第484話 アダムとイヴ


 ナナさんと一緒に、セルジャン牧場を散策中――


「お、いたいた」


 ニワトリ発見。

 前方を、テトテトと歩いている。


 牧場はかなりの広さで、もしかしたら見付けるのに苦労するかと思ったのだけど、案外あっさり発見することができた。


「ふんふん。もう立派なニワトリに見えるけど、あれはどっちなのかな?」


「どっちと言いますと?」


「最初にダンジョンが生み出したニワトリかな? それとも、卵からかえったニワトリだったりするのかな?」


「おそらく卵から孵ったニワトリかと」


「ほー」


 なるほどなぁ。ダンジョンに牧場が出来て、ニワトリを生み出して、そのニワトリが卵を産んで、卵が孵って――そしてヒヨコからニワトリにまで成長したわけだ。

 すべては僕が旅をしていた間の出来事なのだけど、何やら六ヶ月という歳月の長さを感じちゃったりもする。この過程を丸々見逃したことを、ちょっと残念に思ったりもする。


 ……というか、普通に残念だな。

 一番大変だけど、一番楽しさやら喜びやらを感じられる部分だったろうに、綺麗に全部スルーしてしまった。


「ちなみにですが」


「ん?」


「最初にダンジョンが生んだニワトリは――あれですね」


 そう言って、ナナさんが指差した先には――


「ゴーレムだけど?」


 救助ゴーレムだ。救助ゴーレムがのっしのっしと歩いている。普通にさくの中を歩いているんだね。


「あのゴーレムがどうかしたの?」


「ちょっと近付いてみましょうか」


「ふむ?」


 どういうことだろう。普通のゴーレムにしか見えないが、あのゴーレムにいったい何が?

 軽く戸惑いつつも、僕は言われるがままナナさんと一緒にゴーレムに近付いていく。


「ふむ。やっぱり普通のゴーレム…………んん?」


「気付かれましたか。そうです、あれです」


「なんか肩に……」


 近くで見て、ようやく気付いた。一羽のニワトリが――救助ゴーレムの肩に乗っていた。


「あれはいったい……?」


「何やら乗って移動するのが好きらしいです」


「……そうなんだ」


 なんかもう、『そうなんだ』としか言えんな……。そうなんだね、好きなんだね……。

 えっと、まぁいいと思うよ? よくわからないけど、それでニワトリ君が楽しいならいいと思う。


「ちなみにアレは――オスのアダムです」


「うん?」


「名前です。最初に誕生したオスとメスのつがい、オスの名前はアダムにしました」


「……もしかして、メスはイヴだったりする?」


「その通りです」


「そうなんだ……」


 それはまた、大層な名前を付けたもんだね……。

 まぁシチュエーション的にはあっている名前なのかもしれないけど……。


「なんとなくリンゴとか与えてみたりしました」


「やめなさいな」


 いや、いいんだけどさ。与えてもいいけど、そんな不穏な想像をしながら与えるのはやめなさいな。


「ちなみに、イヴはどこにいるんだろう?」


「どうでしょうね、なにせ牧場は広いですから。おそらくゴーレムに乗って牧場のどこかを移動中だと思いますが」


「夫婦揃ってゴーレムに乗るのが好きなんだ……」


「たまに一体のゴーレムの右肩と左肩に乗って移動とかしています」


「シュールだなぁ……」


 だいぶシュールな画に思える……。

 ……そして、両肩に乗られたゴーレム君は果たして何を思うのか。


 そんな感じでナナさんと会話をしながら、ゴーレム君に乗るアダム君をぼんやり見守っていると――


「ココ?」


「ん?」


「ココ」


 おお、なんか目が合った。

 アダム君がこっちを見て――


「コケ!」


「え? うお! おおぉぉ!」


 ちょ、何を――!

 ……おぉ? おん?


「ココ」


「おぉう。……びっくりした」


 アダム君がいきなりこちらへ飛びかかってきたもので、びっくりしてしまった。

 6-2エリアでホークとかいうはとに襲われたときのトラウマが蘇ったぞ……。


 さておき、とりあえずアダム君は僕に危害を与えるつもりなんてなかったようだ。

 現在アダム君は――僕の肩で静かにたたずんでいる。


「ほうほう。人の肩に乗るのは珍しいですね」


「あ、そうなんだ?」


「もしかしたらマスターがマスターだと、おぼろげに感じているのかもしれません」


「へー?」


 僕がダンジョンマスターだから? そんなこともあるのかな? そんな感じで、ちょっと懐かれている?


 ふーむ。だとすると、いつか僕も両肩にアダム君とイヴちゃんを乗せて歩く日が来るのだろうか?

 想像すると、やっぱりだいぶシュールな見た目になっちゃいそうよね。あと、肩とかこりそう。今も右肩に乗せていて感じるのだけど、そこそこ重量あるなアダム君。


 でもまぁ、それで二羽が喜んでくれるなら構わないさ。懐いてくれているのなら悪い気はしないし、こうして触れ合っていると、なんだか可愛らしく思えてきた。なんだかなごむ。なんだか癒やされる。同じ鳥だけど、あの卑怯な鳩とは大違いだ。


 そんなことを思いながら、試しにアダム君を乗せたまま、軽く牧場内を歩いていると――


「ココ」


「お?」


「ココ」


「あ、行ってしまった」


 アダム君は僕の肩から飛び降り、そのままトテトテとゴーレム君の方へ歩いていってしまった。

 そしてバサバサと飛び上がり、再びゴーレム君の肩まで駆け上がった。


 むぅ。何やら少し寂しい……。

 そして、ちょっぴりゴーレム君に嫉妬してしまう。何故僕よりもゴーレム君を選んだのか。僕の乗り心地が悪かったのだろうか。やはりゴーレム君の方がよかったのだろうか。


「遅かったからでしょうか」


「…………」


 ……まぁそうなのかもしれないけどさ。

 でもさ、そこは別にいいじゃないか。別にどこかへ向かっているわけでもないのだから、ゆっくりでもいいじゃないか……。





 next chapter:セルジャンシステム

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