね、今回の旅は……」


「どうかしましたか? さぁさぁマスター、ここ三ヶ月間のマスターの活動を、私めにお聞かせくださいな」


「むぅ……」


 この言い回し……さては知っているな? ここ三ヶ月間で僕がどんな活動をしてきたか、さてはナナさん知っているな?


 というか、よくよく考えると僕が教えていた。旅行中はナナさんとDメールのやり取りを毎日していたので、旅の動向は僕自身がしっかり全部教えていた。

 その中でナナさんは思ったに違いない。カーク村滞在中の二ヶ月は、まったく所在地が変わらなかったわけで、そのうちに『こいつなんもしてねぇな』と思ったに違いない。

 それからまっすぐラフトの町へ向かい、そのままUターンして帰ってきた僕に対し、『こいつなんもしねぇで帰ってきたな』と思ったに違いない……。


「ひどいよナナさん、僕が三ヶ月間ほとんど何もしていないと知っておきながら、そんなことを聞いてくるなんて。あんまりだよナナさん」


「ひどいのもあんまりなのも、旅行中のマスターの行動ですけどね……」


 それはまぁ、確かに。





 next chapter:パンきとぶどう踏み

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