第463話 優勝するスカーレットさん


 僕が薬草採取で獲得したギルドポイントは、10ポイントであった。

 10ポイントである。寵児ちょうじなのに10ポイント。たったの10ポイント……。


 ――いや、まだだ。まだわからん。

 なにせ基準がわからんからな。もしかしたら、これでも法外なポイントなのかもしれん。

 普通は薬草採取といえば1ポイントくらいだというのに、僕の場合は寵児ボーナスで10ポイント――そういう可能性も捨てきれない。


 そんなことを考えながら、僕はみんなにポイントのことを報告した。

 果たして僕の10ポイントは、適正なのか否か――


「10ポイントプラスされていました」


「ふーん? まぁそんなもんだろうな」


「……なるほど」


 ……適正らしい。

 至って適正なポイントを、僕は手に入れたらしい。


「どうかしたか?」


「……いえ、なんでもありません」


 まぁなんというか……うん、良かった。これで良かったんだ。


 むしろ嬉しいね。やっぱりディースさんは、ルールに厳格で不正を働くような人ではなかった。そのことを確認できて嬉しい。

 なんだったら、僕も本心では不正なんて望んでいなかった。だから良かった。この結果に満足だ。僕はとても満足しているとも。いや、本当に。


「ふむ。試しに私も確認してみようかな」


「スカーレットさんもですか?」


 むむ。確かにそれもちょっと気になる。どうなんだろう?


「同じパーティで活動したわけで、やっぱりポイントも同じになるんですか?」


「いや、その辺りはバラバラだね。個々の活動に応じたポイントが入るはずだ」


「ほうほう。となると、スカーレットさんは僕よりも多くポイントを獲得したのでしょうか?」


「たぶんそうだろうね。採取した薬草の量でいえば私が一番だろうし、おそらくポイントも一番入っているはずだ」


「なるほど」


 まぁ代わりに、ただの草とかもかき集めてしまったスカーレットさんだが……。

 とはいえ、さすがにそれで減点ってこともなかろう。


「えーと、とりあえず下三桁を覚えておけばいいかな」


 自分のカードを取り出して、現在のポイントを確認するスカーレットさん。

 ぶつぶつと数字を繰り返して、ポイントの下三桁を暗記している。


 ……何気にスカーレットさんが現在所持しているポイントも気になるな。

 どんなもんなんだろう? 超高ランク冒険者のスカーレットさんはどのくらいのポイントを集めていて、どれだけポイントを貯めたら、あのブラックカードを取得できるのか。


「では更新っと。――ふむふむ?」


「どうでした?」


「22ポイント増えていたね」


「ほー」


 ほうほうほう。ダブルスコアを付けられてしまったか。

 結構差が付いたな。スカーレットさんはそれだけたくさん薬草を集めたということか。

 一応今回の依頼で貰った報酬は五等分しようという話になっているのだけど、こうなると少しスカーレットさんに申し訳なく感じる。


「キー」


「おや、そうなのね? ――ヘズラト君は8ポイントだそうです」


 スカーレットさんが確認作業を進めていた横で、ヘズラト君も自分のギルドカードを確認していた。ヘズラト君のポイントは8ポイントとのことだ。

 ヘズラト君は一本一本丁寧に採取していたから、おそらくそれで採取した薬草も獲得したポイントも、控えめなものになってしまったのだろう。


 ……はて、あるいはヘズラト君ならば、こうなることも予想していた?

 僕を立てるため、あえて少なめの本数に抑え、ポイントも少なめに抑えようとした可能性が……?


 いやいや、まさかな。如何いかにヘズラト君といえど、さすがにそこまで読んでいたとは……。


「んじゃアタシも調べるか」


「……もしかして私も?」


 続いてクリスティーナさんがカードを取り出し、何やら微妙に気が進まなそうなジスレアさんも渋々カードを取り出した。


 まぁジスレアさんはそこまで熱心に薬草を探していなかったし、ポイントもだいぶ低めなはずだ。

 そんな二人の獲得ポイントが――


「アタシは16だな」


「5ポイントだった」


 クリスティーナさんが16ポイントで、ジスレアさんが5ポイント。

 ふむ。意外とジスレアさんも稼げていた印象。しかしそれよりも気になるのが、クリスティーナさんの16ポイント。


「結構高いですね。クリスティーナさんもあまり薬草を採取していなかったと思いますが、野生の大ネズミを討伐したポイントでしょうか?」


「それもあるんだろうけど――たぶん薬草採取をアレク達に教えた依頼の方だな」


「あぁ、なるほど」


 僕がお願いした薬草採取の指導依頼、そのポイントが入ったわけか。


「たぶんだけど、薬草採取と大ネズミ討伐で6ポイントくらい。指導の依頼で10ポイントくらいじゃねぇかな?」


「指導が10ポイントですか……」


 なるほどねぇ……。なかなかに興味深い結果だ。

 指導依頼では結構な報酬を支払っている。今回採取した薬草と、討伐した大ネズミの肉の報酬をすべてひっくるめても、クリスティーナさんへ払った報酬額に及ばない。

 しかしそれでも10ポイント。どうやらギルドポイントは、依頼の報酬額と比例しているわけではないようだ。


 ――さておき、これで今回みんなが獲得したポイントが判明した。

 僕が10ポイント。スカーレットさんが22ポイント。ヘズラト君が8ポイント。クリスティーナさんが16ポイント。ジスレアさんが5ポイント。という結果であった。


「ということは、つまり――私だな」


「はい? 何がでしょう?」


「今回一番ポイントを集めたのは、私」


「あ、そうですね、スカーレットさんですね。おめでとうございます。スカーレットさんが優勝です」


「ふふーん。優勝」


 そう言って、胸を張るスカーレットさん。

 まぁそこまで栄誉あるものかは定かじゃないが、薬草集めを一番頑張っていたのは間違いないし、とりあえず優勝を称えてもいいんじゃないかなって――


「――待ってほしいアレク」


「はい? どうしましたジスレアさん?」


「勝負だとは知らなかった。そんな騙し打ちみたいな形で結果だけ伝えられても、少し納得がいかない」


「はぁ……」


「それならそうと、最初に言ってほしかった」


 そう言われましても、最初からこんなことを考えていたわけでもなく……。というか、そこまで栄誉あるものでは……。


 えぇと、じゃあ……みんな優勝ってことにしますか?

 みんな頑張ったから、みんな優勝。運動会で手をつないでゴール方式に……。


「まぁまぁ、落ち着くんだジスレア」


「私は落ち着いている。ただ少し納得がいかなかっただけで――」


「いくら自分が最下位だったからって、そうダダをこねるものじゃない」


「…………は?」


 おぉぉ……。

 ピリついた。今、相当空気がピリつきましたよ?


 なんてことだ……。初めての薬草採取依頼も終了し、無事にパーティ解散の危機を乗り越えたと思ったのも束の間、新たな解散の危機が今ここに……。





 next chapter:一週間に一度、膝小僧をつつかれに来る、半ズボンをやめられない世界樹の仮面の変態

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