第475話 畜産農家セルジャン
久々の我が家で、久々に家族と再会。僕は六ヶ月ぶりに、父や母やナナさんとの再会を果たした。
……うん、そうだよね。なんだかんだで、もうすっかりナナさんも家族だよね。きっと父や母からしてもナナさんは娘的な存在で、おまけに僕からしても娘的な存在だ。
ちなみにだが、そんな関係を察したのかなんなのか――なんとレリーナノートでもナナさんは三角判定だったりする。
レリーナちゃん曰く――
『んー。お兄ちゃんとナナの様子を見ていると、なんか違うような気がするんだよねー。案外大丈夫なような、そうでもないような……。わかんないから三角で』
――とのことだ。
そう聞いて、僕としても安心できるような……そうでもないような。改めてレリーナちゃんの洞察力は並外れたものがあると感じ、そこがまた少し恐くもあり……。
さておき、そんな家族を前にして、いろいろと積もる話もあるわけで、いろいろと旅の話も聞いてほしい。
――だがしかしその前に、ちょいと確認しておかねばならないこともある。
世界旅行中から気になっていたこと、その詳細を僕は父に尋ねた。
その結果――
「……え、やめてないの?」
「うん。普通に狩りもしているよ?」
「あ、そうなんだ……」
僕が父に尋ねたのは、牧場のこと。
僕達がダンジョンに作成した牧場エリアにて、なんでか父が運営することとなってしまった牧場の経緯について、まずは確認させてもらった。
そうして話を聞いていくうちにわかったのだが――父は狩人としての生活も普通に続けているらしい。
おかしいな……。僕がナナさんから聞いた話とはちょっと違うのだけど……。
そう思って、僕が隣にいるナナさんにチラリと視線を送ったところ――
ナナさんは、こくりと小さく
『こくり』じゃないよ。いったいどうなっているんだナナさん。
ナナさんがDメールで『お祖父様が牧場を始めました』『畜産農家になりました』みたいなことを僕に伝えてきたんじゃないか。
「んー、てっきり完全に転職したものかと」
「一応今も狩人のつもりだけど……」
「なるほど、じゃあ
「兼業……? 兼業といえば兼業なのかなぁ……。どっちかっていうと、やっぱり普通に狩人のつもりだけれど……」
ふーむ。そういう感じなのか。
とりあえず、よかったのかな? 僕達の軽率な行動で父の生活を一変させる事態にならなかったと、喜ぶべきことなのかな?
まぁナナさんからのメールでは、父も牧場運営をそこそこ楽しんでいるという話だったし、それなら完全に転職しちゃってもいいのかなって、ちょっぴり思っていたのだけど。
……実際のところ、別にそれでいいし、それで何かが変わることもないのよね。父が狩人でも畜産農家でも、たぶん僕達の生活ってあんまり変わんない。
なにせ我が家はお金に不自由していない。僕がいろいろ作って売っているってのもあるけれど、それを抜きにしても、わりと裕福だ。
おそらくだけど、父と母が森の勇者パーティ時代に活躍して、ひと財産築いたのではないだろうか。
それがあったからこそ、僕が木工作品の権利で大きな収入を得ても、僕達の生活は変わらなかった。
だからまぁ、父が狩人を続けるにしても、畜産農家に転職するにしても、なんだったら『これからヒップホップで食っていこうと思うんだ』と言い出したとしても、僕としては応援する所存なわけで――
「でもさ、アレクは――」
「うん?」
「なんで牧場のことを知っているの?」
「え? なんで? なんでって……」
……あ、いかん。そういえばそうだった。
牧場の件は、僕が旅行中に起こった出来事だ。帰ってきたばかりの僕が知っているのは、本来おかしなことだった。
えぇと、まいったな。これはどうしたものか……。
「アレク?」
「あー、その、だからつまり、それはなんというか……」
困った……。僕が困って、ひとまず助けを求めるようにナナさんへ視線を送ると――
ナナさんは、こくりと頷いた。
……さっきから、なんなんだそれは。
とりあえずナナさんは当てにできない。自分でなんとかせねば。
「つまりは……あれだよ。やっぱり親子だから、わかるもんなんだよ」
「え?」
「親子の
「えぇ……?」
僕の言葉を聞いて、父は困惑している。
うん。だいぶ無茶な答弁だと僕も思う。しかし何も思い付かなかったもので、とりあえず親子の絆に掛けてみたのだけれど……。
ちなみに隣のナナさんは――首を横にふるふると振っていた。
頷けや。こんなときばっかそんなリアクションか。
「んー。もしくは……風の噂?」
「噂……?」
「噂で聞いた感じ?」
「え、僕が畜産農家になったって、人界で噂になっているの……?」
……なんだったら、その噂はむしろ僕がばら撒いたような気もする。
いろんな人に
「そういうわけで……あ」
「ん?」
「そういうわけじゃなくて、実はレリーナちゃんから聞いたんだ」
「レリーナちゃん?」
「ついさっき偶然レリーナちゃんと会ってさ、それで父の話を聞いたんだ。父が牧場を始めたって」
「ああ、そういうことか。え、じゃあさっきの絆とか噂がどうってのは――」
「いやー、レリーナちゃんから聞いたときはびっくりしたよ。いきなり父が畜産農家だからね。畜産農家セルジャン。びっくり」
「う、うん……」
いやはや、最初からこう伝えたらよかった。
ちなみにだが、レリーナちゃんから話を聞いたというのも事実だったりする。取り調べ後、この話題が出たのだ。
「あ、それでレリーナちゃんも父の牧場を手伝っているって聞いたけど?」
「うん、そうなんだよね。一応は僕が始めたダンジョンの牧場なんだけど、レリーナちゃんも手伝ってくれているし、ナナさんやミコトさんも手伝ってくれているんだ」
「へー」
というわけで、話題に上がったナナさんへ視線を移すと――
うんうんと頷いている。『こくり』ではなく、どことなく誇らしげに頷くナナさん。
……いやいやナナさん。そもそも僕とナナさんで作ったダンジョンの牧場エリアだからね? 僕達が
というかダンジョンのニワトリって、最初は誰も手が出せず、それでナナさんとミコトさんが世話をしていたって話を聞いた気がするのだけど?
それを面倒くさがったナナさんが、上手いこと父を誘導して、畜産農家セルジャンを生み出した説を、未だに疑っている僕もいるのだけれど……?
「で、えーと、ナナさんとミコトさんとレリーナちゃん?」
「そうだね。毎日助かっているよ」
ふむふむ。まぁナナさんは元凶だからね。それはやっぱりさすがにね。
そしてミコトさんか。ミコトさんはダンジョンに住んでいて、距離も近いから手伝いもしやすいのかな?
というか、久々にミコトさんとも会いたいね。召喚獣の身でありながら、かれこれ六ヶ月ほど一人暮らしをしているミコトさん。元気だろうか? ちゃんと生活できているのだろうか?
……そして最後にレリーナちゃん。
レリーナちゃんは、どうなのかな……? 牧場を手伝うことに、何かしらの隠された意図がありそうな気もするが……。
「みんな手伝ってくれるし、そもそもやることもあんまりなくてさ、だから狩人としても普通に活動できているんだ」
「あー、そういう感じなんだ」
結構暇な感じなのかね?
でもまぁ、今日からは僕も手伝う予定だ。やっぱり僕も元凶の一人なわけで、責任もってニワトリの世話をしにいくつもりである。
そんなことを思いつつ、同じく元凶のナナさんへ視線を移すと――
なんかウインクされた。
……ここへ来て、新しいリアクションだな。いまいち意味はわからないけれど。
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