第552話 レベル40に向けて


 ――メイユ村に帰ってきた。

 結果としては三ヶ月か。今回の世界旅行は、三ヶ月の期間で終了することになった。


 ……ちなみにだが、家に帰ると母から『予想通りね』とドヤ顔をされてしまった。

 出発前、今回はどのくらい旅をするつもりか母に聞かれて、確か僕は『半年くらい』と答えたはずだ。それを聞いた母からは『アレクがそう言うのなら、おそらく三ヶ月くらいで帰ってくるはず』なんて言葉を返された記憶がある。

 いやいや、待ってくれ母よ。何故なのだ。なんならちょっと控えめに予想したくらいなのに、何故それよりさらに控えめな予想をするのか。――出発前はそんなふうに思っていた僕だけど、結果は三ヶ月での帰還。まさしく母が予想した通りの結末になってしまった……。


 ……まぁいいや。別にいいさ。むしろえらい。三ヶ月で帰ってきた僕はえらい。

 ラフトの町からメイユ村に帰ろうと決めた後は、まっすぐ最短で帰ってきたんだ。途中のカーク村のカークおじさん宅の誘惑にも負けず、しっかりまっすぐ帰ってきた。そんな僕をむしろ褒めてあげたい。


 とにかくそんな感じで、旅も終わって、村に帰ってきた。

 僕はみんなに挨拶をしつつ、教会にも寄ってユグドラシルさんに帰還の報告をしておいた。


 そうしたところ、翌日にはユグドラシルさんが家に来てくれて、とりあえず今回の旅の報告をしていたわけだけど――


「すまぬアレク……」


「いやいやいや、ユグドラシルさんが謝ることではないですよ」


「しかし、わしのせいでお主の旅が中断することになってしまったわけじゃろう……?」


 そう言ってしょんぼりするユグドラシルさん……。

 むむむ、予想外の反応だ……。そんなふうに謝られてしまうと、むしろ申し訳なくなってしまう。


 確かにユグドラシルさんのウッドクローで僕のレベルが上がり、こうして村に帰ることになったわけだが、それを言うなら一番の原因は僕自身だ。

 僕が余計なことを言ったりやったりした罰として、ユグドラシルさんはウッドクローを繰り出したのだ。そこに関してユグドラシルさんが謝ることなんてない。ただ単に僕が悪いんだ。


 しかも帰ってきた理由は、自分の手に負えないチートルーレットの景品を獲得したとき、ユグドラシルさんに助けてもらおうという魂胆からだ。そう考えるとユグドラシルさんが謝ることなんてない。そんな甘えた考えをもつ僕の方が悪いだろう。

 つまりは僕が悪い。総合的に考えると、なんかもう全面的に僕が悪いと思う。


「すまぬアレク……。アレクはわしに、転送される瞬間を見せようとしてくれたわけじゃろう?」


「あ、いや、それはまぁそうなんですけど……」


「――うむ。アレクよ、わしに任せよ。代わりと言ってはなんじゃが、チートルーレットに関してはわしに任せるがいい。可能な限り、お主の力になろう」


「はぁ……」


 うーむ。話の持って行き方を間違えたような気がする。なんでこんなに感謝される流れになってしまったのか……。


「えっと、これは僕自身の至らなさから起こったことであり、ユグドラシルさんが気に病むようなことではないのですが……。そもそも今回の旅は、適当なタイミングで切り上げようと思っていたところですし」


「ふむ? うむ、まぁ確かにそう言っていたが……」


 元々今回は早めに旅を終えるつもりだった。今回の第六回世界旅行でノルマを刻み、次の第七回世界旅行でエルフのおきてを達成する。そんな計画だったのだ。


「それに、考えようによっては助かりました」


「む?」


「改めて計算してみたところ、本来のペースだとレベル40に到達するのは――二十歳になった直後くらいだったはずなのですよ」


「むむ? それは……まずいのではないか?」


「ええはい、まずいことになりそうでした」


 掟のノルマが、残り一年三ヶ月で――あ、いや、今回の旅で三ヶ月消化したので、残りはちょうど一年か。

 つまり現時点で掟の達成条件は、『二十歳になる前に出発し、一年間旅をして帰ってくる』という条件になる。


 しかしこれだと、二十歳直後でのレベル40到達は非常にまずい。

 帰るわけにはいかない世界旅行中にレベル40到達。ルーレットのために帰りたいけど、掟のために帰ることができない――そんな状況だ。かなり面倒くさい事態に陥るところだった。


 だが今回の世界樹式パワーレベリングによってペースが上がり、ひとまず二十歳になる前にレベル40に到達できそうなペースに変わった。世界旅行前にルーレットを済ませることができそうなペースなのだ。

 そういう意味では助かった。世界樹式パワーレベリング様々である。


「おかげさまで、今回の世界樹式パワーレベリングにより――」


「……おかしな名前で呼ぶなというのに」


「あ、すみません」


 やはりユグドラシルさんはこの名前がお気に召さない様子。わかりやすくて良い名前だと思うんだけどな。


「えぇと、とにかく世界旅行中のルーレットも回避できそうで、僕としてはユグドラシルさんに感謝しかないです」


「ふむ。そうなのじゃろうか?」


「そうですともそうですとも。……まぁひとつ問題があるとすれば、次のレベルアップの時期が読めないことくらいですかね」


 世界樹式パワーレベリングで、どれくらい経験値が貯まったのかがわからんのよ。

 とりあえずレベル39には到達したわけだが、あとどれくらいでレベル40に到達するかが全然わからん。近いのか遠いのか、それすらわからん。


「ひょっとすると明日にはレベルアップするかもしれないですし、あるいは何ヶ月も先のことになるかもしれません」


「ふむ……」


「できたらユグドラシルさんに転送シーンを披露したいところではあるのですが……」


「うむ。できたら見たい」


 うん、やっぱり見たいことは見たいのか。じゃあやっぱり見てほしいよね。僕としても是非見せてあげたい。


「とりあえずレベル上げに勤しみながら、頻繁に鑑定していくつもりですが、さすがに毎日というわけにはいかず…………いえ、別にいいですけどね? 別に僕は毎日教会に通ってもいいのですけど」


「数ヶ月もの間、毎日教会に通うつもりなのか……」


「でもそれは、さすがにちょっと変な人だと思われてしまいそうですよね?」


「ふむ……。その点に関しては問題ないと思うが?」


「そうですか?」


 そうなのかな? というか、なんか微妙に含みを感じたのだけれども?


 さておき、どうしたものか。もうこうなったら、もっと強引な手段を使ってでもレベリングしていくべきなのだろうか……。

 やっぱり追加で世界樹式パワーレベリングかなぁ……。レベルアップするまで、延々とユグドラシルさんにウッドクローを敢行してもらう? でもウッドクローの免疫はもうだいぶ付いちゃってそうだし……。


 もしくは他の人に頼むとか? レベルが高そうな女性に、片っ端からシバいてもらうようお願いしていく感じ……?

 でもなぁ。それもちょっと変な人に思われてしまいそうじゃない? 大丈夫かな……?





 next chapter:ここ三ヶ月の活動報告

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